冥王星・遙か

初版: 07.22.2001

太陽系には9つの惑星がある。太陽に近い方から「水・金・地・火・木・土・天・海・冥」ゴロで覚えた人が殆どだろう。このうち探査機により調査が行われた惑星は水星〜海王星の8つ。特に金星は旧ソ連、火星は米国が精力的に調査した。

77年〜89年に遂行された米国の「ボイジャー計画」では、ボイジャー1、2号が共に木・土星へ接近(80年)。更に2号は天王星(86年)、海王星(89年)へ向かい、膨大な量の観測データと画像を送信してきた。

現段階で探査機が訪れていないのは冥王星。この惑星へ探査機を向かわせるプランが無い訳では無いのだが、これが昨年(2000年)からゴタゴタしている。

太陽系第9惑星、冥王星。1930年、米海軍天文台のトンボーによって発見されたこの惑星は太陽から約60億キロ・光の速さでも5時間はかかる距離を約278年かけて公転する。つまり、冥王星は発見以来、太陽をまだ半周もしていない。

この惑星はガス球体である木〜海王星とは異なり、岩石と氷の塊。その直径は最新の観測では約2500km、これは地球の月より小さい。衛星を1個持ち、その直径は約1200km、両者の比を考えると、「二重惑星」といった方が妥当かもしれない。(写真:左が冥王星、右が衛星)

冥王星とその衛星「シャロン」はこのため、力学的に特殊な状態にある。冥王星は約6.4日で自転するが、シャロンも約6.4日で冥王星の周りを公転、しかも自身の自転周期も6.4日。つまり、両者は常にお互いに同じ面を向け合ったままであることになる。地球の月が、常に地球に同じ面を向けていることよりも、更に特殊な状況にあるわけだ。

冥王星は他の惑星と異なり、やや潰れ気味の楕円軌道上を公転している。したがって太陽からの距離も大きく変化するのだが、現在は近い距離にある状態。そのため、地表に氷結していたメタンといった気体が気化、大気を形成している。

その距離とサイズのため、地球からはどう頑張っても表面の様子は分からない。観測技術が向上したとはいえ、何しろ、直径ですらはっきりしたことはいえないのだ。

冥王星に探査機を送り込む意義は?…「期間限定で形成されている大気は原始太陽系の情報を保存している」といった主張が科学者達からは出されているが、見果てぬこの惑星の素顔をナマで見てみたいというのが本音だろう。

昨年(2000年)夏、NASAは「プルート・カイパー・エクスプレス」と呼ばれる冥王星探査計画を破棄した。2004年の探査機打ち上げを目指していた同計画は、コストが当初の見積りの650万ドルから倍の1500万ドルに膨れ上がることが判明したためだった。火星に力を入れたいNASAの本音は、何が得られるかわからないこの小惑星に巨費をつぎ込みたくないといったところだろう。これに対し研究者達は猛反発、破棄の撤回を求めてきた。天体マニア達も黙ってはいない。その神秘さ故に、熱心なファンが大勢いるのも確かなのだ。私も見てみたい。

今月上旬、NASAは前年破棄した計画と同様の計画の審議を開始した。現段階で絞り込まれている2つの提案のうち、どちらかを選択するものと思われる。細かい差異はあるが、両者とも2004年に探査機を打ち上げ、約12年の月日をかけ冥王星に到着、その写真撮影や物理観測を目指している。だが、NASAが再びゴーサインを出したとしても、予算審議が議会を通過するかどうか…冥王星への道のりはまだまだ遠い。

<追加情報 04.12. 2005>

開発の遅れが懸念されていた探査機の撮像装置「ラルフ」が、Ball Aerospace社から機体組み立て工場へ届けられた。ラルフはこのミッションで最も重要なパーツであり、この威力がミッションの正否に直結している。【SpaceDaily 04.12】
…これで一安心ですね!

<追加情報 01.29. 2005>

太陽系最遠の惑星・冥王星とその衛星・シャロンについて、シャロンは冥王星に別の天体が衝突し、剥がれたものが周回し始める形で形成されたのではないかという新説が、1月28日付「サイエンス」誌に発表された。

冥王星は地球の月よりも小さいが、その周囲に、冥王星の直径の約半分に相当する衛星・シャロンがあることは知られている(写真)。

地球と月の直径比は約4:1でかなり大きいが、冥王星とシャロンは2:1で、太陽系最大。地球の月は地球に巨大天体が衝突してはぎ取られたものであるという「親子説」が有力だが、冥王星とシャロンの関係はどうなのか、数値解析が行われた。

研究を主導しているSouthwest Research Instituteのロビン・カヌープ博士がコンピュータシミュレーションを行ったところ、地球の月の形成と同じメカニズムでシャロンが形成しうることが示せるという。

<追加情報 10.19. 2004>

冥王星及びその外側の「カイパーベルト」と呼ばれる領域を探査するために計画されている「ニュー・ホライズン計画」の遅れが懸念されている。

この計画では探査機を飛ばして冥王星と太陽系外縁を調査するのが目的であるが(右・想像図)、探査機に搭載される予定の“ラルフ”と名付けられた撮像カメラの開発が大幅に遅れているという。遅れは数ヶ月に及ぶといい、開発を担当している Ball Aerospace 社から開発を取り上げることを計画チームは決定したが、同社はこれを拒否している模様。

最悪の場合、最終的に冥王星到着が4年もずれ込むことになりかねないという。この結果で生じるロスは10億ドルにも達するといい、これはラルフを製作する費用のざっと5倍にも相当するという。 【SpaceToday 10.19】