地平線の彼方に

 初版: 10.03. 2005 追加: 07.09. 2007  

(最新の追加情報はここをクリック。速報はサイトトップページでも記載します)

いよいよ、冥王星へ向けて探査機が打ち上げられる。

太陽系の9惑星のうち、いまだ探査機が接近したことのない惑星・冥王星。かつて、この惑星の素性と、探査計画の状況を簡単にまとめたことがある(こちら)。冥王星探査計画は当時極めて流動的で、関係者とファンをハラハラさせたが、その後具体的な計画が立ち上がり、探査機の製造も進められ、今や最終仕上げの段階まできた。ここではそのミッション「ニュー・ホライズン計画」と、そこへ行き着くまでの道筋をまとめてみよう(画像はハッブル宇宙望遠鏡で撮影された冥王星。詳細は下の方の追加情報・06.11.2005を参照)。


冥王星は地球から道は遠い。地球から約50億キロ…これは、探査機でも最速10年はかかる距離だ。しかし、探査機の製造にゴーサインが出るまでの道のりは、同じくらいに長かったかもしれない。

それは技術や時間の問題ではなく、予算との戦いだった。

90年代末、NASAは「プルート・カイパー・エクスプレス」と呼ばれる冥王星探査計画を練っていた。これは2004年に探査機を打ち上げ、約10年後の冥王星到達を目指していたが、コストが当初の見積りの650万ドルから倍の1500万ドルに膨れ上がることが判明した時点で破棄された(2000年・夏)。当時のNASAはゴールディン政権下で緊縮予算が続いており、一体何が得られるかわからない探査計画よりも、火星探査など、テコ入れが急務とされたミッションへ金を回す作用が働いたと言われる。

冥王星探査に投入されるはずだった予算は、土星探査のカッシーニ・ホイヘンス計画に回された。

余談だが、ゴールディン長官は肥大気味だったNASAの予算をスリムにすべく、「より早く・より良く・より安く」をスローガンに改革を進めていた。それは一定の成果をあげたものの、しかし、火星探査機を立て続けに失うという形で歪みが露呈した。とすると、そのような状況下でムリな予算で冥王星探査を押し通していたとしても、ひょっとしたら失敗していたかもしれない。

計画破棄に対する研究者達の反発は強かったが、塞翁が馬だが、結局それでよかったのかもしれない。


2001年6月、NASAは突如、2つの冥王星探査計画の存在を公にした。それは“Pluto and Outer Solar System Explorer”および “New Horizons”で、同年4月に絞られていた5つのプランから更に絞り込まれたファイナリストだった。

一度は破棄された冥王星探査であったが、NASA内部の推進派は強かった…2000年年末、再度プランを公募し、その中から最も理想的なものをチョイスする研究会が続いていたのである。

2つのプランの内容には、殆ど大差がなかった…違いがあるとすれば、参加組織であろうか。以下、主な参加組織・企業を示すと… (NASA News release June 6, 2001(01-114) による)


・ Pluto and Outer Solar System Explorer (POSSE)

NASAジェット推進研究所(JPL)、ロッキード・マーチン・アストロノウティクス、マリン・スペースサイエンスシステムズ、ボール・エアロスペース、カリフォルニア大学

・ New Horizons

ジョン・ホプキンス大学応用物理研究所(APL)、ボール・エアロスペース、スタンフォード大学、NASAゴダード宇宙センター、JPL


こうして眺めて気付くのは、ボール・エアロスペース社とJPLは両者に関わっていることか。ボール社は撮像装置の製作を担当し、JPLは勿論、飛行管制を担う。また、この序列に意味が込められているのかどうかは定かでないが、関係あるのであれば、POSSEはJPLとロッキード・マーチン社が主導で、New Horizonsはジョン・ホプキンスが主導と読める。

両者には45万ドルの資金がNASAより提供され、今後3ヶ月間かけて、更なるプランの発展が要求された。具体的にはナビゲートプロセスや探査機の設計といった、ミッションデザインの精密化である。

ただ、進展状況はニュー・ホライズンの方が優位に立っていたようで、2001年11月には内定があり、2003年4月上旬、NASAは正式なゴーサインを下した。「打ち上げに向けて本当に動き出したのは、まさに今だ。もう残り3年を切っている。とても興奮しているよ」と、APLのプロジェクトマネジャー、トーマス・コーリン氏は語った。

筆者は感じるのだが、当時、雰囲気という名の“風”は、APLの方に向いていたのだろう。APLは既に彗星探査機・メッセンジャー(現在飛行中)を請け負っており、その組み立て最終段階を迎えていたのだ。NASAとしてもマネジメント力に安心感があったかもしれない。


ところで、冥王星探査計画が具体的に動き出した2001年末の段階では、NASAの2002年会計年度に該当予算は盛り込まれていなかった。議会は、予算審議が始まるまでは計画を先に進めてはならないと釘を刺した。しかし、当時、ゴールディン政権の予算管理にずさんさが見いだされたこと、惑星探査には金をかけないと成果が得られないことなどが追い風となった節はあり、議会はこの計画のために、3000万ドルの予算を可決した。ニュー・ホライズンに内定したのは、この予算可決の直後である。

ただ、火星探査機の連続失敗が星条旗に傷をつけた衝撃は大きかったと思う。プルート・カイパー・エクスプレスが1500万ドルの見込みで打ち切られたのと極めて対照的なのは、このショックもあったのではなかろうか。

2002年10月8日、1億500万ドルの追加予算が議会に計上され、翌週、議会で可決された。この時NASAは、当初予算150億ドルに追加として3億ドルを計上していた…NASA全体が資金的にもブーストされつつあったと言える。

しかし、2003年はNASAにとって大きな試練の年となった。そう、同年2月3日、スペースシャトル・コロンビアが墜落したのだ。

NASA全体が、いや、アメリカ全体がチャレンジャー爆発事故(1986)以来、再びどん底に突き落とされた瞬間だった。全ての力が事故の原因究明と再発防止に向けられることになったが、これは予算にも大きく現れることになった。

同年初秋、翌年の予算審議において、NASAの惑星探査全体を含む「ニューフロンティア予算」の1億3000万ドルのうち、5500万ドルの大規模削減が議会で提案された。削減分がシャトル関連に回されるのは言うまでもない。しかもこの5500万ドルという金額は、ニュー・ホライズン計画で2006年までに必要とされる関連予算のほぼ全額に等しい。「この削減はミッション全体を崩壊させかねない規模のものだ」と、関係者は語っていた。

だが、事態は一変した。国際宇宙ステーション(ISS)の運用削減(滞在人員2名とする、など)や他の惑星探査計画の予算を削減する一方、ニュー・ホライズン計画の分は回復されたのである。まさに“綱渡り”、という言葉が相応しい。

きっと、議会を説得する、ねばり強いロビー活動もあったと思う。「冥王星」というと、どうしてもウケが悪かった以上、折角ついた希望の火を消すわけにはいかなかった…関係者達の飽くなき情熱に、議会も揺り動かされたのだろうか。

以後、今日まで、開発は順調に進められてきた。2004年秋には、ボール・エアロスペース社が担当している撮像装置「ラルフ」の開発の遅れが懸念されたが、2005年4月、完成にこぎ着けている。ラルフはこのミッションで最も重要なパーツの1つであり、開発が大幅に遅れることで打ち上げが延びていたら、最悪の場合、冥王星到達が4年もずれ込むことになりかねなかったという。


ここで、ニュー・ホライズン計画のデザイン(タイムライン、飛行経路、探査機)の概要を眺めてみよう。

打ち上げ予定
2006年1月11日〜2月14日の間(1st ウィンド)。ないしは、2007年2月2日〜15日の間(2nd ウィンド)。

打ち上げロケット:(右画像)
第1段・アトラスVロケット、第2段・セントールロケット、第3段・スター48B固体ロケットモーター

アトラス・シリーズは極めて信頼性の高い、最も強力な打ち上げロケットの1つ。探査機自体の重量は約465kgと軽い方で、これを強力に打ち上げるため加速も強く、発射の9時間後には月軌道(地球から約38万km)を通過する。アポロが3人を乗せて月へ行くのに4日かかったのと比べると、その速さがわかる。

朝、打ち上げのニュースを見たとする。夕方家に帰り、「ホライズンはどこへいった?」と尋ねたら、「もうとっくに月を飛び越えたよ」という返事が返ってくるだろう。

コース
1stウィンドの1月11日から2月3日の間に打ち上げられた場合、木星に接近、重力アシストを受け加速するが、2月4日〜15日の間であれば、直接冥王星を目指す。また、2ndウィンドの場合は直接冥王星を目指す。

            

2006年1月中に打ち上げられた場合(上図・Launch)、最初の13ヶ月間は探査機の各種器機のチェック、キャリブレーション及び軌道修正と木星接近のリハーサルが行われる。

2007年2月25〜3月2日の間に木星へ最接近、重力フライバイを通して軌道の修正と増速を行う(Jupiter System)。最接近時の探査機の速度は時速75200kmで、かつて土星探査機・カッシーニが木星へフライバイした際よりさらに4分の1の至近距離を通過する。なお、打ち上げから13ヶ月足らずで木星へ接近するのは史上最速。

その後、冥王星到達までの約8年間、孤独な飛行が続く(Interplanetary Cruise)。その間、定期的なチェックと軌道修正、観測器機のキャリブレーションや冥王星接近リハーサルなどが行われる。

冥王星到着は、打ち上げ時期によって大きく異なる。木星のアシストを受けた場合、2015〜17年の間で、直接向かった場合は2018〜20年の間と予定されている。

打ち上げ時に小学1年生だった子供は、探査機が冥王星に到着するときには高校1年生なのだ!

仮に最速プランで飛行した場合、冥王星接近時の軌道は以下のようになると予定されている。

     

探査機の軌道は右下から左上に伸びる赤いライン。冥王星は“Pluto”で、その衛星シャロン“Charon”の軌道は水色で描かれている。2015年7月14日12時20分、冥王星へ最接近(距離11095km)し、その14分後、シャロンへ最接近(26700km)をする。この間地表の画像や温度、大気の計測などがタイムテーブルに従って行われる。

13時10分過ぎには地球から見て冥王星の背後へ探査機が回り込むが、この時得られた電波伝搬データは、冥王星大気に関する情報を与えるものと期待されている。

なお、冥王星系の観測は最接近の4ヶ月前から始まる。最接近1ヶ月前からは毎日観測が始まり、最接近後も2ヶ月間にわたり観測データのダウンロードが続けられる。

その後、「カイパーベルト」と呼ばれる太陽系外縁の物理状態などの観測を行いながら、孤独な飛行を続けることになる。

探査機本体:(右図)

姿勢制御用の燃料を込めた全重量は465kgで、これは探査機としては軽量なほう。特徴的なのは直径2.1mのパラボラアンテナ(REX)と、黒い、グリップのように見える原子力電池。以下、各機器を簡単に眺めてみよう。


最も重要な観測装置が「ラルフ」(Ralph)と呼ばれる撮像装置。これは高解像度のカラー画像を得ることができ、冥王星と衛星シャロンの表面を撮影するのが目的。

「マルチスペクトラル・ヴィシブルイメージングカメラ」(MVIC)及び「リニア・エタロン・イメージングスペクトラルアレイ」(LEISA)と呼ばれる2系統の光学センサーから成り、直径6cmの望遠レンズが天体を捉え、像をセンサーに誘導する。

なお、MVICは可視光を4種類のフィルターを通して捉え、LEISAは赤外波長で対象を捉えるセンサー。LEISAは表面の温度分布や物質分布の分析に重要なデータを与える。


「アリス」(Alice)

紫外線波長域で対象を撮影するセンサー。冥王星大気の分析を主に担うことになっている。







「レックス」(REX)

地球とのデータ通信を担うための直径2.1mのパラボラアンテナ。上述したが、冥王星の背後に回り込んだ際にシグナルを発し、その伝搬を地球で捉えることで、大気の構造を調査することにもなっている。




「ロリー」(LORRI)

長さ20.8cmの望遠撮像装置で、表面のより細かい状態を可視光でクローズアップする(鏡筒は機体内)。極めてシンプルなデザインになっており、フィルターも可動部も持たない。探査機の冥王星最接近時、機体全体を動かしてこの望遠カメラが振り向けられ、すり抜け際に表面を撮影、解像度100mが期待されている(上の最接近時の軌道図では、ロリーを振り向けた機体の姿がきちんと描かれている)。

単純に言えば、レーシングカーに乗りアクセル全開で、コース脇の観客の顔を誰でもいいから撮影するのと似ている。

「スワップ」(SWAP)

太陽から常時流れ出る“太陽風”と呼ばれるイオン流を観測するセンサー。太陽系外縁における太陽風の振る舞いはまだ詳しいことがわかっておらず、それらの研究に重要なデータをもたらすものと考えられている。また、冥王星の磁場の存在有無、冥王星大気上層のエスケープ率(大気が外宇宙へ拡散していく割合)なども調査することになっている。


「ペプシ」(PEPSSI) 

この飲料メーカーのような名前の観測器機は、拡散大気の中性原子などを観測し、それらが太陽風とどう反応しているかなどを調査する。

最後に、「SDC」という観測器機は、特筆すべきものである。これはコロラド大学の学生チームが作り上げたもので、冥王星までの道中における太陽系空間のダストを計測していくもの。太陽系空間の細かい微粒子の分布もまだよくわかっていない部分が多く、それらの解明のヒントとなるデータをもたらすものと期待されている。

そして、これらの科学器機を稼働するための電力部として、原子力電池が搭載されている(図)。これは酸化プルトニウムのペレットを詰めあわせたもので、それが発する熱を熱電対(熱を直接電力に変換する装置)に加えて発電する仕組みになっている。火星から外の領域では太陽光は極めて弱いため、太陽電池は役に立たない。この原子力電池はパイオニアやボイジャー、木星探査機ガリレオ、土星探査機カッシーニなどにも搭載されているもので、年数で言えば約40年の歴史がある。

原子力電池は原理は単純だが、しかし、プルトニウムを用いるということで世間でもしばしばやり玉にあげられ、カッシーニの打ち上げの時などはちょっとしたデモなども行われたほどだった。「もし打ち上げに失敗したら、地上に降り注ぐことになるのでは」という懸念が世間ではあるからだ。それ故NASAもこの電源に関しては極めて神経質であり、その構造と安全基準は情報公開を行っている。詳細をこちら
http://pluto.jhuapl.edu/spacecraft/power.php)で閲覧することができる。


ニュー・ホライズン探査機の打ち上げは、予定通りに進めば2007年1月11日に行われることになっている。冥王星の姿が明らかになるのはそれから約10年後だが、その時はメディアも大きく扱うことだろう。それまでの間、関係者やファン以外は、完全に忘れ去っているのは間違いない(下・開発に関わっているチームの代表メンバー2004年11月 詳細はこちら

              

しかし、それが10年も前に打ち上げられたのだということを改めて思い知らされるとき、人々が感じる印象や感慨はどのようなものであろうか。百科事典を大幅に書き換え、書き足すことになる新発見も続くだろうが、時の流れや技術の粋、関わった人たちの情熱、生活が大きく変化しているであろう一般の宇宙ファン達の日常などなど、一言では言い表せないヒューマニズムも強く振り返らせるものとなるに違いない。「SDC」の開発に関わった学生達などには、第一線で活躍する研究者になっているものもいるだろう。

このような、掛け値なしの歴史の創造が、まもなく始まろうとしている。

【Reference】
New Horizons 公式サイト http://pluto.jhuapl.edu/


【以下、冥王星&カイパーベルト小天体に関する追加情報です。下に行くほど古くなります】

2007年1月以降のニュースログをこちらのページに記載しています

<追加情報 11.28. 2006>

冥王星探査機「ニュー・ホライズン」が、自身の目標である冥王星の撮影に成功した。同探査機による冥王星の撮影は初めて。

撮像を行ったのは搭載されている望遠撮像センサー「ロリー」(LORRI)で、9月21日から24日にかけて行われた光学ナビゲーションテストの間に撮影が試みられた。データはメモリーに保存され、最近、地球にダウンロードされた。

     

冥王星はこの時、探査機から42億キロの距離にあり、周辺に写る無数の恒星に埋もれている。撮影は間隔を開けて3度行われ、動いていることをもって冥王星と判断された(上)。これは、クライド・トンボーが冥王星を捜索していたときと同じやり方である。

この距離ではまだまだ冥王星は“点”であるが、目標をきちんと追いかけ、撮像する能力が立証されたことで、チームは喜びを揚げている。

「このごちゃごちゃしたフィールドから冥王星を見つけ出すのは、本当に骨の折れる作業でした。」と語るのは、ミッション責任者のアラン・スターン氏。「トンボーは、我々が彼と同じやり方で冥王星を識別したことに、鼻高々でしょうね。しかし、ロリーはデジタル画像ですから、トンボーが嗅いだ現像液の嫌な臭いはありませんでしたが」とジョークを交えて語る。

一方、ロリーを開発したジョンズ・ホプキンス応用物理研究所のハル・ウィーバー氏は「ロリーはこの撮像テストで大成功を収めました。冥王星は、ノイズレベルの30〜40倍も高く検出されたのです」と喜ぶ。

「ロリーをキャリブレートした我々にとっては、その能力は今更驚くことでもありませんが、しかし、ロリーが打ち上げと宇宙空間飛行に耐え、そのパフォーマンスに劣化が見られないことは非常に嬉しいことです」と語るのは、ロリー担当責任者のアンディ・チェン氏。「目下、来年1月から2月にかけて通過する木星の撮影が楽しみなところです」

スターン氏によると、木星を通過後、ロリーを冥王星観測に使う予定だという。「これから最接近までの数年間、ロリーで冥王星の光度を観測し、位相曲線を得る予定です。これは地球での観測では得られないものです。」このデータは、冥王星の表面状態を推測するのに有益な情報となる。詳しくはこちらへ【New Horizons 11.28】

<追加情報 09.26. 2006>

冥王星探査機「ニューホライズン」は今月4日、最後にフタが解放された撮像装置「ロリー」にて木星の試写を行ったが、その画像がリリースされた。

ロリー(LORRI)は「長距離望遠撮像センサー」(Long Range Reconnaissance Imager)といい、冥王星最接近時に表面の状態を強拡大で撮影する。可動部分はない、機体固定タイプのごく簡単な造りになっている。

    

探査機は現在、木星から2億9100万kmの地点にある。来年2月には木星の傍をフライバイする予定になっており、そのときにはもっと詳細な画像が得られるものと期待されている。

「ロリーが撮影したファースト・ジュピターは、驚異的なものですよ」と語るのは、ニューホライズン計画に携わる、ジョンズ・ホプキンス応用物理研究所のハル・ウィーバー研究員。 「ニューホライズンは木星に向かって時速45000マイルで飛行しており、来年2月28日には再接近を行います。そのときロリーは現在よりも125倍も鮮明な、また、カッシーニ探査機のフライバイ(2000年)やガリレオ探査機の最後の画像(2003年)で得られた時以来の画像が得られることを楽しみにしています。」と語る。

現在、探査機はアステロイド・ベルトを抜けつつあり、また、太陽−探査機−木星がほぼ一直線の位置関係(衝)にある。そのため木星はひときわ明るく捉えられるが、露出オーバーを防ぐため、ロリーのシャッターは6ミリ秒に押さえられた。これで得られた今回の画像は、ロリーがそのような高速モードでも安定した性能で撮像できることを証明してもいる。

(上の画像で、衛星「エウロパ」と「イオ」が木星本体に写っているが、おのおのの影も衛星と重なって写っているのは衝だから。)

ロリーは今後、年明けの木星接近まで、同惑星を撮影することはない。
「ニューホライズンは木星へのスペクタクルなフライバイへ向けてまっしぐらですね」と語るのは、ニューホライズン計画主席研究員のアラン・スターン氏。詳細と大きい画像はこちらへ【New Horizons 09.26】

国際天文学連合(IAU)が冥王星を惑星から除外する決定をしたことを受け、関連する記述のある教科書の出版社全社(9社)が、07年春に配布する教科書を訂正することが分かった。太陽系の惑星数を減らしたり、惑星のイラストから冥王星を外す。3社が文部科学省に訂正を申請済みで、残りも近く申請する。同省も承認する見通し。

文科省によると、冥王星を惑星として扱っているのは中学理科の「第2分野下巻」と高校の「理科総合B」「地学1」。中学は5社、理科総合Bは8社、地学1は5社が出版。重複を除くと、出版社は9社になる。

中学教科書の訂正申請をした大日本図書は、惑星数を九つから八つにし、惑星の大きさを比較するイラストから冥王星を外した。「来春の配布に間に合うよう、訂正版の印刷を早く始めたい」(編集第2部)と話す。

同じく中学教科書の学校図書は、冥王星を惑星ではない太陽系の天体として紹介することにした。訂正は10カ所になる。

高校教科書も同様の訂正がされる。ただ、冥王星の除外に合わせて導入された「矮(わい)惑星(仮訳)」や「太陽系小天体(同)」など用語の和名を日本学術会議や日本天文学会が決めるまであと半年かかる見込みで、今回の訂正には間に合わない。

このため、高校教科書を出版している実教出版は「太陽系の天体を詳しく記述している地学1は、和名が決まった段階で再度訂正したい」と話す。【毎日 09.18】

<追加情報 09.13. 2006>

国際天文学連合(IAU)は13日、これまで「ゼナ」(Xena)の愛称で呼ばれていた矮惑星「2003UB313」およびその衛星に正式名称を与えた。

2003UB313の正式名称は「(136199)エリス」(Eris)、その衛星には「ダイスノミア」(Dysnomia)となった。

この「エリス」という名は、同矮惑星の発見者の一人であるマイケル・ブラウン博士により提案されていたもの。

エリスとは、不協和と紛争を司るギリシャの神。彼女は嫉妬深く、羨むこと甚だしく、人々の間に戦いと怒りをもたらす存在であったとされる。アキレスの両親となるペレウスとテチスの婚姻の際、エリス以外のすべての神が招待されたのだが、それがエリスの逆鱗に触れ、神々の間に紛争を引き起こし、まもなくそれがトロヤ戦争へとつながったとされている。

ちなみにエリスの衛星であるダイスノミアは、エリスの娘で、混沌と紛争の神とされる。詳しくはこちらへ【Spaceref/IAU 09.13】

<追加情報 09.05. 2006>

惑星から除外されて話題になっている冥王星をより知ってもらおうと、文化パルク城陽のプラネタリウム(京都府城陽市寺田)がこのほど、観測写真を投影した特別解説を始めた。「肉眼では見えない星。プラネタリウムで親しんでもらえれば」と話している。

冥王星は、8月24日の国際天文学連合の総会で太陽系惑星から除外された。これを受け、「どの方角に見えるのか」「プラネタリウムで解説しているか」と市民から問い合わせが相次ぎ、プラネタリウムが同日から急きょ解説を始めた。

解説は、プログラム「今夜の星空」の冒頭で冥王星を詳しく紹介。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した冥王星の写真などをスクリーンに投影し、惑星から除外される理由となった他の惑星に比べての小ささなどを、図も映して分かりやすく説明している。

他の星座の紹介も含めて30分の番組のため、冥王星に割く時間は5分ほどだが、話題の星だけに来館者の評判は上々。24日まで続ける予定。【京都新聞 09.05】

ミャンマー占星術師協会は、国際天文学連合(IAU)が冥王星を惑星から除外したことに関し、「冥王星は占星術において伝統的に惑星と定義されており、その地位に変わりはない」との見解を発表した。4日発行の週刊ニュース紙「ミャンマー・タイムズ」が伝えた。

ミャンマーは占星術が盛んな国として知られ、軍事政権がヤンゴンから中部ピンマナへの首都機能移転を決めたのも占星術師の占いが大きく作用したといわれている。

同協会は「軌道が大きな冥王星は国の将来を占ううえで重要な役割を果たしてきた。科学者がどのような決定をしようと、伝統を消し去ることはできない」としている。【毎日 09.05】

天文学者の国際組織「国際天文学連合(IAU)」が冥王(めいおう)星を太陽系惑星から「格下げ」するよう決議したことを受け、国内の教科書出版社が、来年度に配布される理科の教科書の内容を訂正する方針を決めたことが分かった。

決議が社会的に反響を呼び、訂正しなければ教育現場に混乱が生じると判断したとみられる。

訂正が必要になるのは、中学3年生時に使用する「第2分野下巻」と、高校で使用する「理科総合B」「地学1」の教科書。文部科学省によると、中学では5社、高校では5社が販売している。

教科書の訂正は同省の承認が必要なため、各出版社は訂正部分と訂正後の表現について詳細を詰め、今月中旬にも同省に訂正申請を提出する。【読売 09.05】


<追加情報 09.01. 2006>

順調に飛行を続ける冥王星探査機「ニューホライズン」に搭載されている望遠カメラ「ロリー」のキャップが展開され、そのテスト撮影が行われた。対象はM7散開星団であったが、“ファーストライト”の成果は非常に素晴らしいものであった(下)。

     

「ロリー」は不用意に太陽の方向を向くことで生じかねないセンサーの破壊を避けるため、充分に太陽から遠ざかるまでキャップが閉じられたままだった。これで、同探査機に搭載されている7つの科学器機が全てオン、かつ、良好に動作している状態になった。

「ロリーはニューホライズンに搭載された、我々の“鷹の目”であり、最も解像度の高いショットを撮影してくれるものです。」と語るのは、同ミッションの主席研究員であるサウスウェスト・リサーチ・インスティチュート(SwRI)のアラン・スターン氏。

「このファーストライトで示された性能は、全ての冥王星ファンにとって最高のニュースですね」

予めオンボードコンピュータに設定されていたコマンドに従い、8月29日午前2時40分(米東部時)、探査機はロリーのキャップを展開した。その5分半後、ファーストライトが撮影された。データは午前11時に受信され、キャップが正常に展開していること、それに、望遠カメラがきちんと撮像していることが確認された。

撮影されたM7には、12等級の恒星までクリアーに写っており、これはロリーの感度とノイズレベルが打ち上げ前のキャリブレーションに一致していることを意味しているという。

今月4日には、来年2月28日に通過する木星の画像を撮影する予定になっている。詳しくはこちらへ。【New Horizons 09.01】

で、そのアラン・スターン氏のIAUに対する回答が・・

国際天文学連合(IAU)が惑星の定義を新たに作り、冥王星を惑星から除外して「矮(わい)惑星」と位置づけたことに対し、米国の科学界から異論が出ている。学者有志が反対署名を集め、米国天文学会の部会も異議を唱える声明を出した。

米航空宇宙局(NASA)で冥王星探査機「ニューホライズンズ」の責任者を務めるアラン・スターン博士らは、定義が採択された翌日の8月25日から、インターネット上で反対署名を呼びかけた。30日に締め切るまでに、米国内の惑星科学者、天文学者ら約300人が署名したという。

ニューホライズンズは8月24日まで「惑星探査機」だったが、新定義の影響で「矮惑星探査機」となった。

署名の呼びかけ文は「我々はIAUの定義に同意できず、使わない。よりよい定義が必要だ」と訴えている。そして、IAUには1万人近い会員がいるのに、採決に参加したのはわずか400人余りだったと指摘し、09年の次回総会まで放置すれば、教育や社会を混乱させると主張した。

UPI通信によると、スターン博士は来年、天文学者ら約1000人を集めて、代わりの定義を作るための会議を開こうと計画している。

一方、米国天文学会の惑星科学部会(約1300人)は30日、「使っている用語の意味が学術的にあいまいだ」と新定義を批判する声明を出し、IAUに改善を求めた。

新定義は、委員7人からなる定義委員会が2年かけて検討した。IAUが公表した8月16日時点の原案は、惑星を従来の9個から12個に増やす内容だったが、1週間の議論を経て、惑星を8個とし冥王星を除外する最終案が採択された。定義委員の一人だった渡部潤一・国立天文台助教授は「幅広い意見を踏まえて作った原案が、議論を経て否決されたことでも分かるように、手続きは民主的に進んだと思う」と話している。【毎日 09.02】

…その反対声明と集まった署名一覧はこちらで見ることができます。冥王星探査ミッション「ニューホライズンズ」の主席研究員(ミッション責任者)であるアラン・スターン氏の動向は気になっていたのですが、やはりこのような“回答”で打って出たとは。氏は冥王星への思い入れ、発見したクライド・トンボーへの敬意は格別ですから、真っ先に反対を出されるとは思いましたが・・。スカイアンドテレスコープ誌も関連記事を記載しています(こちら)。

<追加情報 08.26. 2006>

国際天文学連合(IAU)が太陽系惑星から冥王星を除外する決定を受けた余波は各方面に広がっている。対応に追われる各地の科学館には夏休み中の子どもらが押しかけ、スタッフは対応に追われた。CDなど関連商品の売れ行きも好調だ。

日本科学未来館(東京都江東区)には同日、約6000人が来館した。昨年の夏休み中の最終土曜日に比べ2倍で、太陽系の惑星の模型の前は見学者が途絶えなかった。鈴木潤子・広報グループリーダーは「しし座流星群ブーム(01年)、田中耕一さんのノーベル賞受賞(02年)などに匹敵する盛り上がり」と話す。 同館は25日からはホワイトボードに「さようなら冥王星!」と掲げたが、「なんで惑星でなくなったの?」などの質問が次々にスタッフに飛んだ。

父親と訪れた埼玉県所沢市の小学4年、森中春絵さん(9)は、「せっかく惑星の名前を全部覚えたのに残念」。

同館では冥王星に関する展示の仕方を今後検討するが、鈴木さんは「世界観が変わるようなできごとだった。これを機会に、多くの人に科学のものの見方に興味を持ってもらいたい」と話す。

大阪市立科学館(大阪市北区)は、太陽系惑星の模型「惑星大きさくらべ」を常設展示しているが冥王星の下には、「冥王星は惑星に分類されないことになりました」と張りだした。主任学芸員の渡部義弥さんは「来場者の関心が高まっている。冥王星そのものがなくなったわけではないし、太陽系などについて掘り下げて話せるいいチャンス」と歓迎している。 佐賀県立宇宙科学館(武雄市)は、太陽系を紹介するコーナーに冥王星の説明パネルがあるが、国立天文台のホームページから今回の決議文の日本語訳を入手し、A4判2枚で掲示。惑星除外の決定を報じた新聞記事を来館者が閲覧できるようにした。

プラネタリウムで星空の解説をしている多摩六都科学館(東京都西東京市)では、近日中に冥王星問題をどう子どもたちに説明すべきか、スタッフの間で話し合うという。高柳雄一館長は、「冥王星はなくなってしまうと思っている子どもたちもいる」と正確な説明の必要を感じている。

子どもの疑問に答えるNHKラジオ第一の人気番組「夏休み子ども科学電話相談」にも、冥王星についての質問が続いている。1日平均約150件の質問のうち、冥王星関連は25日が10数件、26日も2、3件あった。

関連商品の動きも急だ。クラシックの名曲、ホルストの組曲「惑星」。ここには冥王星が含まれていない。作曲時に未発見だったためだが、2000年に英国の作曲家コリン・マシューズが「冥王星」を作っており、東芝EMIが23日、冥王星付き「惑星」のCDを発売したばかりだ。

HMV渋谷店によると、このCDはベルリン・フィル演奏ということで以前から話題だったが、「惑星から除外」の報道を受けて売れ行きは上々で、急きょ、追加注文した。同店は「お客様の反応はすごい」と満足そう。

ジュンク堂書店池袋本店では、天文関係の書籍売り場に新聞の切り抜きを掲示。一般読者の関心が高まっているとみて、冥王星に関する特集コーナーも検討している。【毎日 08.26】

IAU総会に日本代表として出席した海部宣男元国立天文台長は24日の会見で、教科書の記述変更は08年度以後とするよう、日本学術会議として政府に要望する考えを表明した。すでに政府には非公式に打診している。

IAUは同日の全体会議で「冥王星は惑星ではない」と正式に決定したが、矮惑星など新たな概念の正式な和名を決めるには「半年程度は必要」になるという。07年度の教科書作成の締め切りは目前に迫っており「冥王星の記述だけを記載すると教育現場が混乱する」(海部氏)と判断した。

今後、日本天文学会、日本惑星科学会を中心に考えをまとめ、08年度以後の教科書に反映するよう作業を続ける考えだ。【毎日 08.25】

<追加情報 08.24. 2006>

IAU総会での評決の模様(冥王星の降格が決まった瞬間?)↓決議事項などについてはこちらへ【photo: IAU】

      

冥王星を惑星から矮(わい)惑星に格下げした国際天文学連合(IAU)総会の新定義採択は、米国でも関心が高く、メディア各社は24日、「プルート(冥王星)はもはや惑星ではなくなった」(CNN)などと報じた。ただ、航空宇宙局(NASA)は「定義に関係なく、科学的に興味深い天体の探査を続ける」との声明を発表しており、探査計画には直接的影響はなさそうだ。【時事 08.25】

毎日新聞に、松本零士さんのコメントが出てます↓

▽アニメ「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」では、冥王星は敵の前線基地が置かれたり、人間の墓地として利用されるなど、太陽系の重要な惑星として描かれた。

原作者である漫画家の松本零士さん(68)は「冥王星こそが太陽系の果てで、そこを離れることが太陽系から外宇宙に旅立つことだと描いてきた。今回の決定は、論理的には正しいのだろうが、多くの人が少年のころから抱いていた夢、心情的なものにも配慮してほしかった。心構えができていないうちに突然決まってしまった感じがする」と残念そう。そのうえで「冥王星はこれからも太陽系の一族だ」と強調し、存在感が低下しないよう何らかの形で配慮してほしいと訴えている。

▽観山正見・国立天文台長の話 他の八つの惑星とは形成過程が明らかに違う冥王星が惑星に入らなかったことは、適切な結果だ。冥王星がなくなったわけではなく、残念に思う話ではない。今回の議論の内容を国民の皆さんに正確に伝えていきたい。詳しくはこちらへ【毎日 08.25】

チェコのプラハで総会を開いている国際天文学連合(IAU)は最終日の24日、全体会議で惑星の定義案を議決し、冥王星を惑星から外す最終案を賛成多数で採択した。これにより、太陽系の惑星数は現在の9個から8個となる。全体会議に出席した約1000人の科学者全員が投票し、歴史的問題の決着を図った。

可決された定義は、太陽系惑星を(1)自らの重力で球状となる(2)太陽を周回する(3)軌道周辺で、圧倒的に支配的な天体――と定義した。水星から海王星までの八つが惑星となる。軌道周辺に同規模の天体があり、3番目の条件を満たさない冥王星は、惑星から外れた。

冥王星を惑星として存続させる主張も根強く、水星から海王星までの八つを「古典的惑星」とする一方、自らの重力で球状となるが、軌道周辺で圧倒的ではない天体を惑星の一種の「矮惑星」と位置づけることで、冥王星を惑星の地位にとどめる対案も提出されたが、否決された。

また、惑星の定義案とは別に(1)冥王星を海王星以遠にある天体群の典型例と位置づける(2)その新天体群の名称を「冥王星系天体」と呼ぶ――の2案も合わせて採決した。

観測技術の進歩で冥王星周辺で新天体の発見が相次ぎ、「惑星とは何か」を巡る議論が盛んになったため、IAUは2年前に惑星の定義づくりを始めた。惑星を専門とする天文学者には最終案支持が多かったが、冥王星の社会的認知度を重視する人々など、他分野の専門家にはさまざまな見解があり、複数の案を提示して決着を図った。【毎日 08.24】

チェコのプラハで総会を開いている国際天文学連合(IAU)は最終日の24日、午後2時(日本時間午後9時)から開く全体会議で、惑星の定義案を審議する。冥王星を惑星からはずす最終案に支持が集まる一方、異論もあり、最終調整に手間取っている。冥王星を惑星として存続させる対案を上程する動きもある。総会に出席している約2500人の科学者全員による投票で決着を図る。

最終案は、太陽系惑星を、自らの重力で球状となる天体▽恒星(太陽)を周回する天体▽軌道上で圧倒的に大きい天体――と定義した。水星から海王星までの八つの天体を惑星とし、この条件を満たさない冥王星は惑星から外れる。

一方、冥王星存続派は、水星から海王星までの八つの天体を「古典的惑星」とする一方、冥王星など水星より小さい天体を「矮(わい)惑星」と位置づけるものの、惑星としての地位を保つ案を提案する可能性が強い。冥王星周辺には、冥王星より大きい「2003UB313」などの天体があり、同案可決の場合は、惑星の数は現在の9より増えるだけでなく、科学技術の進歩に伴い、将来はさらに惑星数が増えることが確実となる。

惑星を専門とする天文学者には最終案支持が多いが、他分野の専門家にはさまざまな見解があり、一本化が難しい状況だ。【毎日 08.24】

ますます混迷が・・結局、2案を提出ということですか・・

惑星の定義で大詰めの交渉が続く国際天文学連合(IAU)のロナルド・エカース会長は23日、総会開催中の当地で、本紙との単独会見に応じ、24日午後にも予定される採決で、太陽系の惑星数に関する決議案を2案提出する方針を示した。

IAUは、冥王(めいおう)星を惑星から降格させ、惑星数を水星から海王星までの8個とする方向で最終調整を進めていたが、様々な意見に配慮して、冥王星を含め11個を惑星とする案も諮る。

いずれも冥王星を「矮小(わいしょう)惑星」と位置付けるが、11個案ではこれも惑星に含まれる。2案並立で採決の行方は不透明になってきた。

エカース会長によれば、「8個案」では惑星は8個に限定し、冥王星などの矮小惑星と区別し、「11個案」は、8惑星と、冥王星などの「矮小惑星」をまとめて惑星と総称するという。【読売 08.24】

太陽系惑星の新たな定義制定を目指す国際天文学連合(IAU)総会の評議委員会(理事会に相当)は23日、惑星数を8個にとどめる定義案とともに、惑星数拡大に道を開く定義案の双方を24日の投票に掛ける方針を固めた。

会議筋が明らかにした。冥王星の「降格」による惑星数削減案への対抗案を上程することで、歴史的な惑星の新定義について総会メンバーに二者択一を迫る狙いとみられる。両案が投票に付される結果、表決の行方は一段と不透明となる。【時事 08.24】

<追加情報 08.23. 2006>

今日、国際天文連合(IAU)総会での投票で、先日から話題となっている「惑星」の増減が決まりそうですが、昇格の可能性がほぼ無くなった(?)小惑星「セレス」(ケレス)について簡単にまとめました↓

画像は、NASAのハッブル宇宙望遠鏡が2003年12月から04年1月にかけて撮影したセレスの姿で、約2時間半に渡る変化を追ったもの(明るい点の動きで自転がよくわかります)。ハッブルはこの期間に267ショットを撮影し、セレスの自転や形状、表面の状態を可能な限り詳しく観察しました。

      

セレスは1801年に発見された、最初の小惑星。火星と木星の間に存在し、直径は約930km。約9時間で自転し、このハッブルの観測により、全体的なフィギュアはほぼ球形であることがわかりました。またこのことから、内部は地球などと同様に、層構造をなしているのではないかと推測されています。

これまでに得られた情報を基に、セレスは岩石の核を持ち、氷を含んだマントルと、薄い外層を有している可能性が高いことが示されています。最近では、セレスの25%が水(氷)でできているのなら、この量は、地球に存在する淡水の総量よりも多いことになることも指摘されています。

なお、画像中の明るく輝くスポットの詳細はわかっていません。ちなみに、このセレスに探査機を飛ばして観測を行うミッションがNASAによって進められており、ミッション名を「ドーン」(Dawn = 暁)といいます(公式サイト)。探査機はセレスの他に「ベスタ」という小惑星にも接近するもので、来年夏の打ち上げが予定されています。ただ、このミッションはロングジャーニーで、ベスタ接近は2011年、セレスは2015年と、大がかりなものになる予定です。

余談ですが、ドーン・ミッションは今年初め、NASAの予算削減の煽りで打ち切られようとしました。。

(最新情報では、冥王星の降格の可能性が大…いよいよ、フタを開けるまでわからなくなりましたね。投票の直前に雰囲気が変わる可能性もありますし。。)

チェコのプラハで総会を開いている国際天文学連合(IAU)は22日、惑星の定義案を大幅に修正、冥王星を惑星から外す最終案をまとめた。この結果、太陽系の惑星数は、現在の九つから八つに減る可能性が出てきた。同日昼の公開討論会で、原案を微修正して3分割した案を提示したが、反対論が相次いだため抜本的な修正に踏み切った。23日も細かい表現などの最終調整を続け、24日午後の全体会議で採択を目指す。

最終案は、太陽系惑星の定義を「太陽の周りを回り、自らの重力で球状となる天体」とする当初案を継承したうえで「軌道上で圧倒的に大きい天体」という新たな項目を付け加えた。

冥王星は、より大きい海王星と軌道が一部重なるうえ、03年に発見された「2003UB313」など同等規模の天体が周辺にあるため新たに加わった項目を満たさず、惑星から外れることになった。当初の定義案では惑星に昇格する予定だった小惑星セレスとUB313も、同様の理由で惑星とはみなされない。

冥王星やその周辺の天体は惑星とは異なる「矮惑星(わいわくせい)」と位置づける。ただし、「冥王星系天体」などの名称を与える案を作り、惑星の定義案とともに2案を総会に提案する。22日に示した修正案では、冥王星と冥王星の衛星「カロン」を二重惑星とする案も示したが、冥王星が惑星でなくなることから廃案とした。

同日の公開討論では、「軌道面からの考察が足りない」などの科学的な反論に加え、「政治的すぎる」「提案が唐突で手続きが民主的ではない」といった意見も相次ぎ、提示した3案とも否決が確実となった。3年後の次回総会への先送りも検討したが、「今回の会議で決定しなければIAUの権威が失墜する」(会議筋)と判断した。【毎日 08.23】

<追加情報 08.22. 2006>

チェコのプラハで開かれている国際天文学連合(IAU)総会が先に公表した惑星の定義案について、その修正内容が21日分かった。原案を3分割するというもので、それぞれについて、最終日の24日の総会で採決される。ただ、水星から海王星までの8惑星を「古典的惑星」とし、冥王星や小惑星の「セレス」などを「矮(わい)惑星」として区別するなど原案の骨格はほぼ維持されており、採決では太陽系の惑星数が少なくとも二つ増える可能性が高まった。

定義案に異論が相次いだため修正作業が進められていた。内容は「恒星の周りを回り、自らの重力で球状となる恒星でも衛星でもない天体」と惑星を定義したうえで、(1)「古典的惑星」と「矮惑星」を区別する(2)冥王星と、その周辺にある矮惑星「冥王星族(プルートン)」の名称を変える(3)冥王星の衛星とされた「カロン」を二重惑星として認定する――の3提案に分割。22日に開く討議で矮惑星の名称を決めたうえで、24日の総会で3案をそれぞれ投票にかけ承認を求める。

会議筋によると、1、2番目の提案は可決の可能性が高いが、3番目の決議には賛否両論があり微妙な情勢だ。3案に分割したことについて同筋は「ごく一部の部分への反対を理由に定義案全体が否決されるのを防ぐため」と説明している。

三つの提案が承認されれば、「セレス」「カロン」と米研究チームが03年発見し冥王星より大きい「第10惑星」と話題になった「2003UB313」の3天体が新たに惑星となり、太陽系の天体数は12となる。3番目の提案が否決されれば、「カロン」が衛星にとどまるため惑星の増加数は2となる。

冥王星と周辺の矮惑星の名称は、当初「プルートン」とする案が提示されたが、「言語学的におかしい」「深成岩を示す地質学用語と混同される可能性がある」などの指摘が相次いだため、22日の討議で意見を集約することになった。【毎日 08.22】

<追加情報 08.21. 2006>

太陽系の惑星の定義案について審議している天文学者の国際組織「国際天文学連合」(本部・パリ)は21日、定義案の修正に着手した。

プラハで開催中の同連合部会で、専門家から異論が相次いでいるため。定義案は24日に開く総会で採決にかけられるが、原案の変更が必至の状況となった。

定義案は、惑星は自己の重力で球形を作り、恒星の周囲の軌道を回る天体――とするもので、この案が採択されると、惑星は、現在の9個から12個に増えることになる。

部会に参加している国立天文台の研究者などによると、定義案が提出された16日以降、惑星科学の専門家などから、「単純に大きさと形だけで決めるべきだ」「明るさを表す等級(絶対等級)で決めるべきだ」などと批判が集中。「定義は必要ない」といった意見さえも出ている。定義案で示された「冥王(めいおう)星族」という惑星の新分類法にも、大多数が反対しているという。【毎日 08.21】

…以前ゲストブックでも書かせていただきましたが、冥王星の進退問題はもやは、感情論ですよね。。私は、小さい頃から慣れ親しんだ現行の9個でお願いしますと言いたいです^^;

<追加情報 08.16. 2006>

国際天文学連合(IAU)の委員会は16日、惑星の定義について原案を公表した。

原案に基づくと太陽系惑星は現在の9個から12個に増える。これまで惑星には明確な定義がなく、冥王(めいおう)星が含まれるかどうかについては長年の議論があった。

原案はプラハで開かれている同連合総会で審議され、24日の投票で結論が出る。

定義による惑星の条件は、自身の重力によって球体を形作るのに十分な大きさで、恒星の周囲の軌道をまわるというもの。直径800キロ以上が目安だ。惑星の衛星は対象外だ。

太陽系では従来の9惑星に加え、冥王星の衛星とされていたカロン、米航空宇宙局(NASA)が2005年に「第10惑星」と発表した「2003UB313」、火星と木星の間に位置する最大の小惑星セレスが条件にあてはまる。【読売 08.16】
              

…この話題に関する、国立天文台のコラム(アストロ・トピックス)はこちら。細かい定義などの解説があります。国際天文連合による公式リリースはこちら。上はIAUによる比較図。

<追加情報 06.29. 2006>

順調に飛行を続けるNASAの冥王星探査機「ニューホライズン」に搭載されているダストカウンター(右)は、コロラド大学の学生が製作したもの。NASAのミッションで学生製作の装置が搭載されるのも初めてのこと。

ところでそのダストカウンターにこのほど、正式な名称が与えられることになった。ニューホライズンは7種類の観測装置を搭載している。6つには「ロリー」や「ラルフ」、「ペプシ」といった名前が付けられているが、ダストカウンターには「SDC」(ステゥーデント・ダスト・カウンタ)と、まんまの呼び名がついていた。

その名は「ベネチア」。75年前、トンボーが発見した新惑星に「冥王星」と名付けた少女ベネチア・バーネイ・ファイールさんに由来する(右)。オックスフォード出身の彼女は当時11歳。「ゼウス」「クロノス」「ミネルバ」などなど、提案が乱立する中、彼女のいう「プルート」が皆の関心をひいたと言われる。ギリシャ神話でプルート(冥土の王)は、ジュピター(木星)、ネプチューン(海王星)、ジュノー(小惑星)の兄弟で、サタン(土星)の3番目の息子。

「とてもビックリしました。まさか観測装置に名前が付くとは」と語るのは、今だご健在で、御歳87歳のベネチアさん。「冥王星にこれまでずっと関心が寄せ続けられ、また、探査機が送り込まれることになろうとは、当時はまったく想像もつきませんでしたよ」と語っている。詳しくはこちらへ【New Horizons 06.29】

<追加情報 06.23. 2006>

今年1月、ハッブル宇宙望遠鏡で小惑星「2002CR46」を観測した観測チームは、同小惑星が連星をなしていることを発見した。この小惑星連星、大きい方は差渡1300km程度で、小さい方はロードアイランド州(米国北東部)程度。

この小惑星は「ケンタウルス族」と呼ばれるグループに分類される小惑星の1つで、火星・木星間のアステロイドベルトや、海王星の外側のカイパーベルトの小惑星とは大きく異なった軌道を持つことで知られる。

それは、巨大ガス惑星に度重なる接近を繰り返し、不安定な軌道をなしている。2002CR46は天王星と海王星に接近を繰り返し、その潮汐力によって引き裂かれたと見られている。

アステロイドベルトやカイパーベルトの小惑星には連星をなすものが多数見つかっているが、ケンタウルス族の小惑星で連星をなしているものが確認されたのは今回が初めて。

“連星ケンタウルス小惑星”2002CR46の存在は、“連星彗星”の存在の可能性を示唆するものでもある。つまり、核が2つ存在する彗星だ。殆どの短周期彗星(周期が200年以下)がカイパーベルトからケンタウルス軌道へ遷移することで形成されると考えられているためだ。もし連星ケンタウルス小惑星が、ガス惑星との度重なる接近にも耐え、連星を維持していたなら、未来には、連星彗星にならなくもない。

通常、多くの彗星はガス惑星との接近、もしくは激しいジェット放出によりバラバラに壊れていく…例えば最近では、シュワスマン・ワハマン第3彗星が恒例だ。だが、小惑星センターのブライアン・マースデン氏は「天文学者は今だ、連星で誕生した彗星を知らない」と、そのような彗星の存在は否定できないことを語っている。詳しくはこちらへ【S&T 06.23】

<追加情報 06.22. 2006>

昨年5月に発見された冥王星の2つの衛星の名前が、正式に決定された。国際天文連合(IAU)によって承認された。

    

その名は「ニクス」(Nix)と「ヒュドラ」(Hydra)。「IAUの決定はとても嬉しいですね」と語るのは、新衛星発見チームの一人であり、また、NASAの「ニューホライズン」ミッション主席研究員でもあるアラン・スターン氏。両衛星は冥王星の5000分の1の輝き。

2つの新衛星にはこれまで仮符合「S/2005 P 1」、「S/2005 P 2」がつけられていたが、それぞれが「ヒュドラ」、「ニクス」と正式命名されたことになる。

ちなみに、発見したチームはニクスを「Nyx」と提案していたが、これは既に「小惑星3908番」につけられていたので、同意のエジプト語表記である「Nix」とされたという。

ちなみに、「ニクス」には神話に登場する「暗闇と夜の神」という意味があり、「冥土の神」である「冥王星」(プルート)に属しているに相応しい。一方「ヒュドラ」は「ヘビの胴体に9つの頭をもった怪物」であるという。冥王星が「第9番惑星」であることと“韻を踏んでいる”と言える。

また、プルート(Pluto)の“P”と“L”がパーシバル・ローウェル(冥王星を発見したトンボーの上司とも言える人物)のP・Lにちなんでいるのと同様に、ニクスとヒュドラの“N”と“H”は「ニューホライズン」(New Horizons)のそれらと、「ハッブル宇宙望遠鏡」(HST)のそれにちなんでいるという。詳しくはこちらへ【APL news Release 06.22】

<追加情報 06.15. 2006>

海王星の軌道上を公転する3つの小惑星が発見された。カーネギー研究所及びジェミニ天文台が発表した。

これらの小惑星は、「トロヤ群」と呼ばれるものに属するもの。そもそもよく知られているトロヤ群小惑星は木星に関するもの。木星・太陽・小惑星が正三角形の頂点をなすような位置関係で公転している群であり、海王星・太陽・小惑星のものとしては、既に発見されている4つと合わせ、全部で7つ存在することになった。この周辺にはさらに小惑星が存在する可能性が高い。

右は、木星〜海王星の軌道と、木星軌道および海王星軌道上に位置するトロヤ群の位置関係。トロヤ群は母惑星・太陽とともに正三角形の頂点をなすような位置関係で存在する。木星のトロヤ群は、木星の公転方向の前方60°と後方60°の双方に数多く分布しており、その様がピンクで描かれている。一方、海王星のトロヤ群は現在のところ、海王星の前方60°に見つかっているのみ。理論から言えば木星同様、後方60°にも見出されてもおかしくはない。

ところで「小惑星帯」と呼ばれる一群は、これまで僅か4タイプしか確認されていない。1つは火星と木星の間に広がる「アステロイドベルト」、1つは上述の「木星トロヤ群」、それに近年観測が急速に進んでいる海王星の外側の「カイパーベルト」、そして、今回発見された「海王星トロヤ群」だ。この海王星トロヤには、アステロイドベルトや木星トロヤよりも多い数の小惑星が存在すると考えられるというが、なにぶん遠距離のため、その観測は困難を伴う、根気の要る作業。

最初の海王星トロヤ群が発見されたのは2001年で、同年2つ目が、更に2005年に2個発見され、これまでに4個が知られていた。今回発見された3つのうちの1つは黄道面から大きく傾いた角度を有しているといい、これは、更に多数の小惑星の存在(その周辺で“雲”を形成しているイメージ)を示唆しているという。

このように軌道傾斜角の大きい小惑星が海王星トロヤに存在するということは、それらが太陽系形成初期の段階でそこに取り残されたものではない可能性を示唆してもいる。なぜなら、もし巨大ガス惑星の影響を受けなかったのであれば、(はね飛ばされたりすることがなかったわけだから)小惑星群は黄道面とほぼ一致した軌道を周回すると考えられるからだ。

なお、この発見をした研究チームは、既に見つかっている4つの小惑星の色の観測も行い、全て同じ程度の赤味を帯びたものであることを明らかにした。このことは、起源が同じであることを強く示唆するものでもある。詳しくはこちらへ【Carnegie Institution of Washington 06.15】

<追加情報 06.15. 2006>

先日お伝えした冥王星探査機「ニューホライズン」の小惑星に対する遠距離フライバイで、成果がでたようです。

冥王星を目指して飛行中の探査機「ニューホライズン」は今週、小惑星「2002 JF56」との遠距離フライバイを迎え、撮像センサー「ラルフ」による撮影を試み、見事その姿を捉えることに成功した。

画像はラルフを構成する「マルチスペクトラル・ヴィジブル・イメージングカメラ」により得られた。小惑星までの距離は約134万〜336万km。

(右はその画像。2つの像が見えるが、下の淡い方は336万kmの地点で、上の明るい方は134万kmで撮影されたもの。ちなみに小惑星のサイズは約2.5km程度と見られている。また、望遠カメラ「ロリー」は、強烈な太陽光の不意の入射を避けるため、距離が充分離れる8月までフタが開けられない。)

ラルフによるこの距離からの撮影では、小惑星の表面を分解してみることはできないものの、高速で飛行するニューホライズンのトラッキング能力を試す数少ない、絶好の機会とされていた。見事な点像を得たことは、ニューホライズン・チームにとって大きな励みになったようである。

撮影は今月11日、12日、13日の3日間行われ、データ圧縮の後ダウンリンクされた。最接近は13日午前4時5分(世界時)で、この時の距離は約10万kmであった。この際、カラー画像及び赤外域スペクトルの撮影も行われ、データは週明けにダウンリンクされる予定という。詳しくはこちらへ【New Horizons 06.15】

<追加情報 06.01. 2006>

冥王星探査機「ニューホライズン」は順調に飛行を続け、現在、火星軌道と木星軌道の間に分布するアステロイド・ベルト領域を飛行している。

搭載機器のチェックも順調に行われており、「ロリー」、「ペプシ」、「アリス」並びに「ラルフ」のチェックアウトが行われた。また、既に発見されている複数のバグを回避するための最新のソフトウェアもアップされた。なお、ソフトが原因でガイダンスコンピュータが月に1,2度リセットする現象は現在も続いているが、支障は特になく自動的に再起動している。チームは10月上旬、この点を改良したソフトをアップする予定である。

観測機器「ペプシ」、「アリス」、「ラルフ」の蓋が5月3,20,29日の各日に行われた。既に稼働しているダストカウンターがこの時のノイズを検出している。各機器はファーストライトも捉えた。得られたデータによると、ラルフのカメラは予定よりもやや高い感度を示しており、アリスのバックグラウンドノイズは想定の半分であることが明らかになった。半分というのは、RTG電源に起因するノイズが見込みよりもうんと少なかったことを表しており、S/Nがかなり良いことを意味している。

ところで。打ち上げ前は特にこれといった小惑星をターゲットにする予定はなかったが、打ち上げ後、何らかのチャンスがないか調査を続けていた。その結果、今月・6月13日に小惑星「2002 JF56」と遠距離フライバイをすることを見出した。距離は約10万4000kmで、その小惑星のサイズは差し渡し3〜5km程度の小さなものである。

この距離とそのサイズでは、「ラルフ」でその表面を伺うことはできないが、しかしこのフライバイは、性能チェックには有益である。ラルフの光学ナビゲーションおよびトラッキング能力を試すにはちょうどいい対象だからだ。ただこれはあくまでテストであって、かろうじて得られる像は1〜2ピクセル程度のものであろう。もしうまくいったら、皆さんにお見せできると思う。今月中旬、結果を公表する予定である…他、詳しくはこちら【New Horizons 06.01】

<追加情報 04.29. 2006>

今年1月19日に打ち上げられた冥王星探査機「ニューホライズン」が29日、打ち上げから100日目を迎えた。

ケープカナベラル空軍基地より打ち上げられてから今日まで、ミッションチームは多忙な日々を過ごしている。打ち上げ後の軌道微調整や科学機器のチェック、キャリブレーションなどである。

今月7日には火星軌道を通過し、現在、探査機は時速11万1960kmで一路木星を目指している。来年2月には木星の傍を通過し、重力アシストを受ける。その際木星の観測を行うが、これには各機器の性能チェックの意味もある。

「冥王星までは10年近くかかる航海ですから、100日は大した日数ではないですね。しかしチームはこの短期間に多くの作業をこなし、ミッションは非常に良好に進んでいますよ」と語るのは、主席研究官のアラン・スターン氏。

チームは年末、木星フライバイのリハーサルを行う予定になっている。【New Horizons 04.28】

<追加情報 04.10. 2006>

「ゼナ」(Xena)の追観測が行われました…

NASAのハッブル宇宙望遠鏡は先頃、研究者の間では「ゼナ」とニックネームの付いている、また、“第10番惑星”として脚光を浴びている小天体「2003UB313」について観測を行い、そのサイズが、冥王星より僅かに大きいことを確認した(右・、初めてハッブルが撮影したゼナ)。

同天体に関しては昨年、地上の望遠鏡観測により、冥王星よりも最大30%大きい可能性が指摘されていた。だがハッブルの観測は、確かに大きいものの、予想されていたものほどではなかったことを明らかにした。

ゼナの観測は昨年12月9日から10日にかけて行われた。その結果、冥王星の直径は1422マイルであるが、ゼナは僅かに大きい、1490マイルであったという。

「ハッブルは、ゼナの直径を測定するのに有効な可視光画像を得ることのできる、唯一の望遠鏡ですよ。」と語るのは、カルテック(Caltech)の惑星科学者、マイク・ブラウン氏。ゼナは同氏率いるチームによって発見されている。

100億マイル(約160億キロ)離れたゼナのサイズは、僅かに米国の東西幅の半分。これはハッブルの画像では1.5ピクセルになるが、これでも直径を測るには充分だ。

ゼナは予想よりも小さいことが判ったわけだが、それでも比較的光度が明るいのは、おそらく、太陽系で最も反射率が高い天体の1つであるのだろう。ちなみに、もっと反射率の高い天体は土星の衛星・エンケラドスで、地下から吹き出す氷により継続的にコーティングが繰り返されているからだろうと考えられている。

同様の類推で、ゼナの地下からメタンが噴出しているという可能性もあるという。ゼナの表面はメタンの氷で覆われていると考えられているが、常に新鮮な氷が供給されているというわけだ。

ゼナは公転周期560年で、現在は太陽から最も遠い地点に位置している。太陽に近づいたときには、地表に張り付いたメタン氷が昇華し大気を形成すると見られており、これは冥王星でも生じているメカニズムである。【Hubble 04.12】

<追加情報 04.07. 2006>

冥王星を目指して突き進んでいる冥王星探査機「ニューホライズン」が日本時間7日19時、火星軌道を通過した。打ち上げから僅か78日の猛スピード!【New Horizons 04.07】


<追加情報 03.29. 2006>

一路、冥王星を目指して突き進んでいる探査機「ニュー・ホライズン」に関して、搭載されている7つの観測機器のうち6つのテストが終了、全て正常との結果が得られた。それらは打ち上げ時の加速やショックを耐えたといえる。

打ち上げから今日まで、管制を担うジョンズ・ホプキンス応用物理研究所(APL)では「ラルフ」、「アリス」、「ロリー」、「スワップ」、「ペプシ」並びに学生が製作した「ダストカウンター」の6つに次々と火入れを行い、また、熱コントロールシステムのチェックとコンピュータプロセッサのブート、コマンドの送受信チェックなどが行われた。

更に、「アリス」と「スワップ」のフタ(キャップ)がオープンされ、今春末には「ペプシ」と「ラルフ」のフタが、「ロリー」のそれが今秋初頭にオープンされる予定。

今年夏にかけて各機器のパフォーマンステストとキャリブレーションが行われる予定。目下の所、ダストカウンターのみが既に作動を行っており、ダストの計測が続けられている。【New Horizons 03.29】

<追加情報 03.10. 2006>

先日、その存在が確定した冥王星の新たな2衛星(S/2005 P1 P2)について、ハッブル宇宙望遠鏡による最新観測の結果、ほぼ同じ色を有していることが明らかになった。そしてこれは、1978年からよく知られてきた衛星「カロン」とも同じであるという。

3衛星は、太陽光に対し全ての波長で同じ反射能を有しており、これはつまり、同じ色−それは地球の月と同じ−を持つことを意味することになるという。ちなみに対照的なのは、冥王星本体は赤味を帯びていることだ。

    

画像は今月2日、ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影されたもので、左は青フィルター(F435W)を通して、右は赤フィルター(F606W)を通したもの。両者を詳しく比較することで、小さく写る2衛星はカロンの表面と同じ色を有していることがわかったという。

これが意味することはなにか?それは、ニューホライズン計画主席研究官アラン・スターン氏らが主張する「3衛星は“ジャインアント・インパクト”で同時に形成された」という仮説をより強固なものにするということだ。冥王星に対する別天体の大規模なインパクトにより飛び散った物質が3衛星を形成したという考えだが、それらが同じ表面の色を持つということは、この考えをまた一歩、確かなものに近づけると考えて不思議はない。詳しくはこちらへ
【Hubble SpaceTelescope/JHU-APL 03.10】

10日、冥王星へ向けて飛行中のニューホライズン探査機は76秒間のスラスター噴射を行い、打ち上げ時に生じた誤差の最終修正が行われた。

この修正で探査機の速度には1.16m/sの変化が生じたが、これは打ち上げ以来行われた修正では最小の値。

スラスター噴射は米東部時・正午に始まり、この時探査機は地球から5170万kmの地点に位置していた。管制はジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所で行われ、JPL・深宇宙ネットワークのキャンベラ局からコマンドが送信された。【JHU 03.10】

<追加情報 02.22. 2006>

カイパーベルト“大”天体の素顔を陳列…

カイパーベルト領域とは、海王星より外側の領域を指す。約68天文単位離れた「ゼナ」(2003 UB313)が発見されるまでは、冥王星が最も大きなカイパーベルト天体であった。以下は、ハワイのケック天文台で撮影された4つの大型カイパーベルト天体。
  
実視等級が明るい順に並べると、「冥王星」(Pluto)−「イースターバニー」(2005 FY9)−「サンタ」(2003 EL61)−「ゼナ」(2003 UB313)の順になる。冥王星は、衛星・カロンが1978年に発見され、つい最近、2個新たに発見された。一方、「サンタ」には2個の衛星が確認されており、そのうち明るい方は「ルドルフ」と呼ばれている。

なお、サンタのもう一方の衛星(画像・下の暗い方)は当初、背景の恒星だと思われていた(以前の撮影では写っていなかったため)。だがその後、質量解析を進める中、これが衛星であることが確認され、昨年11月29日に発表された。

ちなみに、ゼナやサンタといった名前は、カイパーベルト天体の研究者達がニックネームとして適当に呼んでいるものであって、正式なものではない。ゼナの衛星は「ガブリエル」と呼ばれているが、両者とも、米国で1995年から01年まで放映されたTVアクションドラマ「Xwna:Warrior Princess」の登場人物(右)で、これにちなんだもの(きっと、ファンなんでしょうね?@管理人)。

正式命名は国際天文連合によりなされ、これらの名前は提案されている段階である。【Keck Observatory】…関連ページはこちら

<追加情報 02.22. 2006>

昨年その存在がほぼ間違いないと発表された冥王星の新たな2つの衛星(仮符合 S/2005P1 および S/2005P2)に関して、今月15日にハッブル宇宙望遠鏡で行われた追観測により、その存在がはっきりと確定された(大きいサイズ)。

得られた最新画像と解説が、雑誌「Nature」2月23日号に記載されている(…速報記載でしょうか@管理人。ジョンズ・ホプキンス大学による速報はこちら)。

一方、これと並行して同誌に記載された論文で、サウスウェスト・リサーチ研究所のアラン・スターン博士は、このほど確定された2個の小衛星は、以前より知られている衛星「カロン」を形成したとみられるジャイアント・インパクトで同時に形作られたと主張している(詳細はこちら)。

また、最近発見されている大型のカイパーベルト小天体も同様に、複数個の衛星を持つ可能性があること、更には、冥王星には細かいチリやダストといったデブリからなる輪が存在するのではないかという議論を展開している。ちなみにスターン博士は冥王星探査ミッション「ニューホライズン」の主席研究員。

(カロンは、冥王星に対する他の大型小惑星の大激突(ジャイアント・インパクト)によって形成されうることが、既にシミュレーションによって示されています。スターン氏らは、2個の新衛星も同時に形成可能ということを示したのでしょう。また、冥王星にダストの輪が存在する可能性は、氏の研究グループが以前から主張していることで、彼らの著書「Pluto and Charon」でもシミュレーションと合わせて議論が展開されています。@管理人)

昨年5月、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した冥王星の画像に、明らかに衛星と思われる2個の小天体が写っており、1978年のカロン発見以来の新衛星と騒がれたのは記憶に新しい。同定された S/2005 P1 と S/2005 P2 は共にカロンの約10分の1の大きさで、明るさはカロンの600分の1、冥王星本体の4000分の1の暗さ。地上の望遠鏡では(大気の揺らぎなどのため)冥王星本体の輝きにかき消されてこれまで見出されなかったものと考えられている。

新衛星はもちろん、現在冥王星へ向けて飛行を続けているニューホライズン探査機のターゲットとなる。予定では2015年7月に冥王星系へ最接近することになっている。

3月上旬、ハッブル宇宙望遠鏡で再び冥王星系を撮影する予定になっている。【Southwest Research Institute 02.22】

…カロン形成の「ジャイアント・インパクト」説ですが、数値計算で可能であることは示されてはいるものの、難点は、そのような衝突が起こる頻度だそうです。可能なメカニズムでも、衝突が生じる確率が小さすぎたら、筋書きとしては怪しくなりますよね。。輪の可能性は非常に興味があります…もし存在していたら、予言したスターン氏もすごいわ。。

<追加情報 02.20. 2006>

米テキサス州・マクドナルド天文台の2.1m反射望遠鏡で先頃、「太陽系第10番惑星」と呼ばれているカイパーベルト小天体「2003UB313」の眼視観測に成功した。同天文台の2.1m反射望遠鏡は一般にも開放されているもので、観測を行ったのはアマチュア天文家らだった。

この「2003UB313」は「ゼナ」とニックネームが付けられており、衛星を有していることがわかっている。つい最近の観測では、冥王星よりもサイズが大きいことがほぼ間違いないと判明している。

(右はハワイ・ケック天文台で撮影されたゼナの姿。右側に小さく輝いているのが衛星)

同天体を発見したのはカリフォルニア工科大学のマイケル・ブラウン博士だが、もちろん、CCDカメラによるイメージから見出している。これを眼視、すなわち接眼レンズを覗いて直視しようというのだから、それなりの設備を必要とし、また、覗く人間も、どれが「ゼナ」なのかを確実に把握している必要がある。なにせ視野には、無数の恒星が映っているからだ。

観測に参加したメンバーの一人、ルイス・バーマン氏が語るところによると、このとき参加したメンバーは、ゼナを直視した世界で唯一の人間達だろうという。

ゼナの明るさは19等。これは北極星の明るさの500万分の1の光度で、同望遠鏡を用いて眼視することのできるほぼ限界の明るさだという。

観測は昨年10月9日午前1時8分(現地時間)に始まった。観測開始から7分後にはゼナが同定され、参加した10人及び天文台の2人のスタッフ、合わせて12人がゼナを堪能したという。参加者は厳しい制約に従い、観測を詳細に記録させられた。

この夜のことを、同天文台のスタッフ、Frank Cianciolo氏は振り返る:

「UB313は午前1時30分頃まで、観測に適した高度に昇ってこなかったため、グループは別のターゲットを観測することにしていた。これらのターゲットは観測に満足な条件にあったにも関わらず見え方がイマイチだったので、UB313の観測開始が迫るにつれ、皆のテンションはやや高ぶっていた。」

「時間になり、観測を開始した。もう1人の天文台スタッフ、ケビン・メースが、計算で求めたUB313の位置に望遠鏡を向ける作業を行った。幸運にも、周囲には眩い恒星がなかったため、視野が強い光でかすむこともなかった。続いて、グループのメンバーの1人で、最初に覗いたケイス・マードックは視野の方角に関して多少の混乱が生じたため、状況を把握するために数分を要した。その後、状況を掴み、望遠鏡の方向を僅かに修正を行ったが、ケイスがUB313を確認したのはそれからすぐのことであった。」

その後、メンバーが次々と観測を行った。彼らは周囲の恒星との位置関係を頼りにゼナを手繰っていく。何せ90天文単位も離れた距離に位置する天体であるため、その姿は微かな点であり、確認は容易いものではない。望遠鏡の能力のほぼ限界に等しいものである。」

Cianciolo氏は、「彼らが数週間に渡って準備した精密な星図とCCDイメージがなかったら、UB313を確認することはできなかっただろう。本当に、“極限の天文学”だ」と、アマチュアである彼らの能力と情熱を保証している。【McDonald Observatory 02.20】…詳しくはこちら

…冥王星でさえ、眼視した人ってどのくらいいるのでしょう?そういえば、同程度の口径の鏡といえば、西はりま天文台の「なゆた」でも可能なのでは。。(あと、ささいなことですが、マイケル・ブラウン博士はMITではなかったっけ・・?天文台のリリース記事ではカルテック(カリフォルニア工科大学)となってますが。。)

<追加情報 02.12. 2006>

冥王星探査機「ニューホライズン」は打ち上げから3週間が経過したが、飛行は順調に進んでいる。3週/295週間、すなわちまだ全行程の1%にも満たず、まさにミッションは始まったばかり。だが、打ち上げ時のリスクが高いフェーズはひとまず乗り越えたといえる。

現在までに殆どの基本機能のチェックアウトは完了した。最近行われたのはハイ及びミディアムゲインアンテナ、自動姿勢制御機能、ジャイロのキャリブレーションなどである。

これまでの中で最も際だった作業は、探査機の3軸制御ジャイロのチェックであった。3軸制御は、カメラやアンテナを正確な方向へ向けるのに極めて重要なものである。また、ハイゲインアンテナ(直径2mのパラボラ)を地球へ向ける作業にかなりの時間が割かれた。

一方、これまでの間で想定外だった出来事は、ガイダンス・ナビゲーションコンピュータが二度、自己リセットしたことであった。これは既に判明しているソフトウェア上の、スタートラッカーに関連したバグのために発生したもので、チームは既に不具合を修正している。ただこの不具合修正は、予定されているその他のコードと合わせて、今年春が終わる頃にアップリンクされる予定となっている。バグはスピン制御モードに起因したものであり、現在は(スピン制御から切り替えて)3軸制御であるので、リセットという不具合が生じることは起こらないと考えられるからである。

ところで次回の姿勢制御(TCM)について。予定されていたTCM-2はキャンセルし、さらに数週間の追跡を継続、より精密な飛行経路を見出すことになった。来月9日の姿勢制御は行う見込みで、それでも僅か1〜2m/秒程度の微小調整で済むことになると思われる。ただそれは、更に正確性を要するものとなる(木星接近へ向けた飛行予定経路と日時はこちら)。

なお、探査機との通信レートは予想されていたものよりもずっと速い状態が確立されている。ダウンリンクは104kbpsに達し、これは当初プランの約2.5倍というものである。勿論、冥王星に到達する頃にはずっと小さい、よくても0.7〜1kbps程度のレートになるものと予定されている。【New Horizons 02.09】

<追加情報 02.04. 2006>

今月4日、冥王星を発見した米国の天文学者クライド・トンボーの生誕100周年を迎えた。先月19日に打ち上げられたNASAのニューホライズン冥王星探査機にはトンボーの遺族から提供された遺灰の一部が小さな缶へ入れられ、機体に取り付けられている(右・大きいサイズ)。ニューホライズンは未踏の、第9番惑星を目指した探査機だ。

「クライド・トンボーは偉大なアメリカ人だ。そして、ニューホライズンは偉大なアメリカのアドベンチャーだ」と語るのは、ニューホライズン計画主席研究員であるアラン・スターン氏。

1930年、トンボーは24歳の時ローウェル天文台に勤務しており、“海王星遷移”(trans-Neptunian)惑星を探して連日サーベイを行っており、数千時間を費やしていた。冥王星はその小さいサイズと他の惑星と比べ離心率の大きい楕円軌道から、発見当時非常に奇妙な惑星と考えられていたが、結局、冥王星はカイパーベルトの発見と、そのベルトには小さく氷の惑星(小天体)が一般的に存在するという認識の確立につながる前振りとなった。

カイパーベルトはこれまで知られている2タイプの惑星(岩石質の地球型惑星とガス球体の木星型惑星)とは非常に異なる無数の世界が広がる、太陽系の“第3のフロンティア”だ。

トンボーは1997年1月17日、91歳で亡くなった。ちょうど、ニューホライズン探査機が打ち上げられる9年前であった。

トンボーの遺灰を詰めた缶は直径2インチ、厚さ半インチの小さなもので、探査機の上部デッキの内側に貼り付けられている。その表面にはスターン氏がこう記している:

Interned herein are remains of American Clyde W. Tombaugh, discoverer of Pluto and the solar system's "third zone." Adelle and Muron's boy, Patricia's husband, Annette and Alden's father, astronomer, teacher, punster, and friend: Clyde W. Tombaugh (1906-1997).

(この中に納められているのは米国人クライド W・トンボーの遺灰で、彼は冥王星と太陽系の“第3の領域”を発見した人物。アデレとムロンの息子で、パトリシアの夫であり、アネットとアルデンの父であり、天文学者であり、教師であり、ダジャレ好きで、そして、友人である。クライド W・トンボー 1906-1997)

スターン氏は現地時間4日、トンボーが学位を取得したカンザス大学で講演を行う予定。【JHP-APL 02.04】

…詳しくはこちらへ。トンボーの娘であるアネット女史による回想記はこちら

…管理人は、トンボー死去を新聞が報じていたことを覚えています。社会面の下部に小さく記された記事でしたが、当時、トンボーはまだ存命だったんだと驚いた記憶があります。

<追加情報 02.02. 2006>

冥王星探査機・ニューホライズンは、予定されていた2回の軌道修正をこなし、正確な軌道への投入が達成された(右・1月30日の管制部)。

ちなみに、探査機を押し出した第3段ロケットは探査機の後ろをついてくる形で飛行しているが、現在、探査機から約15000km離れたところを飛行していると推定されている。木星に探査機が到達する頃には、約40万km程離れていると見られる。

では、探査機が冥王星に着く頃、第3段はどこにいるか?おおざっぱな見積もりで、約2億キロ離れたところを過ぎ去っていくというが、これは、太陽−火星間の距離に匹敵する(…さすがにかなりズレますね)。

また、打ち上げ直後に見られる特異な現象として、探査機に残された水分が蒸発する際に生じるコースの微かなズレも検出できるという。加えて、宇宙線がメモリー素子などに影響を及ぼすことによるビットの“飛び”などが毎日生じており、レートは予想されていた割合よりやや高いものの、コンピュータが自動的に修復する機能を有しているため、何ら問題はないという。【New Horizons 01.31】

「太陽系10番目の惑星」だと米航空宇宙局(NASA)が昨年7月に発表した天体「2003 UB313」の直径は約3000キロで、冥王星(約2300キロ)の1.3倍あることが、ドイツ・ボン大などの観測で分かった。2日付の英科学誌「ネイチャー」に発表した。この天体を惑星と認定するかどうかは国際天文学連合(IAU)が今後決めるが、国立天文台の渡部潤一助教授(惑星科学)は「冥王星は惑星ではないという意見すらあり、簡単に結論は出ないだろう」と話している。

天体は約560年周期で太陽を回るだ円軌道上にある。現在は太陽から約145億キロ離れており、冥王星と太陽の平均距離より2倍以上も遠い。

太陽系の天体の大きさは、天体の光の反射率と太陽との距離から計算する。この天体は、太陽からの距離が離れすぎていたため、発見当初は反射率が分からなかった。

研究チームは口径30メートルの電波望遠鏡で観測し、反射率が氷で覆われた冥王星とほぼ同じことを突き止め、大きさを特定することに成功した。

太陽系の外縁部には小天体が多数存在する「カイパーベルト」と呼ばれる領域があり、この天体もその一つとされる。
渡部助教授は「観測を続ければ、同じような大きさの天体が発見されるだろう」と話している。【毎日 02.02】

<追加情報 01.29. 2006>

冥王星探査機ニューホライズンの微小軌道修正「TCM-1A」が日本時間29日午前4時に行われ、成功した。この修正は日本時間31日午前4時に予定されている軌道修正「TCM-1B」に向けたもの。

この両者の修正により、木星スイングバイへ向けた正しい軌道を辿ることができる。なお、第2回目の軌道修正「TCM-2」が来月15日に予定されている。【South Research Institute/Spaceref 01.29】

<追加情報 01.24. 2006>

先日打ち上げられた冥王星探査機・ニューホライズンは順調に飛行している。軌道修正が今月28日と30日に予定されているが、打ち上げが極めて正確であったため、予定よりも僅かの修正で済むとのこと。

2回に分けられるのは、1回目は初始動となるスラスターのチェックとキャリブレーションなどが行われるため。

22日、衛星の回転が毎分5回転までに落とされ、自身の位置を確認するためのスタートラッカーの使用が開始された。

探査機は4月8日に火星軌道を通過する予定だが、打ち上げから僅か3ヶ月足らず。ちょうどこれは、NASAの火星周回探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」の火星到着直後であるが、リコネッサンス・オービターは約5ヶ月半を要している。【Spaceref 01.24】

冥王星探査機「ニューホライズン」の飛び去る姿が、打ち上げ当日、オーストラリア・パークスで撮影されていました。詳細はこちらへ(同ページの下の方にリンクがありますが、ココをクリックすると動画が見られます。その姿、なんとなく“スカイフィッシュ”を連想させます…(笑))


<追加情報 01.20. 2006>

ニューホライズンの打ち上げ成功に関して、NASAと、管制を担当するジョンズ・ホプキンス応用物理研究所(APL)の声明がリリースされています。これまで度々ご紹介してきた内容と同様のもの(ミッション概要、など)ですので、リンクを張っておくだけにします。APL NASA

あと、フロリダトゥデイの記事…こちら

ついに発進です!

ニュー・ホライズン、日本時間20日午前4時、ケープ・カナベラル空軍基地より打ち上げられた。

打ち上げシーケンスは全てパーフェクトに進み、午前4時45分、固体ロケットモーターより探査機は切り離され、一路、冥王星を目指した旅が始まった。…さて、続きは9年後ですね(笑)。このサイト、まだあるのか?(笑)

    

探査機打ち上げの概要を以下にまとめます。
【Spaceflight Now ミッションステータスより要約。下に行くほど遡ります。時刻は全て日本時間】

06:00〜
打ち上げ後の記者会見。ニュー・ホライズン計画主席研究員アラン・スターン氏は「米合衆国は冥王星とカイパーベルトへ向け探査機を送り込んだ。本当に歴史的な日だ」と表明。また、第3段分離5分後の04:50、NASAの深宇宙ネットワーク(DSN)キャンベラ局が探査機からのシグナルを受信、全ての状態は正常と、プロジェクトマネージャー、グレン・ファウントゥン氏が明らかにした。探査機に搭載の原子力電池の電力は目下180ワットで、今後数時間のうちに240ワットまで増力とのこと。冥王星到達時でも、200ワットオーバーの出力が期待されている。

一方、スターン氏は、冥王星を発見したクライド・トンボーの遺灰が探査機に積まれていることを明らかにした。トンボーは1930年、冥王星を発見している。

04:50
打ち上げマネージャー、Omar Baez氏が打ち上げ成功を宣言。

04:44:55
探査機、分離!ニューホライズン探査機はロケットから切り離され、冥王星へ向けて放り出された。

04:41:41
ボーイング社のロケットモーター、燃焼終了。ここまで全て予定通り。現在インド洋上空。

04:40:15
第3段ロケットモーター、点火!このロケットモーターはボーイング社製。

04:39:45
第3段スピン開始、セントールより離脱。ロッキード・マーチン社のアトラス&セントールロケット、全ての役目を終了。

04:39:26
セントールエンジン、燃焼終了(MECO2)。

04:35:30
ここまで全て順調、燃焼残り4分。なお、セントール燃焼終了後、第3段・固体ロケットモーターの点火前に、ステージのスピンを開始。

04:29:59
セントールRL10エンジン、再着火!地球周回軌道から離脱軌道へ。燃焼は9分半の予定。

04:28:45
燃料タンク、圧力正常。ロケットは姿勢を制御しながらパーキング軌道をコースティング中。

(右はライブ画面より。セントール底部に備えられた複数のスラスター噴射により、軌道の精密制御を行います。アニメーションでリアルタイム解説が行われていましたが、常にスラスターのどれかが噴射していました。ちょこちょこと、細やかな制御が行われているのを実感しました。)

04:17:00
ロケットはパーキング軌道へ。エンジン再着火まで、あと13分。

04:10:12
セントールエンジン、燃焼一旦停止(MECO1)。ロケットはパーキング軌道へ遷移中。約20分後再着火、地球離脱へ。

04:05:30
セントール、スラスト上昇。高度150km、時速22400km。

04:04;42
第2段セントール、点火、燃焼開始!

04:04:38
初段、燃焼終了確認。分離!

04:04:00
初段メーンエンジン燃焼終了まであと30秒。ロケットは高度107km、時速16000km。

04:03:50
フェアリング展開、離脱。ニューホライズン探査機はむき出しに。フェアリング離脱8秒後、RD-180スラストを再び100%、加速5Gへ。

04:03:00
打ち上げ後2分経過。ロケットは高度80km。

04:02:00
打ち上げ後2分経過。メーンエンジンスラストは100%で、2.5G加速まで維持。

04:01:40
装着5本の固体ロケットブースター全て燃焼終了。7秒後にまずその2本が、その更に1.5秒後に残りの3本が離脱。

04:01:15
メーンエンジン、スラスト75%へ低下、固体ロケットブースター離脱へ備える。ブースター離脱後、スラスト100%へ。

04:00:45
アトラスRD-180メーンエンジン、スラスト86%。Max Q(最大大気抵抗圧)域を離脱、出力上昇へ。

04:00:20
メーンエンジンスロットルは3分の2に設定。大気抵抗を最も強く受ける域へ。

04:00:00
打ち上げ!【右・NASA】

03:59:40
打ち上げ20秒前。打ち上げチームにより“Go Atlas”、“Go Centaur”が叫ばれ、全てのシステムの確認。

03:58:10
打ち上げ1分50秒前。コンピュータオートコントロールモード、オン。

03:58:00
打ち上げ2分前。10秒後にセントール(ロケット上段)に対する液体酸素と液体水素注入ストップ。

03:57:00
ニューホライズン打ち上げへ最終ゴーサイン!


<追加情報 01.19. 2006>

ニューホライズン、今日の打ち上げも延期。管制するジョンズ・ホプキンズ応用物理研究所の電力ダウンのため。。

<追加情報 01.18. 2006>

ニュー・ホライズンの打ち上げは強風のため、日本時間今夜(翌朝)午前3時16分に延期。天候による打ち上げ可能性は70%

<追加情報 01.17. 2006>

画像はロッキード・マーチン社のアトラスXロケット。5本のブースターを装着するのは初めての試みで、その196フィートの先端には、冥王星探査機「ニュー・ホライズン」が搭載されている。エンジニアリングにもサイエンスにも「史上初」が盛りだくさんのこのミッション、いよいよ始まろうとしている。

米東部時間17日午前10時30分、ケープ・カナベラル空軍基地、第41番射点へ向けて、格納ビルからのロケット搬送が開始された。移動には45分を要した。(Credit: Spaceflight Now 美しい光景ですね!周囲に立つ4本のタワーは避雷針です)
          

全てが順調に進めば、午後1時24分(日本時間18日午前3時24分)、1054ポンド(約470kg)の原子力駆動の小型探査機は新記録となる地球引力離脱速度で航海に乗り出す。現地の気象情報では、打ち上げ率は80パーセントとのこと。

発射から4分30秒後、アトラスロケットが燃焼を終え、セントール上段ロケット(第2段)が切り離され、点火する。セントールは約5分30秒燃焼し一旦停止、衛星をパーキング軌道へと送り込む。その後、再点火、10分間の燃焼で衛星と固体ロケットモーター(第3段)が押し出され、モーターによる更なる加速が行われる。

探査機は打ち上げから47分47秒後に切り離され、単身、冥王星を目指す。

打ち上げ9時間後には月軌道を横切り、2007年2月には木星の傍をスイングバイする。その後8年間、ただ冥王星を目指して飛行を続ける予定だ。

ところで、搭載されている1基の原子力電池には約11kgのプルトニウム238が用いられ、約200ワットの電力を供給する。搭載されている7つの観測器機は各々2.3〜6.3ワットの電力を消費し、全てを合計しても蛍光灯1本分。

NASAと米エネルギー省は、最初の40秒の間における打ち上げ事故の確率を350分の1と見積もっている。また、そのまさかの事態に備え、1チーム3人からなる16チームの専門部隊が派遣されている。このうち6チームが射点に張り付き、残りは郡内に展開する。彼らはプルトニウム検出器(放射線計かな)を携えている。また加えて、11の大気モニターが郡内に設置され、2台の移動型ラボがサンプルの分析を行う手筈になっているという。【Spaceflight Now/Space.com/他 01.17】

…プルトニウムはそういえば、プルート(冥王星)ニウム、が命名の発祥。プルトニウムでプルートの探査が行われるのも縁であり、また、皮肉な話でもありますね。。ちなみに、核兵器に使われるプルトニウムは同位体のプルトニウム239。プルトニウムの発見は1941年でしたが、軍が絡み、公表は1946年でした。

しかし、考えてみれば、贅沢ですよねぇ。NASAは予算が無いと言っても・・僅か500kg足らずの衛星は原子力発電で駆動し、それを打ち上げロケットはフルブーストタイプですからね。フェアリング部屋はガラガラなのに、空き缶衛星すら入場お断りの“冥王星専科”ですからね。マジでよかな〜(笑)固体ロケット1機を巡って、先端に何を積むかでもめるどっかの国とは大違い(涙)

明日のお昼には、月軌道を通過しているということか・・早!

いよいよ今夜半過ぎに打ち上げられる冥王星探査機「ニューホライズン」に関して、打ち上げから2週間の予定ミッションがこちら。

Day 1 コンタクト確立。フライトモードへの指示と環境設定、燃料パイプ系の設定。

Day 2 温度マネジメント並びにガイダンスシステムのチェック。

Day 3-8 ナビゲーションシステムとセンサーのチェック、ガイダンスシステムの
      チェックと軌道確立へ向けた探査機の追跡。 

Day 9 最初の軌道修正。

Day 11 2回目の軌道修正(必要であれば)

Day 12-19 ガイダンス並びにナビゲーションシステムの追加チェック、軌道確立。

Day 20 観測器機 “LORRI” 並びに “PEPSSI”、通信回線並びに電力系のチェック。

Day 21 3回目の軌道修正(必要であれば)

以上、ニューホライズン公式サイトより。これまでのニュースリリースはこちら(当サイト内)。ミッションの公式ガイドはこちら。【01.16】

<追加情報 01.14. 2006>

米エネルギー省のプレスリリースより…

17日に打ち上げ予定の冥王星探査機「ニューホライズン」の電源は、米エネルギー省のアイダホ、オークリッジ並びにロスアラモス国立研究所で開発された深宇宙バッテリー技術によって供給される。この技術は最後の未踏惑星に対するNASAのミッションを支えるため、重要な役割を担っている。

各研究所は“RTG”と呼ばれる放射性熱電源装置の開発と組み立て、テストにおいて必須の役割を演じている。この電源装置はいわば「スペース・バッテリー」で、深宇宙のような遠隔で厳しい環境において安定した電源や熱を供給するものである。

このRTGはニューホライズン探査機に搭載され、電源や熱を機体や搭載科学器機に供給することになっており、核物質の放射性崩壊から得られた熱が半導体素子(熱電対)によって電力へと変換される仕組みになっている。

RTGはNASAによって過去40年にわたり利用されてきたもの。

オークリッジ国立研究所がプルトニウムを詰めるカプセル容器を製造し、ロスアラモス国立研究所がペレット化された高精製のプルトニウム238をセラミック状に加工しカプセルへ詰め、アイダホ国立研究所でRTGのくみ上げとチェックが行われる。

こうして出来上がったRTGが、ケネディー宇宙センターへ搬入されるのである。【U.S. Dept. of Energy 01.14】

原文をみると、RTGはニューホライズン機体へ熱も供給するようなニュアンスがします(…実際のところどうなのでしょう?)。搭載されるRTGは213ワットの電力に加え、熱を供給する仕様になっています(詳細)。土星探査機カッシーニには類似型のRTGが3基搭載(計870ワット)されていますが、器機などに対する熱源としての使用はありません。

ニューホライズンが冥王星通過後に調査することになっているカイパーベルト天体については、どうなっているのだろうと前から疑問だったんですが、探すのにすばる望遠鏡も手伝うようで・・詳しくはこちらを

<追加情報 01.13. 2006>

17日(日本時間18日早朝)に打ち上げが予定されている冥王星探査機・ニューホライズンに関して、探査機本体の格納が金曜(現地時間)に予定されており、翌土曜、ペイロードテストチームが電気系統のチェックを行い、フェアリングドアが閉じられることになっている(この時に原子力電池が搭載されるのでしょうかね・・)。

アトラスXロケットのロールアウトは米東部時間月曜午前10時30分(日本時間17日午前0時半)が予定されており、ロケット初段の燃料タンクへの注入が午後に予定されている。また、火曜午前10時39分(同18日午前0時39分)、41番射点のクリアランスが行われ、11時24分より液体酸素注入が行われる。

NASA-TVではニューホライズンの打ち上げライブが行われる。開始は米東部時間17日午前11時(日本時間18日午前1時)で、打ち上げはその2時間24分後に予定されている。

一方、これに先立ち、同日曜日午後1時半(同16日午前3時半)、関係者を交えたインタビューなどが行われ、NASA-TVで中継される。

なお、NASAのグリフィン長官は同17日午前10時(同18日午前0時)から30分間、ケネディ宇宙センターにてメディアに対し会見を行う予定。【NASA 01.13】

…NASA-TVのスケジュールはこちら。念のため皆様各自でご確認下さい。

<追加情報 01.11. 2006>

右は、冥王星探査機・ニューホライズンを格納するフェアリングに関係者が記したサインの数々(大きいサイズ)。

中央の「To The Frontier, For Science For Exploration For All Mankind」はミッションマネジャー、アラン・スターン氏によるもの。【NASA 01.12】

<追加情報 01.09. 2006>

今月17日に打ち上げが予定されている冥王星探査機「ニューホライズン」に関して、「アビエーションウィーク」誌に記事が記載されています。以下、拾い読み要約を…

ニューホライズン探査機は、地球を離れる探査機としては記録的な速度…月までたった9時間…で飛行し、最後のフロンティアである冥王星を目指す。その速度は時速1万マイル(1.6万km/時)に達し、この速度で飛行すると、木星まで僅か13ヶ月で到達する。なお、木星通過の際は時速3万6千マイル(約5.7万km/時)にまで達し、これはマッハ50に相当。(ミッションHPには、時速5万マイルで木星通過とありますが・・ま、あまり気にしないでおきますか@管理人)

ロッキード・マーチン社のアトラスX・フルブースターバージョンは240万ポンドの推力をひねり出し、米東部時間17日午後1時24分(日本時間18日午前3時24分)、素晴らしい航海へと乗り出す予定になっている。

同探査機には、冥王星を発見したクライド・トンボー(1997年、90歳で死去)にまつわる記念品も搭載されている。また合わせて、世界初の民間宇宙船となった「スペース・シップ・ワン」の機体の一部、更には、世界43万人の名前を刻んだCDものっけられている。

この冥王星探査が現実のものとなるまでには、多くの困難があった。

「ワシントンから抜け出すまでにかかった時間は、太陽系全体を航海するのにかかる以上の年月が必要だったよ」と語るのは、ミッションマネジャーのアラン・スターン教授。

ニューホライズンは7つのセンサーを搭載しているが、消費電力は僅か28ワット。「これはミニチュア化テクノロジーを証明するものだよ」とスターン氏。センサーは高解像度の画像や各種データを集め、また、システム全体は12MHz Mongoose V プロセッサで制御される。

また、同探査機は冥王星だけを探査するわけではない。冥王星通過後、更にあと1つないし2つの「カイパーベルト小天体」を狙うことが予定されている。これは冥王星通過の更に数年後になる見込み。

「ニューホライズンはAPLのかつてない、最も野心的なスペースミッションだよ」と語るのは、ミッションを遂行するジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所(APL)のプロジェクトマネジャー、グレン・ファウントゥン氏。

探査機には、容量64ギガビットのテープレコーダーが2台搭載されている。これは最接近の前後で収集されたデータを蓄積するものだが、この再生には何と9ヶ月もかかる。なぜなら光速で4時間半もかかる距離からの送信であるので大量のデータ送信ができないためだ(僅か768bps)。

ちなみに得られる画像の質であるが、ランドサットで得られるそれと同じものという。

かつての外惑星探査機と同様、ニューホライズンにはプルトニウム原子力電池が搭載されている。これはプルトニウムの崩壊で生じる熱を電気に変換するもので、200ワットを供給する。ものがものであるだけにその取り扱いは慎重に行われ、また、打ち上げの際は米国政府を通し国際的な備えがなされる。(…これに関しては以下に関連を記載しています)

今回の打ち上げロケットの初段はアトラスXであるが、これには5本の固体燃料補助ブースターが装着される。アトラスXに5本装着されるのは初めてのことで、これまでは最高でも3本だった。

更に、アトラス上段にはボーイング社のセントールエンジン及びATK社のStar 48B固体ロケットモーター、そしてその上に探査機が乗る。全体として3段ロケットが構成されるが、初段の5本構えブースターと合わせ、大きなエンジニアリングチャレンジである。

上から下まで完全装備になったこのアトラスXの重さは567トンを越える。固体ロケットを装着しないベーシックタイプのアトラスXの重さが263トンだから、その倍を軽く超えることになる。240万ポンドの推力はボ社のデルタW増強型よりも40万ポンドも強く、また、アトラスX通常型を150万ポンドも上回る。

2007年初め、ニューホライズンは木星の傍を通り過ぎ、更なる加速を受ける。このフライバイの際、探査機は木星本体やその衛星を観測するが、これには科学器機のリハーサルの意味がある。

ただ、木星までの距離は冥王星までのそれと比べると遙かに近いので、記録されたデータは複数回の再生が可能という。

ところで、原子力電池に関して、プルトニウムは耐爆破構造の容器に詰められてはいるが、米エネルギー省は16組の緊急事態フィールドチームと2つの放射線センターをケープ・カナベラルの周辺に配置し、ロケット爆発などの事態に備える。

これらに加え米国務省が、ロケットが上空を通過する南部アフリカの数ヶ国やオーストラリアに説明をしているという。

原子力電池を搭載した衛星がこれまで爆発や失敗をしたことはない。ただ、今回の打ち上げは、上に述べたような初試みのロケットで打ち上げることになるため、何とも言えない。

(画像は、ニューホライズンに搭載される原子力電池。同ミッションサイトより)

パイオニア10、11号やボイジャー1、2号には“地球からのメッセージ”を意味するプレートや音を記録したレコードが乗せられていたが、ニューホライズンにはそのようなものは乗せられていない。これに関しスターン氏は、ミッションは極めてお役所仕事かのように進められていると語る。(原文:doing something like that involved too much federal bureaucracy)

より詳しくはこちらへ Aviation Week Spaceref関連記事【01.09】

…ちょっと最後の部分は意訳しました。。打ち上げが迫るにつれ、メディアも頻繁に取り上げるようになってきました。年末、打ち上げを1週間延期し、燃料タンクの再点検が実施されていましたが、これは計画がトップミッションであるのみならず、原子力電池を搭載している故もあるのでしょう。

その原子力電池を巡る抗議活動が行われました・・

現地時間土曜、約40人ほどの人々が迫り来るニューホライズン打ち上げに対し、中止を求め抗議活動を行った。彼らの論点は一点、搭載される原子力電池にある。

ケープ・カナベラルに集まったデモ隊は演説を行い歌を歌い、「NASA puts us all at risk!」(NASAは全てのリスクを我々に負わせる気か!)、「Even mousetraps malfunction. Is a mini-Chernobyl in our community's future?」(ねずみ取りでさえ動かないことがあるのだ。未来のミニ・チェルノブイリとならないのか?)などと書いたプラカードを立てるなどして抗議活動を行った。

多くの人々は、ミッションは惑星探査の目的だけでなく、宇宙兵器で用いられる原子力発電機のテストも兼ねているのだと主張する。

また、NASAはリスクに関する数値を低く見積もっていると主張、仮にNASAが主張する数値が正確だとしても、それでもまだリスクとしては大きいものだと訴える。

同様の抗議は1997年、現在土星を周回している探査機「カッシーニ」の打ち上げの際にも行われ、この時は数百人が集まるという大規模なものだった。【FloridaToday 01.08】

<追加情報 01.07. 2006>

冥王星探査機ニュー・ホライズンのアトラスV打ち上げロケットに関して、年末より実施されていたRP-1燃料タンクの精密検査が今週終了し、問題点は何もないことがわかった。この結果、現場は打ち上げ成功へ向けより自信を強めたが、(気を抜くことなく)残されたチェックが最後まで粛々と続けられているところという。

当初、スケジュール通りに燃料タンクにはRP-1燃料が満載され、アトラスロケットに搭載されていたが、別の同型の燃料タンクに不具合が見つかる事例があったため、念のため、既に搭載完了していたこのタンクも一旦取り外され、検査が続けられていた。このため、打ち上げが予定よりも1週間延びていた。【NASA 01.07】

<追加情報 01.05. 2006>

下で記載の冥王星に関して更なる追加を・・

冥王星の衛星「シャロン」(カロン)の直径と密度が、かつて無い高精度で求められた。リリースによると、直径は1207〜1212kmの間で、密度は1.71。このサイズと密度から、シャロンは半分が氷で半分が岩石の状態と推察されている。

冥王星やシャロンのサイズや密度の決定は、それ自体が大きな問題の1つだった。如何せん遙か彼方の小さい惑星であるので、望遠鏡で見ても、点にしか見えない。今回、約50億kmも遠方にあるシャロンのサイズを誤差僅か 5kmの高精度で決定したのは、「掩蔽」(えんぺい)という、遠方の恒星を惑星や衛星が横切っていく現象だ。

観測内容自体は簡単で、観測対象とする天体(この場合はシャロン)が、その背景となる遠方の恒星を横切っていくのに要する時間や、またその時の恒星の減光の仕方を注意深く計測するだけでよい。シャロンの運動速度など、その他必要な要素はわかっているので、後はその時得られた時間や光度変化曲線を分析、計算することで、直径を極めて正確に導き出すことができる。しかもこの掩蔽観測では、大気の存在を知ることもできる。

ただ、この掩蔽現象自体が、冥王星の場合ですら滅多になく、これまで1985、88及び2002年の3回しかない。シャロンの場合はさらに輪をかけて希で、1978年に発見されて以来これまで、1980年に観測されたのみだった。

しかもこの時の観測は、本来冥王星による掩蔽が見込まれていたのが、幸か不幸か、傍らのシャロンによる掩蔽になってしまったというエピソードで知られる。この偶然に立ち会った南アフリカ天文台のアリスター・ウォーカー氏は、カロンの直径を約1200kmと見出しており、これは、今回導き出された値に極めて近いものである。

また、2002年の冥王星による掩蔽では、その大気圧が4年間で約2倍になっていることが明らかにされた。ちなみに冥王星の大気自体は、1988年の掩蔽観測で発見されている。

2004年8月、オーストラリアのアマチュア天文家デーブ・ヘラルド氏は、2005年7月、シャロンが光度15等級の恒星「UCAC2 26257135」を横切ることを算出、これが南半球の一部で見られることが判明した。

観測は7月10〜11日、各地の天文台や研究者チームが臨時に備え付けた望遠鏡で行われ、その多くがデータの取得に成功した。右はそのうち、欧州南天文台(ESO)の施設の1つ「Very Large Telescope」(チリ・アタカマ砂漠北部のParanal)で取得された画像。サイズは13秒×13秒で、掩蔽開始の3時間前から1時間前の、2時間に渡って撮影されたものを複数枚重ね合わせたもの。(1秒=3600分の1°)

画像中央に見えるのが冥王星と衛星シャロンで、その間隔は約0.9秒。右の方から恒星が近づいていくのが映し出されている。なお、左下の方にあるのは、フレームに入った別の、無関係の恒星。(大きいサイズ)(シャロンをそのまままっすぐ一直線に“射抜こう”としているように見えますね@管理人)

また、右は観測地ごとの、掩蔽の状況を示したもので、観測地はチリの2ヶ所(Pedro de Atacama および Paranal)とアルゼンチン(El Leoncito)。(大きいサイズ

なお、シャロンに大気が存在するとすれば、それは極めて希薄で、圧力は0.1マイクロバール(地球の1000万分の1)程度が上限という(…ほとんど無いに等しいですね)。また、メタンや窒素の氷が存在するとすれば、それは地表のごく狭い、極などの超低温な領域に限られるだろうという。【ESO/ Williams College/ Space.com 01.04】

詳しくはこちらを…ESO Press Release, Williams College

<追加情報 01.04. 2006>

冥王星の表面温度は、やはり考えられていたよりも低いことが判明した。

“やはり”というのは、これまでの研究で冥王星の地表温度はかつての予想よりも低い可能性が指摘されていたのだが、この度それが直接確認されたことを意味する。

これまで、表面温度を知るために必要な赤外線観測装置で冥王星を観測した場合、、その衛星シャロン(カロン)のデータと混ざってしまい、個別に計測することができなかった。ところが、ハーバード大学スミソニアン宇宙センターの研究者達は、ハワイ・マウナケアの望遠鏡でサブミリ波干渉計を用い、両者を分離、個別の温度を計測することに成功したという。これは、史上初のこと。

その結果、やはり指摘されていたとおり、冥王星の表面はシャロンよりも低いことが判明した。

「我々は、金星が温室効果で極限状態になっていることを知っている。対して冥王星は、いうならば“逆温室効果”とも言うべきものの代表例になると言える」と語るのは研究者の一人、マーク・グーウェル氏。

「ネーチャー(自然)は、我々にミステリーを突きつけるのがお好きなようだ…そしてこれは、その大きなものだね」

このほど得られた結果によると、冥王星の表面は−230℃で、これは当初言われていた−220℃よりも低い。ちなみにカロンは、この−220℃。この事実は、地表の氷と希薄な窒素大気との間に熱平衡が成立しているという最近の学説にフィットするもの。

これは、太陽の放射が地表や大気を温めている地球のような状態とは大いに異なることを意味している。冥王星の地表に達する太陽エネルギー(太陽放射)は、地表の固体窒素を気化させるだけの分しかない、つまり、地表を温めるまでにはパワーが足らないということになるという。

「この結果には、本当に興奮するし、そして面白いよ。何せ、直接あっちに行かずに、30億マイルも離れたところの温度を測定したんだからね!」とグーウェル氏は語る。【Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics 01.04】

…より詳しくは、こちらを。トップの想像図は、同センターのDavid A. Aguilar氏によってリリースされたもの。最近発見された冥王星の新衛星から、系全体を眺めた想像図になっているところが新しいですね。

<追加情報 01.02. 2006>

今月17日に打ち上げが予定されているNASAの冥王星探査機「ニュー・ホライズン」。この、史上初めて冥王星を探査することになる機体には、コロラド大学(Univ. of Col. at Boulder's = CU-B)の学生達が組み立てた観測装置が搭載される。学生製作の装置が搭載されるのは、NASAのミッションでも初めてのこと。

この観測装置(右)は、宇宙空間のダストを検出するもので、「CU-Bouldr Student Dust Counter」、略して「SDC」と呼ばれている。このカウンターは冥王星までの空間、さらにはその外のカイパーベルト領域を飛行する中、リアルタイムで検出し続けるもの。

そもそも CU-B が開発するダストカウンターは1970年代からNASAの惑星探査ミッションでの各種探査機(マゼラン(金星)、マリナー(火星)、パイオニア、ボイジャー(外惑星))に搭載され、太陽系空間に漂うダストの検出を続けてきた。そしてこれは、現在水星へ向けて飛行中のメッセンジャー探査機でもしかり。

そんな伝統の中、今回はCU-Bの学生達が、そのカウンタ作成を担当したというわけだ。

「ダスト粒子は太陽系の惑星達の形成を研究する上で、極めて重要なものなんだよ」と語るのは、“学生装置”開発の責任者であるMihaly Horanyi氏。

同氏はまた、「学生達は今だ検出されたことのない、外惑星の重力がもとで生成されたダスト円盤の検出を望んでいるんだ。これは、我々の惑星の形成や、更には他の恒星の周囲に見られるダスト円盤の理解に貢献することになるんだよ」と語る。

「そしてこれは重要なことだが、このことは、学生達へ宇宙開発ミッションでの重要な任務を何年にもわたり提供することになるんだね」とも。

「搭載されている観測器機では、ダストの個々の質量を計測することができるのです」と語るのは、博士課程に在籍の学生 David James氏。彼はこの2年間、装置のエレクトロニクスパートを担当してきた。

「ニュー・ホライズンは冥王星までの飛行中、システムの殆どがスリープ・モードにあるが、このダストカウンターは四六時中、作動しているんですよ」とJames氏。

一方、「学部生として、ホンモノの宇宙探査ミッションに関わるチャンスに巡り会うとは、夢にも思いませんでしたよ」と語るのは、ソフトウェア開発に関わっているElizabeth Groganさん。

打ち上げ当日に向け、SDCに現在そしてこれまでに関わってきた学生達は、射点のあるフロリダへ向かうという。多くは、世界中から集まることになるとのこと。

「彼らの多くは、今では別の研究所や仕事に就いているが、皆、打ち上げに臨むことに興奮しているよ。」

「もし全てが順調に進んだとしたら、10年後、我々は再び集合することになるだろうね。」と、Horanyi氏は言う。【Spaceflight Now 01.02】

…「夢のある」というのは、このことでしょう。夢だけではなく、仮に宇宙開発に関係のない分野に進んだとしても、ロマンを持って仕事に臨むような人格的成長も学生達に促すのかも知れませんね。

<追加情報 12.21. 2005>

最近確認された冥王星の新衛星“P1”、“P2”に関する続報がリリースされています。論文はこちらを。要約は・・

「2002年〜03年にかけ、ハッブル宇宙望遠鏡でアルベド(反射能)を測定すべく冥王星を観測した際、新衛星S/2005 P1およびP2が確認された。既に見つかっているカロンと合わせて、この3衛星は、同一平面上を運動していることがわかった。カロンとP2に関しては、離心率はほぼゼロに等しい(=殆ど円軌道)。最も外を周回するP1の離心率は大きく、0.0052±0.0011である。P1、P2、及びカロンの公転周期はそれぞれ38.2065±0.0014日、24.8562±0.0013日、及び6.3872304±0.0000011日である。カロンの軌道をベースとして算出される系の質量は1.4570±0.0009×1022kgである。公転周期の比はP1:P2:カロン=約6:4:1と、平均運動共鳴(mean-motion resonance)を示唆しているが、正確な整数周期比にはなっていないことが示されている。

P1とP2の公転中心は冥王星ではなく質量中心(系の重心)である。カロンと冥王星の質量比は0.1165±0.0055となり、この比よりカロンと冥王星の密度はそれぞれ1.66±0.06g/cm3、2.03±0.06g/cm3となる。カロンの密度が冥王星よりやや小さいことがわかる。」【Astrophysics 12.21】

「ニューホライズン」に関する先日の会見で、探査機に積まれているものに関する質問にはっきりと答えなかったものがあるのですが、それに関する推測がSpace.com紙に記載されています↓

来月打ち上げられる冥王星探査機「ニューホライズン」には、米国旗や43万人の名前が記録されたCDも積まれている。しかし20日の会見で、他の、もっと特別なものがあるのではないかとの記者の質問に対し、パネリスト達ははっきりと答えようとしなかった。これは、打ち上げ後に明らかにされるという。

この“謎のアイテム”の1つは、「スペース・シップ・ワン」の機体の一部だという。スペース・シップ・ワンは、2004年、民間開発機では初めて宇宙弾道飛行を成し遂げた歴史的宇宙機。現在はスミソニアン航空宇宙博物館にあるが、この機体の一部がニューホライズンに積まれているのだという。

「ニューホライズンは … スペース・シップ・ワンのカーボンファイバーのかけらを積んで冥王星へ向かうことになるだろう。かっこいいと思う」と語ったのは、スペース・シップ・ワンの主任設計者であるバート・ルータン氏。【Space.com 12.21】

…そういえば会見では、冥王星の衛星の名を「シャロン」と言っていました。これ、原則に則って言えば「カロン」が正確です。綴りは「Charon」です。そもそも、発見者ジェームス・クリスティ氏が妻の名「シャーリーン」(Charlene)にちなんで命名しようとしましたが、国際天文連合の規定で、「ギリシャないしローマ神話に由来するもの」と決まっており、クリスティ氏が“Ch-”の項目を辞典で調べていたところ、ギリシャ神話での“三途の川”の舟漕ぎの名前に「Charon」とあり、「これだ!」とひらめいたそうです。

船漕ぎの名前は「カロン」ですが、彼は勿論、妻の名の発音を取って「シャロン」と発音していました・・そしてそれが、広まってしまったと。。まあどっちでもいいか・・(^^;

<追加情報 12.20. 2005>

NASAは20日、記者会見を行い、史上初の冥王星探査ミッション「ニューホライズン」の概要をリリースした。主席研究員で責任者のアラン・スターン氏を始めとする幹部連が一堂に会し、ミッションの全体像を発表後、記者からの質問を受けた。
             

「ニュー・ホライズンは独特の世界を調査することになる。我々は今はただ、何を知ることになるのか、想像することしかできない。これは、“宇宙開発ヴィジョン”に捧げるミッションの中でも、トップに位置するものだ。」と語るのは、NASAサイエンスミッション局副局長のメアリー・クレーブ氏。

宇宙開発ヴィジョン(Vision for Space Exploration)は宇宙に対する大胆な新政策で、シャトルの安全な飛行再開、ISSの建設、人類の月への回帰、さらには火星やその外を目指すというもの。

全米科学アカデミーは冥王星系(冥王星と衛星)及びカイパーベルトの探査を最上位の優先事項にランクづけており、これらは太陽系の理解の躍進にとって、科学的に重要なものとしている。

これまで知られている9つの惑星と比べ、冥王星は異なるタイプの惑星で、「氷矮星」(ice dwarf)と呼ばれている。これはカイパーベルト領域では普通に見出される天体。

「冥王星とカイパーベルトを調査することは、太陽系の歴史を掘り下げる考古学みたいなものだよ。そこは、太陽系の形成された古代を覗くことができる場所だね」と語るのは、ミッション責任者のアラン・スターン氏。

ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所で開発されたニューホライズン探査機は、ケープカナベラル空軍基地より、2006年1月17日以降に打ち上げられる。ロンチウィンドは同年2月14日まで。

グランドピアノ程度のサイズしかないこのコンパクトな探査機はアトラスXロケットに搭載され、打ち上げられる。ニューホライズンはこれまで打ち上げられた探査機の中で最も最速を達成し、打ち上げ9時間後には月を、更に13ヶ月後には木星を横切っていく。

2月3日より前に打ち上げられれば、ニューホライズンは2007年始めには木星を通過し、その重力を利用して加速、一路冥王星を目指す。木星へのフライバイは冥王星到着を5年早め、また、(木星を調査することで)搭載器機のチェックを行うことができる。

探査機の科学器機はサウスウェスト・リサーチ研究所(SwRI)で開発されたもので、赤外・紫外線スペクトロメーターや、マルチカラーカメラ、望遠カメラやダストカウンタなどが含まれる。中でもダストカウンタはコロラド大学の学生が開発、組み上げたもの。

発射日時にもよるが、ニューホライズンは冥王星へ早ければ2015年の中頃に到着する予定で、最接近を挟んで5ヶ月間の探査が見込まれている。冥王星や衛星シャロン(カロン)の地質学的特徴や成分、大気の組成や構造などの調査が盛り込まれている。また、最近発見された小さな衛星たちも調査の対象に組み込まれている。

探査機は、その飛行過程のかなりの間、「冬眠」していることになる。主要部以外のシステムは電源オフに落とされ、年1回、器機のチェックやキャリブレーション、必要であれば軌道修正が、行われることになっている。

なお、週に一度、テレメトリーが送られてくることになっており、これにより、探査機の簡易チェックが行われることになっている。探査機全体の消費電力は、家庭用100ワット電球2個分よりも少ない。【NASA 12.20】

なお、アトラスの燃料タンクのチェックのため打ち上げが予定より約1週間延期されているが、探査機の準備は順調で、17日、射点へ搬入され、ロケット先端に装着された。以下、その模様映像です。【NASA】

   

   

フェアリング格納など、探査機の小ささがよくわかりますね。また、フェアリングの表面に描かれるミッションロゴはかっこいい。日本のH2AやM-Xでも同じことをすればいいのに、と常々思うのですが・・ロケットの打ち上げは、1つの“ショー”ですからねぇ、クールさも必要ではと。。

…余計な心配かもですが、打ち上げた後で、撮像カメラ「ラルフ」が曇ってしまった、とかならなければよいですが・・「スターダスト」のように(汗)。。あと、「ディープインパクト」は、ごく微かにですが、ピンぼけでしたし。。ちなみにラルフはスタートラッカーの役割も果たすとのこと。

<追加情報 12.18. 2005>

打ち上げ予定まで1ヶ月を切った冥王星探査機「ニューホライズン」は17日土曜日(現地時間)、フェアリングに包まれた状態でケネディ宇宙センターの第41射点へと搬入された。ここで、打ち上げロケットであるアトラス5の先端に装着されることになる。

NASAはこの作業を早朝まだ暗い中、しかも厳重なセキュリティの下で行った。同探査機には原子力電池が搭載される予定になっているが、このことは無関係という。同電池は打ち上げの3日前に装着されることになっている(原子力電池には、環境団体などが極めて神経質になっています@管理人)。

暗闇の中で作業が行われたことについては、探査機に搭載された高感度器機を太陽光から守るためという。

右写真は、作業棟で探査機がフェアリングに納められようとしているところ。フェアリングの大きさに対し探査機が非常に小さいのがよくわかる…そもそもアトラス5ロケットは重量級の大型衛星を打ち上げる力を持っているのだ。それを用いてこの小さな探査機を飛ばすので、得られる加速は極めて強く、打ち上げから9時間後には月軌道を横切っていく程。

また、探査機から飛び出した銀色の棒は原子力電池のダミー。電池自体は隔離棟に厳重に保管されており、打ち上げ3日前に射点へ搬入され、フェアリングの脇の穴を通して装着されることになっている。(電池は米エネルギー省の管轄下にあり、米科学委員会によって出される搬出・装着許可が打ち上げゴーサインと等価になる。まあ、電池が実は一番重要ですよね・・)

因みに探査機を乗っけている台座のようなものは、軌道へと投入する第3段・固体ロケットモーター。【FloridaToday 12.18/Hew Horizons HP】

<追加情報 12.17. 2005>

来月11日に当初予定されていた冥王星探査機「ニュー・ホライズン」の打ち上げがやや遅れることが明らかになった。

同探査機はフロリダのケープ・カナベラルよりアトラス5ロケットで打ち上げられることになっている。探査機の仕上げは順調で、打ち上げロケットのチェックも終了していたが、NASAは念のため、アトラスロケットの再チェックを盛り込んだという。

打ち上げは17日以降になると伝えられている。

このNASAの決定は、今年9月、アップグレードされた燃料タンクのテスト中に不具合が見られたことに端を発するという。ロケットを製造しているロッキード・マーチン社によると、この不具合はタンクのテスト中、限界圧力の僅かに下の域で発生したという。

ニュー・ホライズンを打ち上げるアトラス5ロケットのタンクはこのチェックをパスしたという。しかしNASAは、念のため、もう一度このタンクのチェックを要求しているという。

タンクには既に高精製ケロシン燃料RP-1が満載状態。この燃料は勿論、一旦抜き取られることになる。【Spaceflight Now 12.17】

…ニュー・ホライズン計画はトップ・プライオリティに据えられている重要なミッション。入念なチェックがなされていますね!

<追加情報 12.14. 2005>

カナダとフランス、米国の研究者達は先頃、「カイパーベルト」に属する小天体を発見したが、これはこれまでの太陽系形成理論に1つの挑戦状を突きつけるとも言える、奇妙な特徴を備えているという。

この小天体は「バフィー」(Buffy)とニックネームが付けられているが、国際天文連合(IAU)により与えられている正式符号は「2004 XR190」である。

「カイパーベルト」は海王星より外側に広がる小惑星帯。太陽系形成期に取り残された小惑星や岩石と考えら得ており、多くの彗星の誕生源とも考えられている。

バフィーはサイズ約500ないし1000kmのスパンを有する小天体で、一公転に440年を要する。興味深いのは、そのサイズの小ささ(他のカイパーベルト天体の約半分程度)だけでなく、その公転軌道だ。

バフィーの公転軌道は殆ど真円に近いもので、また、黄道面より約47°も傾斜しているのだ。

(右図・赤いのがバフィーの軌道。他の一部の小天体の軌道が黒い曲線で示されている。大半は黄道面にほぼ一致するような公転軌道をしているが、バフィーのような大きな傾きを有するものは少ない)大きいサイズ

「この新天体は、現在の太陽系形成理論に挑戦している」とは、カイパーベルトを精力的に調査しているカナダ・フランス合同の研究者グループ「CFEPS」のプレスリリース。カイパーベルトに属する小天体の多くは、離心率の大きい(=つぶれた)楕円軌道を有するものが多い。その要因に、「初期に太陽系近傍を通過した別の恒星の重力による攪乱による」という理論がある。だがバフィーの真円軌道はそれを真っ向から否定するものとなるのだ。

研究者達は1つの可能性として、初期太陽系においては、海王星はもっと太陽に近かったのではないかと考えてもいる。海王星が小惑星を外へと“蹴散らす”ことでそのような小惑星が誕生し、また同時に、角運動量を失った海王星は現在位置するような外部軌道へと遷移していったのではないかというシナリオである。ただこれは条件が複雑で、まだ確かといいきれない点が多い。

バフィーの軌道は太陽から約52〜62天文単位(1天文単位=地球・太陽間)を維持している。今後、より軌道を確定するために観測が続けられる見込みとなっている。バフィーの発見の元となった画像など、詳細はこちら。【CFEPS/SpaceDaily 12.14】

<追加情報 12.13. 2005>

冥王星探査計画「ニューホライズン」を指揮するアラン・スターン氏(下写真)の、打ち上げ1ヶ月前の報告がリリースされています・・↓

私(スターン)は1988年の初頭より、米国で冥王星探査ミッションを模索してきた。数週間にわたる同僚らとの議論、ちょっとした企て、それに、31歳だった私自身の奮起をひっさげて、NASA幹部連との最初の会合に臨んだのは1988年5月8日だった。その時のNASAの担当官はジョッフ・ブリッグス氏だった。

会合の席上、私はジョッフ氏に尋ねた。「ボイジャーはまもなく海王星へ到達しようとしているが、NASAで冥王星探査のプランを練ってはいかがだろうか?」これに対するジョッフ氏の、まるで欺しているような率直な返答は、私の警戒心を解いた。「アラン君、我々はやらねばならない。私はそれがどのように行われるべきか検討してみるつもりだよ。」

もしあの時、私と同僚がその後何が起こるのか、何回の会合や提案、プレゼン、白紙撤回、復活を重ねればよいのか、などなど知っていたとしたら、多分この仕事を行う度胸は無かっただろうと思う。だが当時、誰がそれらを知り得ただろうか?ジョッフ氏の前向きな反応は、ミッションはたやすく行えるように響いたのだ。それで我々は取りかかったのだ。

さてもちろん、それは易しいものでは無かった。しかし今、… 6060日、そう、211ヶ月間たった今 … やっとこう言うことができる…「来月、冥王星へ発進するのだ」と。

今年11月、ニュー・ホライズン計画は大きな進展をいくつか経験した。具体的には、

・初めて放射性同位体熱発電装置(原子力電池・RTG)を衛星に装着、電源を投入、
 システムが全て完璧に作動することを確認した。

・打ち上げロケットの上段(第3段)が完成した。

・打ち上げロケット下段(アトラス)の第41番射点への直立据え付け並びに燃料搭載
 状態での打ち上げプロセス・ドレスリハーサルが行われた。

・ミッションの最終リハーサルと衛星の最終チェックが完了。

・衛星の最終回転試験が完了。その結果を元に、飛行中のウェイトバランスを保つた
 めに必要とされる微調整バランスウェイトの算出と見積もりを遂行。それに基づき、
 姿勢制御用ヒドラジン燃料を77kgと決定。

・実際にヒドラジンを注入し、微調整ウェイトを搭載下においてチェックを完了。

燃料に関してであるが、我々はヒドラジンを77kgまで注入可能であった。理論上の限界値は、すなわち満載は、80kgである。しかしシミュレーションによる実際の飛行下における必要量はずっと少なく、約60kg程度で大丈夫というものだったため、大体68kg程度、すなわち満載の85%搭載に落ち着くだろうと我々は話していた。しかし実際は77kg搭載となったことで、これは満載の96%に相当なのだが、非常に喜ばしいことである。

(画像・右手前はボ社の第3段ロケットモーター。左奥がニュー・ホライズン探査機で、このロケットモーターのトップに装着されることになる)

これが意味することは何か?それは、スピン試験の一連の過程で決定された衛星の最終予定重量よりも、やや軽いだけということだ。これは、衛星と打ち上げチームにとっては理想的な状態である。

(注:衛星(ペイロード)は軽い方がよい。燃料が少なくて良いのであれば減らすに越したことはないが、しかし、当初の計算通りに燃料搭載が決まったということで、シュミレーションで得られた結果に近い状態で事が運ぶということが言いたいのだろう@管理人)

我々は正に、打ち上げの瀬戸際に立っている。しかし、他のミッションでもよくありがちなことなのだが、いくつかの問題点と向き合っているのも確かである。我々の場合、それは、自立飛行ソフトウェアのテストの遅延などである。

我々はそれらも念頭に置きつつ、2006年11月午後2時11分(米東部時)に開く打ち上げウィンドウ(発射可能時間帯)を目指しているのである。

子供が大学を卒業し、親の手を離れて自立していくように、正にその時が来つつある。もし全てが順調に進んだとしたら、3300日後には冥王星との遭遇があるはずである…。【New Horizons HP 12.13】

…ニューホライズン計画に関するメディアブリーフィング(記者会見)が、日本時間20日午前3時(米東部時間19日午後1時)よりNASA本部で行われ、NASA・TVで中継される予定です。アラン・スターン氏を始めとした関係者も同席とのこと。詳しいスケジュールの確認などはNASA・TVへ。【NASA TV】

<追加情報 12.08. 2005>

海王星の外側、冥王星を含む外太陽系に分布する「カイパーベルト」。このベルトの存在を予言しその名にもなった惑星科学者ジェラルド・カイパー(1905-73・写真)の生誕100年を今月7日に迎えた。

カイパーはオランダ生まれの米国人で1905年12月7日に生まれた(1937年、米国市民権取得)。彼は20世紀を代表する惑星科学者の一人で、1950年、「海王星の外側に多くの小惑星が存在する」という仮説を立てたことで知られる。その後この小惑星帯は「カイパーベルト」と呼ばれ、今日に至っている。

この真偽は長い間議論されてきたが、転機は1992年に訪れた。ハワイ大学のデーブ・ジューイットとジェーン・ルーが発見した小惑星「1992QB」は冥王星のすぐ外側を回る天体で、この領域 … カイパーベルトと呼ばれてきた所 …に発見された最初の天体であった。この領域の天体は「トランス・ネプチューン天体」(海王星以遠天体)と呼ばれている。

その後続々と発見が続き、今では1000以上の小天体が発見されている。

(右・太陽系とカイパーベルト。カイパーベルト天体が黄色で示されている。海王星軌道〜200天文単位程度までの領域に、10万を超える小天体が存在すると推測されている。1天文単位=地球−太陽間距離)

「ニュー・ホライズン探査機が飛び立とうとしているのが、カイパー博士の生誕100周年と重なるのは、タイムリーなことだね」と語るのは、ニュー・ホライズン計画の主席研究員であり、テキサス州サウスウエスト・リサーチ研究所(SwRI)の宇宙科学研究部長を務めるアラン・スターン博士。

「カイパーベルトは太陽系で最も大きな領域であり、冥王星系を含む、海王星より外側に位置する小天体達の懐。それらの発見は太陽系構造に関する我々の理解に革命をもたらし、また、新たな矛盾なども突きつけているが、何より、既存の惑星達よりも多くの冥王星のような小天体が存在するということにワクワクするね。」

カイパーが生前残した業績は多岐にわたり、他の惑星や小惑星、恒星や惑星状星雲などに関する方面に及ぶ。それらにはセファイド変光星や連星の掩蔽に関する研究、タイタン大気の発見、天・海王星大気中のメタン、天王星の衛星ミランダ、海王星の衛星ネレイドの発見、月の起源の考察、赤外線観測装置の開発などが含まれる。彼は1973年12月23日、68歳でこの世を去った。

また、カイパーの弟子達からは、多くの著名な惑星科学者を輩出している。例えばカール・セーガンはその一人だ。

「50年前、カイパーはあらゆる惑星を研究していたが、当時それらに関心を寄せる研究者は殆どいなかった」と語るのは、ニューホライズン計画に携わる研究者であるビル・マクキノン博士。「しかし望遠鏡と装置の発達によって、今日では当たり前となっている多くの偉大な発見を彼は示していたんだ、ということがわかるよ。」

カイパーベルトと冥王星の探査は、米国研究者会議(NRC)により、NASAが行うべき惑星探査ミッションで最優先事項に位置づけられている。スターン博士はミッション統括リーダーで、運用はジョンホプキンス大学応用物理研究所が担うことになっている。【New Horizons HP 12.08】

<追加情報 12.07. 2005>

NASAのここ数日のロケットステータスに関していくつか・・

来月1月11日2時11分〜4時7分(米東部時間)の打ち上げを目指して準備中の冥王星探査機「ニュー・ホライズン」に関して、打ち上げロケットであるロッキード・マーチン社のアトラスXロケットの射点におけるドレスリハーサル(模擬試験)が6日、無事に終了した。このテストではRP-1ケロシン燃料及び液酸・液水燃料の満載状態下におけるチェックが遂行された。固体補助ロケットが全て装着し終わったのは11月29日だった。

非常時の際など、地球からの指令無しに探査機が自律的に実行するプログラムのチェックも問題なく完了した。

ボーイング製の第3段ロケット「セントール」は金曜日に先端に装着される予定。

             

(画像・リハーサルはセントールが無い状態で行われた。ロケット中段より、沸騰・蒸発する液体酸素で生じる水蒸気が吹いている。周囲に立つ4本のタワーは避雷針)

また、ニュー・ホライズン探査機に姿勢制御用ヒドラジン燃料の注入が日曜日に行われた。探査機のセントール・フェアリング内への格納は12日が予定されている。

他、打ち上げロケット初段にボ社のデルタロケットを用いたミッション(「クラウドサット」など)はボ社従業員のストのために進展無し。クラウドサットの打ち上げは早くて年明け2月とのこと。【NASA 12.07】

<追加情報 11.19. 2005>

今月上旬から米ボーイング社の従業員の一部がストに突入したことにより、現在進行中の各ミッションに影響が出つつあるが、冥王星探査機「ニュー・ホライズン」の打ち上げロケットの整備は滞りなく行われている。

現在、年明け1月の打ち上げを目指して打ち上げロケット上段の「STAR48」ロケットモーターの準備が進められている段階だが、担当するチームのうち、ボ社に所属する5人の作業員がストに突入した。しかしボ社は彼らにかわり、ストを行っていない同社社員を6人派遣することで、ミッションの遅延をまぬがれているという。

この6人は経験豊富なエンジニアで、うち1人は作業全体を監督する立場にあるという。

「安全性とミッションの成功は、我々に最も重要なものだ」と語るのはプロジェクトマネージャーのジョン・ホプキンス大学応用物理研究所のグレン・ファウントゥン氏。「我々はこの経験豊富なチームがロケットモーターを予定通りに完了するのを期待しているよ。ニューホライズンは1月の予定された打ち上げ期間に打ち上げ可能だね」とも。

NASA・ケネディ宇宙センターからもボ社のロケットモーターに精通したエンジニア達が応援に駆けつけている。

なお、このミッションには原子力電池(RTG)が用いられている(右)。これは多くの惑星探査機にこれまでも使用されてきたが、プルトニウムを利用するために、安全性は最優先とされ、また、対外的にも(核反対派などに対し)神経質になってきた。

RTGはエネルギー省の管轄で、ここから提供され、打ち上げの直前に装着される。打ち上げの最終ゴーサインはホワイトハウス科学局から出されることになっている(上画像は探査機へのフィットチェックが終わった後、再び取り外され、金属ケースに格納されるところ。管理区域に一旦戻され、打ち上げの時に運び込まれることになっている)。

        

(ターンテーブルに乗せられ、回転試験中の探査機。思いっきり振り回してますねぇ…(^^; 今月14日、ケネディ宇宙センターにて)【NASA/New Horizon 11.19】

…ボ社のストは「クラウドサット」など、多くの衛星の打ち上げロケット整備を麻痺させ、全体的なスケジュールの遅れと遅延に伴う予算超過が懸念されています。ニューホライズンにこのような特待が与えられたのは、トップミッションに位置づけられているのでしょう・・・ロンチウインドは限られますし、なにせ相手が冥王星ですからねぇ。絶対遂行して欲しいですね!

<追加情報 11.14. 2005>

史上初の冥王星探査機「ニューホライズン」の打ち上げを年明け直ぐに控えてでしょうか、にわかに冥王星熱が高まりつつあるような・・

今週末、カリフォルニア州パサデナ市のパサデナ市立大学にて、冥王星探査計画に関するフリーレクチャーが計画チームの代表らによって行われます。これはネットでも中継され、NASA-TVで視聴することができます。

日時は現地時間で木、金曜日の19時(日本時間、18日金曜 昼12時、19日土曜 昼12時より)からそれぞれ約1時間の予定とのこと。詳しくは下記のサイトをご参照下さい。【NASA 11.14】http://www.jpl.nasa.gov/events/lectures/nov05.cfm

…右は、冥王星に関して歴史的、理学的視点から専門的に書かれた文献としては恐らく最も詳しいと思われるものです。Wiley-Vch社から出版された新刊本で、“Pluto and Charon”というタイトルです。著者はアラン・ステルン並びにジャクリン・ミトンの両氏。ステルン氏はニューホライズン計画のリーディングメンバーの一人。冥王星系には昔から興味があった私、先日購入してみました(アマゾンにて取り寄せ)。

表紙に惹かれたという事実もちょっと・・(笑)

この本は改訂新版で、初版は1997年にリリースされていますが、それを最新の結果や探査計画の概要を盛り込む形で大幅に書き換えたもの。ニューホライズン計画も描かれていますが、これに関してはウェブでリリースされている内容の方が詳しいようです(・・当然かな、ウェブはリアルタイム更新だし・・)。

ただ、冥王星やその衛星シャロンの発見やそのプロセス、冥王星系の理学的な事実(大きさや内部構造、大気、力学的運動などなど)の解説は詳細で、そのような内容に興味のある方にはお勧め(著者が惑星科学の専門家なので、当然の内容か・・)。僅かな情報から、如何にして多くを引き出すかということが非常に勉強になります。数式は一切ありませんが、物理の基礎を知っていたらよいかなという部分も多いです。

また、単なる事実の列挙というわけではなく、どのような人物達が関わったかもふんだんに盛り込んである、“人の顔の見える”内容です。著者の人柄もかいま見えるような、ユーモアも交えた内容が展開されています。

ところでアマゾンの注文ページ(上のリンク参照)は「予約受付中」となっていますが(11/15 現在)、実際は既にリリースされています。私は11月の頭に予約注文したのですが、何と1週間後にやってきました・・

先日、アマゾン発の宅急便不在票がポストに入れてあり、一瞬「?」・・しかしすぐにこの本のことを思い出し、発行は12月に入ってからのはずだったので、「もしや、旧版がきてしまったのでは?」と、翌日の再配達を凹み気味に待っていたのですが、開けてみると何と新版。まだ無いはずなのに!?

版元のウェブを覗いてみると、10月にリリースされたようです。

アマゾンはページの更新と実際がつり合っていないこともしょっちゅうですし、この件もその例でしょうか。しかも、私が注文したときは6000円だったのですが、今は9000円になってるし(高!)。。まあ、細かいことはさておき、なかなか面白いです。

<追加情報 11.08. 2005>

冥王星探査機「ニューホライズン」の最終仕上げは順調で、現在、各種シミュレーションとチェックで大わらわとのことです。

(右は、チェック中の探査機・・技術者と比べると、サイズがよくわかります。なお、黒い棒状のものは原子力電池ですが、これは後ほど一旦外され、取り付けられるのは最後の最後、フェアリングが被せられた後で、小さな穴を通して装着されます)

先日、冥王星に新たに2つ衛星が見つかりましたが、これはニューホライズン・チームを喜ばせているようです。複数の小天体を調査できるようにソフトフェアを改良しておいた甲斐があったとのこと。【New Horizons 11.08】

<追加情報 11.01. 2005>

でた!最近、小さいだの、ゼナの方が大きいだのといじめられていた冥王星の秘密兵器か!?

NASAのハッブル宇宙望遠鏡による観測で、冥王星は、実は3つ衛星を持っている可能性が高いことがわかった。

  

これがもし確定されると、2つの新衛星は、冥王星系の形成過程とカイパーベルトの起源に迫る手がかりを与えるものとなりうる。

「もし、このハッブル画像が示すのが本当に新衛星であるとすれば、カイパーベルトに存在する小天体の中で、複数個の衛星を持つ最初の天体となる」と語るのは、ジョン・ホプキンス応用物理研究所のハル・ウィーバー氏。同氏はこの発見をした観測チームのリーダーの一人。

冥王星は1930年に発見され、その衛星シャロンは1978年に発見された。冥王星系は「カイパーベルト」と呼ばれる太陽系外縁の小惑星帯に存在し、近年、冥王星以外の小天体も複数個発見されている。2003年に発見された天体UB313 2003は最近、冥王星よりも約2割大きい可能性が高いことがわかり、「ゼナ」(Xena)とニックネームまでつけられている。

(右はゼナの軌道(青)。軌道は大きく離心しており、冥王星よりも遙かに外から海王星軌道まで入り込む格好になっています。現在は最も遠い距離にいる状態です。公転周期557年だそうで・・5世紀半!)

「この発見は、カイパーベルトの他の小天体の多くも衛星を持っているかも知れないことを示唆している。またこれは、惑星研究者は、冥王星系形成の研究にはこれら2つの新衛星のことも考慮に入れなければならなくなることを意味している」と語るのは、サウスウエスト研究所のアラン・ステルン氏。同氏も調査チームのリーダーの一人。

今回発見された新衛星とおぼしき天体には、仮符号として「S/2005 P1」及び「S/2005 P2」が与えられた。両者は冥王星から約43000km離れており、これは冥王星−シャロン間のざっと2〜3倍に相当。

調査チームは年明け2月に再びハッブル望遠鏡で追加観測を行うとしている。その後、正式な名称が国際天文連合により与えられることになる。

発見の元となったのは、今年5月15日に撮影された冥王星系の画像だった。そこには、冥王星とシャロン以外に、暗い、2つの天体が写っていた。3日後再び撮影したところ、それらはやはり冥王星の周囲に存在し、しかも、その周囲を公転しているように運動していたという(上写真)。

「今回の冥王星系の調査は、これまでにない注意深さで行われたもの。冥王星系にさらに衛星があるとは思ってもいなかったよ」と語るのは、チームのメンバーの一人、アンドリュー・ステッフル氏。

ちなみに、2002年6月14日にハッブルが撮影した冥王星系の画像を再精査したところ、今回発見された衛星らしき天体が2つ写っていたことが判明したという(右画像・上は黄色フィルターを通して撮影された画像で、下は青フィルターを通して撮影されたもの。上の画像で左側に2つ矢で示された“New Satellites”が、今回確認された新衛星)。【Hubble Space Telescope 11.01】

…追加観測が楽しみですね!!上の画像は、素人目にも、冥王星の周囲を周回しているように見えますよね。しかし、月を3つも持つとは・・地球よりも財産持ってるな〜(笑)

<追加情報 10.02. 2005>

先頃「第10番惑星の発見」と報道され話題となった小天体 “UB313 2003”に衛星が存在することがわかった。「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」(ApJ-letters)誌10月3日号に発表される。

このUB313は、最新の観測では冥王星よりも約2割ほど大きいサイズを有すると見積もられており、「冥王星が惑星であるのなら、この天体を惑星に追加すべきだ」という議論が今だ続いている。距離は97天文単位(1天文単位は太陽−地球間の距離)で、太陽系で見つかっている天体としては最も遠距離にある。

ニックネームとして「Xena」(ゼナ)と呼ばれている。

今回見つかった衛星は、ゼナの約100分の1の明るさで、約2週間で1公転していると見られる。先月9月10日、ハワイ・マウナケアのケックU大型反射望遠鏡で撮影され、その姿が直接捉えられた。

(画像:大きく輝くのがゼナで、その右脇に小さく輝くのが衛星)

「ゼナを発見したときから、これが衛星を持っているのか否かが非常に気になっていた。衛星を持つというのは惑星として本来格好のつく姿であり、殆どの惑星がそうだ。だから、ゼナが衛星を持つというのは惑星として相応しい姿といえる」

と語るのは、今回発見したケック天文台のマイケル・ブラウン教授。教授はこの衛星に「ガブリエル」とニックネームをつけている。ガブリエルの直径は250km程度ではという(ゼナは2700km 因みに冥王星は2274km)。

ガブリエルの大きさをより正確に見積もるには、構成物質を詳しく調べる必要がある。また、今回衛星が発見されたことで、その運動を調べることでゼナの質量をかなりよいスケールで見積もることができる。

より詳しい観測は、11月及び12月に、ハッブル宇宙望遠鏡で行われる予定になっている。

「ゼナとガブリエルの間の距離と、ガブリエルの公転速度を組み合わせると、かなり正確にゼナの質量を見積もることができる。もしゼナが重たいなら、ガブリエルは速く公転し、その逆もまたしかり」と、ブラウン教授は語っている。【SpaceRef 10.02】

<追加情報 09.27. 2005>

史上初となる冥王星の探査に向けて、NASAの冥王星探査機「ニュー・ホライズン」がゴダード宇宙センターからケネディ宇宙センターへと空輸された。探査機は4ヶ月間に渡り、ゴダード宇宙センターにて各種環境テストが続けられていた。このほどそれが終了し、打ち上げが実施されるケネディ宇宙センターへと運ばれた。
                 
                    ゴダードを出発           貨物機に搭載
                 
                     ケネディ到着           貨物機より搬出

探査機は先週土曜日の夜(現地時間)、空軍のC-17輸送機に積まれてケネディに到着した。探査機は現在、クリーンルームに保管されている。この後、打ち上げに向けてのファイナルチェックが実施される予定。

10月にチェックが行われ、11月には姿勢制御用のヒドラジン燃料などの注入が行われ、バランステストが実施される。その後、カウントダウンリハーサルが行われ、12月には射点へと搬送されることになっている。

全てが順調に進むと来年1月11日、ロッキード・マーチン社のアトラスXロケットにより打ち上げられる。ロンチウインドは1月11日〜2月14日の約1ヶ月間。この間に打ち上げられると、最速で冥王星へ行けるが、それでも約10年後になる。
【New Horizons/JHU-APL 09.27】

<追加情報 09.01. 2005>

年明けに打ち上げが予定されているNASAの冥王星探査機「ニュー・ホライズン」の真空槽内でのテストが8月いっぱいで終了した。結果は良好とのこと。

真空槽内でのテストはNASAのゴダード宇宙センターで6週間にわたり行われ、宇宙空間を模した高温、低温環境が衛星に与える影響のチェックと各種器機の性能テスト、及び通信器機の作動確認などが含まれる。

今後はテスト中に見つかった衛星の不具合(フラッシュメモリーとコネクタの一部)の交換などが行われ、順調にいけば1ヶ月後にはフロリダへ輸送される。

下はニュー・ホライズンの予定クルージング・コース。2006年1月に打ち上げ後、木星を目指して突っ走り、同惑星の重力アシストを受けて冥王星を一気に狙う。予定では、史上最速の衛星となることは間違いなく、打ち上げから9時間後には月軌道を通過し、13ヶ月後に木星に到達する。冥王星到達は2015年6月の予定。【New Horizon 09.01】

<追加情報 08.03. 2005>

冥王星探査機「ニュー・ホライズン」は目下、NASAゴダード宇宙センターで順調に環境テストを受けている。

これは巨大な真空槽に探査機を入れ、宇宙環境と同じ状況をつくり出すことでその性能や仕様の耐久度や信頼性を試験するもの。探査機は小型とはいえ複雑にできているので、このようなテストでは様々な不具合が見つかるのが常(…というか、見つけるためにテストをするのでしょうけどね(笑))。

先月は64個あるフラッシュメモリーのうちの1つが不具合を起こした。このメモリーは各種観測データや機体の状態を記録する重要なもので、メモリーパッケージが2組搭載されている。トラブルは製造過程に原因があるものと考えられているが、交換はさほど難しいものではないという。【New Horizon 08.03】

<追加情報 08.01. 2005>

「第10番惑星」と呼ばれている、冥王星より遙か外を公転する小天体2003UB313について、同天体のスペクトルがハワイ・マウナケアのジェミニ大型望遠鏡で撮影されていたことが公表された。観測は今年1月25日に行われていた。

スペクトルは近赤外線波長域で測定され、それによると、この天体のスペクトルは冥王星のそれと酷似しており、表面にメタンの氷の存在を示すデータが得られたという。

(画像:上は新天体2003UB313で、下は冥王星(Pluto)。両者とも酷似している。矢印の“谷間”は、メタンの氷の存在を示唆する)

メタンの氷の存在はこれまで、冥王星と海王星の衛星・トリトンのみで確認されている。これらに加え、2003UB313で確認されたのは興味深い。

まだこの新天体のサイズはきちんと同定されていないが、ほぼ同程度ないしやや大きいことは間違いないと見られている。これに加え、表面の組成が冥王星に近いというのは、非常に注目すべき事である。【SpaceDaily 08.01】

<追加情報 07.31. 2005>

「10番目の太陽系惑星を発見した」との米航空宇宙局(NASA)の30日の発表について、専門家からは「断定するのはまだ早い」などと、慎重な声も上がっている。

発見した米国の研究者は、最大で冥王星の1・5倍とした大きさを、惑星と判断した根拠に挙げている。だが国立天文台の渡部潤一助教授は「認定には同じような軌道面に似た大きさの天体が無いことも必要で、冥王星より大きいというだけではすぐに認定できない」と話す。

惑星か否かの検討は、来年夏にプラハで開かれる国際天文学連合(IAU)の総会でスタートするが、結論が出るまでに時間がかかりそうだ。【共同 07.31】

<追加情報 07.30. 2005>

NASAは、10番目の惑星を発見したと発表した。

この惑星は約97天文単位(1天文単位=太陽〜地球間)の距離にあり、「カイパーベルト」と呼ばれる太陽系外縁の領域に存在する。おおざっぱに言えば、冥王星までの距離の約3倍のところ。

カリフォルニア州サンディエゴ郊外のパロマー山天文台にあるサミュエル・オースチン望遠鏡(主鏡48インチ=1.2m)で撮影された写真より見いだされた。

           

画像は2003年10月31日に撮影されたもの。約90分間隔で撮影されたものだが、○で囲まれたものが該当の天体。その後の精査で、これが動いていると気付かれたのは今年1月8日だった。

この天体は小惑星が多いカイパーベルトに存在し、確かに小さいが、「冥王星の1.5倍」というサイズは、冥王星を惑星と認める限り、同様に惑星と認定しても不思議ではないもの。仮符号2003UB313が今のところ与えられている。

これを確認した1人である、MITの惑星科学者マイク・ブラウン氏は「冥王星より確かに大きい」と語る。【JPL/SpaceRef 07.30】

<追加情報 06.30. 2005>

冥王星探査機「ニュー・ホライズン」に、名前を焼き付けたCDディスクが搭載される。探査機に名前を載せて飛ばすという“余興”は、日本の火星探査機「のぞみ」でも行われたもの。

現在、ウェブサイトで名前の登録が随時行われている。興味のある方はこちらへ。【New Horizon 06.30】

<追加情報 06.14. 2005>

来年1月に打ち上げが予定されている冥王星探査機「ニュー・ホライズン」の組み立てが終了し、製作工房であるジョン・ホプキンス大学応用物理学研究所から、NASA・ゴダードスペースセンターへ向けて搬送された。

ニュー・ホライズンはピアノサイズの小型探査機で、来年1月にアトラスVロケットで打ち上げられ、2015年の夏に冥王星に到達、その横を通り過ぎながら各種観測を行い、さらに太陽系外縁へ向けて飛行を行う予定。これまで未知の世界であった冥王星とその外側へ特化する探査計画で、10年を超える長期プロジェクトになる。

探査機は組み立て終了後、先週まで震動テストを受けていた。このテストは打ち上げ時の震動に耐えられるかどうかをチェックするもので、震動台に据え付け実際に震動を与えてテストされる(右下写真は組み立て途中の探査機)。


ちなみにアトラスVロケットはロシアのRD-180エンジンを改良したシステムを搭載し、最大5本の固体補助ロケットを装着、5トンもの衛星を軌道へ送ることができる代物。僅か450キロの小型探査機をこの強力なロケットで“投げ飛ばす”ことで生じる加速は探査機史上最高で、約9時間後には月軌道を越え、13ヶ月後には木星の傍を通過するという駆け足。

ゴダードへ移された探査機はこれから3ヶ月にわたり、各種チェックが行われる。その中には、4階建てに匹敵する巨大真空槽で高温や低温などといった実際に近い宇宙環境を再現しての、過酷なパフォーマンステストも含まれる。【New Horizon 06.14】

<追加情報 06.11. 2005>

冥王星が、発見された当時(1930〜40年代)に観測された光度が、記録に残された数値よりも僅かに小さいことが明らかになった。最新技術で当時の乾板を再分析したところ、最大で1等級のズレがあったことが判明したという。

1930年、ローウェル天文台に勤務していたクライド・トンボーが冥王星を発見、その後世界各地の天文台で観測が行われた。当時は写真乾板を頼りに、周囲の恒星と比較して光度が決められていた。それ故主観が入りやすく、発表光度にはばらつきがあったのも事実。1950年代に光電管が発明され、客観的な測定ができるまでこの状況は続いていた。

ところで、光度の数値は冥王星に関する重要なヒントを与える。例えば大気の存在といったものに直接触れる素材であり、それゆえ正確さが要求される。

冥王星は横倒しの状態で自転しており、当時は南極側を太陽に向けて公転していたことがわかっている。今回の結果から、南極側に存在するであろうメタンの氷などは気化し、(反射率が落ちて)全体として光度が暗かったのだろうと推測することができるという。

ちなみに、冥王星の公転軌道は他の惑星よりもやや潰れた楕円軌道を描くため、太陽からの距離が大きく変化する。1990年の頃をピークに、現在は距離が近く(といっても、地球からは遙か彼方ですが)、表面に凍り付いているメタンなどが気化し、大気を形成している。これらは当然、冥王星の光度にも大きな影響を与えている。

このように、微妙な光度の変化を基に、冥王星大気の変化をダイレクトに追うのだという。当然だが、これは大気モデルの推定には重要な情報となる。【Sky & Telescope 06.11】

(なお、1990年代にはシャロンによる「冥王星食」が観測されていました(上図参照))

<追加情報 05.09. 2005>

冥王星と太陽系外縁を探査する「ニュー・ホライズン」計画が順調に進んでいる。4月末までに探査機の組み立ては終わり、最終試験段階に入っているという。予定では2006年1月〜に打ち上げられる。

冥王星はこれまで一度も探査機が訪れていない、太陽系で最後の未踏惑星。それ故過去には何度か探査計画が提案されていたものの、予算の問題で頓挫することが多かった。

NASAは2000年12月末、突如、冥王星探査計画に関する企画公募を発表。それから僅か2週間のうちに、6つの大学からの提案が寄せられた。それらを集約して、現在推進中の「ニュー・ホライズン」計画が出来上がった。

関わる大学や研究機関は Southwest Research Institute (SwRI)、 the Johns Hopkins University Applied Physics Lab (APL)、 Stanford University、 Ball Aerospace 他、20を超える研究所や関係部門である(因みに現NASA長官グリフィン氏は以前、ジョン・ホプキンス大学に在籍)。

ところで、もっとも困難を極めたのは、実は“ネーミング”。当初、長い名前の頭文字を並べて作ろうとした。例えば水星探査機は“MESSENGER”(メッセンジャー)であるが、これは MErcury Surface, Space ENvironment, GEochemistry, and Ranging の頭を取って並べたもの。

しかし、2001年1月、うまいものが思いつかず、挫折。

そこで短縮形を諦め、ブランドのある名前を付けようと、関係者達の間から公募する形になった。そこでいくつかに絞られたのが次のもの。

「X」
未知の“プラネットX”を探査するから。また、超音速飛行を目指した「Xシリーズ」飛行体への敬意を表して。

「トンボー・エクスプローラー」
冥王星を発見したトンボーに敬意を表して。

「ニュー・ワールド・エクスプローラー」
いまやろうとしていること、そのまんま。

「ニュー・フロンティア」
最後の未踏惑星を探査するということと、月を目指して突っ走っていたケネディ時代に傾聴して。(アポロ計画はニュー・フロンティアと呼ばれた)

「ジャイアント・リープ」
アームストロングが月面に降り立ったとき「大きな飛躍だ」(One's giant leap)と語ったことにあやかって。

しかし、どれも結局反対意見ばかりだった。「“X”はまずいだろ?“ドラッグ”の意味もあるぞ」「ニュー・フロンティアはあからさまにケネディを連想させないか?」「トンボーって何だい?って思われないか?」「ジャイアント・リープって…信仰を超越するのか?」(管理人注:One's giant leap が leap faith = 信仰を超越する = 宗教的な悟りを連想させるからダメ、ということか?)

「ボイジャー3号」という案もあったが、これも却下。あげくには「プルート(冥王星)自体、“冥土”だろ…みんないずれは行くところだよな」と皮肉まで出る始末。

最終的に名前を思いついたのはチームの一人、Alan Stern 氏。彼はもっとポジティブな発想で“New”を入れることにし、ある日車で走っている途中、遙か西の地平線の彼方にロッキーが見えたとき、「これだ!」とひらめいた。

地平線=ホライズン。地平線の彼方に、何か新しいものがある…そこで彼は「ニュー・ホライズン」と提案。こうして正式名称が決定したという。「まるで赤ちゃんの名前をつけるようなものだったよ」と彼は語っている【New Horizon 05.09】

<追加情報 04.12. 2005>

開発の遅れが懸念されていた探査機の撮像装置「ラルフ」が、Ball Aerospace社から機体組み立て工場へ届けられた。ラルフはこのミッションで最も重要なパーツであり、この威力がミッションの正否に直結している。【SpaceDaily 04.12】
…これで一安心ですね!


<追加情報 02.18. 2005>

2005年2月18日、太陽系第9惑星・冥王星の発見75周年を迎えた。

1930年2月18日、ローウェル天文台に勤務していたクライド・トンボー(1906-1997 写真)が、日にちをおいて撮影したふたご座の2枚の写真から、移動している天体を発見、それが惑星であることを確認した。なお、念を期して、公式発表は3月13日に行われた。トンボーは当時、24歳の大学院生だった(右・ローウェル天文台の入り口での姿)。

  

下は、“プラネットX”の発見を伝えるトンボーの書簡。最後に“Planet "X" (Pluto) at last found !! ”とあるのが、興奮を伝えている(海王星の外側にあるであろう惑星は、「プラネットX」として長い間、捜索が続いていた)。

  


<追加情報 02.08. 2005>

冥王星を探査する「ニューホライズン計画」のウェッブサイトが全面リニューアルされた。この計画は冥王星と更にその外側の空間を調査する、壮大なもの。使用される探査機の組み立ても進んでおり、順調にいけば2006年1月に打ち上げられる。サイトはこちら。【New Horizon newsletter 02.08】

<追加情報 01.29. 2005>

太陽系最遠の惑星・冥王星とその衛星・シャロンについて、シャロンは冥王星に別の天体が衝突し、剥がれたものが周回し始める形で形成されたのではないかという新説が、1月28日付「サイエンス」誌に発表された。

冥王星は地球の月よりも小さいが、その周囲に、冥王星の直径の約半分に相当する衛星・シャロンがあることは知られている(写真)。

地球と月の直径比は約4:1でかなり大きいが、冥王星とシャロンは2:1で、太陽系最大。地球の月は地球に巨大天体が衝突してはぎ取られたものであるという「親子説」が有力だが、冥王星とシャロンの関係はどうなのか、数値解析が行われた。

研究を主導しているSouthwest Research Instituteのロビン・カヌープ博士がコンピュータシミュレーションを行ったところ、地球の月の形成と同じメカニズムでシャロンが形成しうることが示せるという。

<追加情報 10.19. 2004>

冥王星及びその外側の「カイパーベルト」と呼ばれる領域を探査するために計画されている「ニュー・ホライズン計画」の遅れが懸念されている。

この計画では探査機を飛ばして冥王星と太陽系外縁を調査するのが目的であるが(右・想像図)、探査機に搭載される予定の“ラルフ”と名付けられた撮像カメラの開発が大幅に遅れているという。遅れは数ヶ月に及ぶといい、開発を担当している Ball Aerospace 社から開発を取り上げることを計画チームは決定したが、同社はこれを拒否している模様。

最悪の場合、最終的に冥王星到着が4年もずれ込むことになりかねないという。この結果で生じるロスは10億ドルにも達するといい、これはラルフを製作する費用のざっと5倍にも相当するという。 【SpaceToday 10.19】