サバイバル(2)
政治の思惑でスタートした「シャトル・ミール共同ミッション」。しかし現場には米ロ双方に軋轢をもたらし、フラストレーションだけが溜まっていくものだった。ここで、ミールについて簡単にまとめておこう。
旧ソ連が1986年2月に最初の建造物を打ち上げて以降、徐々に拡張されていったミールは、10年後の96年にひとまず完成した。ミールは廃棄までの15年間、世界各国から100人以上の飛行士が訪れた、正に「旅の宿」とも言える。そこにはルームランナーもあればビデオもCDもカセットもあり、ゲームやギターもあれば、酒も置いてあった。科学研究の場にアルコールの存在とは、米国人も呆れたと言われるが、人間が長期生活をする上で“現実には何が必要なのか”を象徴する1つともいえる(ついでに、アダルトビデオもあった。しかも大量(笑))。
写真は在りし日のミールの姿。「モジュール」と呼ばれる建造物が、「ノード」と呼ばれるドッキングポートを中心に6機組み合わされている。この6機にはそれぞれ「クバント」「クリスタル」「スペクトル」等と名前が付いている。ノードはいわば、“中央交差点”だ。写真で、左端にくっついているのが貨物船「プログレス」で、一直線に反対側についているのが宇宙船「ソユーズ」。ソユーズは乗員の交替に用いられ、非常の際は救命ボートになる。
[資料] 軌道ステーション「ミール」 各部詳細 「ノード」を中心に4つのモジュール(Priroda・Kvant-2・Kristall・Spektr)が十字状に配置し、上方には「居住区画」(Core
Module)、更にその先に「クバント」モジュール(Kvant)があり、先端には「プログレス貨物宇宙船」(Progress
M1-5)が接舷している。各数値はトン数。 |
シャトルは、赤い色のドッキングポートに停泊する。飛行士達は中央の「コア・モジュール」で衣食住を行う。ただ、コア・モジュールの傷みは激しく、酸素発生装置などの故障は普通で、時には漏水や冷却剤の漏出などもあった。そしてそれを米国が知ったのは、実際に飛行士がミールへ入ってからだったのである。
(写真:コアモジュール内部。無重力では全空間が居住区になるので、意外と広い。中央にテーブルがあり、収納がたやすいようにポケットがついているが、取っ手は邪魔なので取り外されている。また、無重力では椅子は意味がないので備えてない。下に見えるのはルームランナー。かなりごちゃごちゃしているが、これらの中にはもう使わない“がらくた”も多い。ゴミだらけ(^^; 米国人の間では「ゴキブリが這っている」という噂もあったが、真相は…?)
◇
1997年2月12日、ソユーズTM25号がドッキングした。この時ミールには、ソユーズで来た者をあわせて、次の6人がいた。
ワレリー・コルズン(ロシア人・ミール船長)
アレキサンドル・カレリ(ロシア人)
ヴァシーリ・ツィブリエフ(ロシア人・次期ミール船長)
サーシャ・ラズトキン(ロシア人)
ラインホルド・エーバルト(ドイツ人・科学者)
ジェリー・リネンジャー(米国人・医師)
左から ツィブリエフ・リネンジャー・ラズトキン |
カレリ・エーバルト・コルズン |
このうち、コルズンとカレリは半年前からミールに滞在しており、3月2日にソユーズで帰還する予定になっていた。その入れ替わりとしてやってきたのが、ツィブリエフとラズドキン。ツィブリエフはこれが2度目であったが、前回はトラブルが多く、名誉挽回を狙っていた。エーバルトはドイツ人科学者で、コルズンらと帰還する予定の、短期滞在のゲスト。リネンジャーは米国人医師で、1ヶ月前にシャトル・アトランティス号でミールへやってきていた。彼はミールに乗る4人目の米国人だった。前任者のジョン・ブラハという男は苦労の連続で、一時は鬱にも陥った。それを踏まえたアドバイスも受けていたが、この1ヶ月はそう困難を感じていなかった。
ただ、リネンジャーは非常に個性の強い男で、それは米国人の間でも言われていることだった。彼に対する周囲の評価は「彼の行動は、自分のスキルアップのためだ」というもので一致していた。そんな彼であったから、ロシア人達ともすぐに摩擦を起こした。ロシアの心理学者達は、彼を搭乗させるのは反対だった。「チームワークに問題があり、長期滞在には向かない」というのが理由だったが、結局、強行された。
前号でも述べたが、米国には、ミールへ乗りたがる者が殆どおらず、自ら志願した彼は貴重だったのだ。
ブラハがリネンジャーに施したアドバイスは、「船長コルズンに気をつけろ。NASAの管制官もあてにならない」というものだった。リネンジャーは当初あまり気にならなかったが、徐々に、コルズンが神経質な男であることに気づき、いつの間にか苛立ちを覚えるようになっていた。彼の目にコルズンは、いつも体裁ばかり、ボーナスばかり気にしているように見えた。また、NASA管制官も、本当に自分を気にかけているのかあてにならないところが見えてきた。実際、サポート態勢はなっておらず、ブラハはむしろそれが原因で鬱になったほどだった。
一方、ロシア人達も、リネンジャーの自己中心的な性格に気づき始めていた。配慮を欠いた返事をすることもあり、それがすれ違いを増幅させ、軋轢となっていった。それは、地上のNASA要員に対してでもあり、長い間彼をサポートしてきた人達を失望させたりもした。このような状況でもし非常事態が起こったら…そしてそれが、現実のものとなってしまった!
◇
1997年2月23日午後10時。6人はコア・モジュールで食事を摂ろうとしていた。6人が一度に食するのは窮屈なので、普段は2交代になっていたが、この日はロシア国軍の祝祭「アーミー・デー」なので、一同でごちそうを囲むことになっていた。この週は忙しく、このディナーはその疲れも取れるような和やかな一時だった。CDが流され、歌や楽しいおしゃべりでつかの間を過ごす6人。食事が終わってもなお、暫くおしゃべりを交わす皆だった。
やがて、リネンジャーが「スペクトル」と呼ばれるモジュールへ移動し、睡眠についた。このスペクトル・モジュールは米国の資金援助で建造されたもので、1995年に打ち上げ、接続されていた区画だった。ここが米国人の実験室でもあり、寝床でもあった。そこで彼は、睡眠時のデータを取るための電極を体にゴテゴテと貼り付け、寝袋に入り、流れないよう、壁に固定して眠りについた。
一方、エーバルトとコルズンは「クバント」というモジュールへ通じる通路を臨む側におり、その正面にツィブリエフとカレリがいた。ツィブリエフとカレリは、クバントの入り口に背を向ける状態だ。
ラズトキンは、エーバルトとコルズンの背中を去るように、細い通路を通ってクバントへと入っていった。クバントは薄暗い区画で、そこには予備の酸素発生装置(SFOG)が備えてある。彼が目指しているのはそのSFOGだった。
ミールには2台のメイン酸素発生装置が備えてある。それは飛行士の尿を蒸留し、生成した水を分解して酸素を作るというシロモノだったが、6人も搭乗している時は、この2台では酸素を賄えない。そのため予備装置であるSFOGも作動させることになっていた。
このSFOGには、コピー機のトナーカートリッジを大きくしたような形の、金属製の筒が装填されている。これをロシア人達は「ロウソク」と呼んでいるが、これを装填しSFOGを起動させると、直ぐに新鮮な酸素が放出される仕組みになっている。SFOGは連続運転で1日に3本のロウソクを食べる。最後の1本は就寝前に装填される事になっており、時間が来ると誰かが「ロウソクを燃やす時間だぞー!」と叫ぶ。そしてその当番が、ラズトキンだった。
彼はロウソクをつかむと装置の上へ浮かび上がり、上蓋を外した。作業は極めて簡単である…古いロウソクを取り出し、新しいものを装填、蓋を閉め、SFOGを起動させる…それだけでよかった。
ラズトキンはロウソクを入れ替え、おもむろに作動スイッチを入れた。やがて生暖かい酸素が噴き出してきた。全てはいつも通りだった。念のため、もう一度手をかざして確認した…手のひらにも酸素が噴き出しているのがわかった。
と、その時だった…
「シーッ シーッ … 」
聞いたことのない微かな音が聞こえてきた。それは、口の前に人差し指を立て、静かにしなさいと諭す時の、それに似ていたという。この時、ラズトキンの顔はSFOGから45センチの所にあった。彼はじっと目を凝らして睨んだ…すると突如、上蓋から火花が散った。次の瞬間、オレンジ色の小さな炎が噴き出した…それは20センチほどだった。彼は目の前で何が起ころうとしているのか、最初は理解できず、ただ黙って眺め、そして考えていたという。
彼は目の前の光景が信じられず半ば放心でポツリ、「ポジャール…」(火事だ…)と呟いた。しかしそれは誰にも聞こえなかった。
炎に最初に気づいたのは、ドイツ人・エーバルトだった。彼の目には、炎がラズトキンの手に突き刺さるように見えたという。彼は「ポジャール」と繰り返した。それは小声で、皆最初は何を言っているのかわからなかったが、ツィブリエフが振り返ると、ラズトキンの前で炎が吹き上がっているのを目撃した。「ポジャール!」ツィブリエフは大声で繰り返した。
船長・コルズンは始めクバントの中が見えなかったが、頭を下げ、のぞき込むとオレンジと白の炎が囂々と吹き上がっているのを見た。次の瞬間、彼は壁を蹴り、テーブルを飛び越え、ツィブリエフとカレリの間をすり抜け、クバントに飛び込んだ。その姿はさながら鷹のようだったと、ラズトキンはいう。
「ポジャール!ポジャール!」
大声で叫びながら飛び込み、SFOGのスイッチを切ったが、それはもはや無駄であった。炎は、ガスバーナーから噴き出すような勢いで、どんどん強くなる。もうもうと黒い煙も吹き出してきた。ラズトキンは濡れタオルを放り投げた…しかしそれはあっという間に炎に飲み込まれる。コルズンは叫んだ
「消火器を取ってくれ!」
ツィブリエフは小学生の時、消防団に入っていたので、行動は反射的だった。彼はコア・ブロックに備えられた2本の消火器のうち1本を掴んだ。続いてカレリが残りの1本を掴み、ラズトキンに渡す。ラズトキンは素早くコルズンに渡した。
炎がもし、壁面に燃え移ったら…船体に穴があき、空気が外部へ逃げる。それは勿論、死を意味する。
コルズンは渡された消火器をひねり、始めに泡を吹きかけようとした。消火器は泡・水両用タイプであったが、どういう訳か、泡は出ない…出ていないようだった…いや、暗くて正確なことがわからなかったという。彼は消火器が作動したのかどうかはっきりしないまま、それを放り出した。そうしているうち、煙はますます濃くなり、船内に充満し始める。
「みんな、酸素マスクを取りに行け!」
彼は叫ぶと、自身も一度クバントから出て、マスクを取りに行く。殺到する5人は「なんてこった!」言葉にならない罵り声をあげる。
「ジェリー(リネンジャー)はどこだ!?」
コルズンは叫んだ。リネンジャーはスペクトル・モジュールで寝袋の中だったが、ちょうどこの時、火災報知器のサイレンが鳴った。センサーが“交差点”であるノードの近くに設置されており、煙の最初の一筋がクバントからコアを通り抜け、ノードに達したのだった。このけたたましい音に彼はぎくりとし、ロープを外し、スペクトルを抜けようとしたとき、ノードでエーバルトらと鉢合わせになった。彼らはクリスタル・モジュールにマスクを取りに行くところだった。
「火事はひどいのか?」
ロシア語で叫んだリネンジャーに、
「セリョーズヌイ!」(ひどいんだ!)
誰かが答える。
「サーシャ!(ラズトキン)宇宙船の用意をしろ!早く!!」
コルズンは、ラズトキンに対し、ソユーズ宇宙船のスイッチを入れるように命令した。緊急脱出に備えるのだ。だが、ソユーズは1隻に3人しか乗れない。総員脱出にはあと1隻必要だが、残りの1隻は、クバントの向こう側、つまり、炎の向こう側にあるのだった!いずれにせよ、炎を消さないことには3人は助からないことになる。
◇
エーバルトがマスクを取り、コアへ戻ってきたとき、彼は恐ろしい光景を目の当たりにした。さっきまで語らいを楽しんでいた部屋が、真っ黒い煙に包まれていたのだ!テーブルも何も、殆ど見えない…かろうじて、炎と格闘するコルズンの姿が伺えただけだ。炎自体も、煙にかすんではっきりしない。
ツィブリエフはリネンジャーと、プリローダ・モジュールに入った。そこの消火器を持っていこうとしたためだが…2本備えてあるそれは、どちらも壁から外れなかった。1996年にプリローダが打ち上げられた際、不意に動かないようにがっちりとロープで固定されていたのだが、それがそのままだったのだ!
後にNASAはこのロシアの失態を、安全性不充分の証拠の1つとしてやり玉にあげる。
2人はすぐさまクバント2・モジュールへ飛び込み、そこの1本を外した。リネンジャーが煙の充満したコアへ飛び込み、カレリへ渡す。煙はその時、カレリの手が見えないほどだった。
「もっと消火器をくれ!」
コルズンの叫びを聞いたツィブリエフはリネンジャーと共に、クリスタルへ飛び込み、そこの1本を外して馳せ参じる。濃い煙が行く手を阻むが、やるしかない。彼らを待ち受けるのは、死のみだった…無我夢中だった。
炎と格闘していた船長・コルズンはどうであったか?彼は2本目の消火器のスイッチを入れた。始めに泡のスイッチを入れ、大量の泡を吹きかけたが、効いていないようであった。炎があまりにも凄まじく、泡を吹き飛ばしていた。そこで水を拭きかけた…効いているかわからない…1分もすると空になった。きっと、呆然と絶望と興奮と焦りが四つに組んだ状態であったろう。「消火器をもっとくれ!」彼がさけぶと傍のカレリが1本を渡す。船長はそれを携えると、再び炎へ向かった!皆は消火器を取りに、ミールに散らばる。
コルズンが3本目の消火器を持って炎へ向かったとき、光は小さくなっているように見えた。それを目がけて夢中で水を拭きかける。浴びせて浴びせて、浴びせ倒す!やがて炎は小さくなり、最後のオレンジ色の光が消えたとき、彼は大きな安堵に襲われたに違いなかった。しかし、それを上回っていたのは興奮だった。彼はなおも、水をひたすらぶっかけ続けていた。
「終わったよ…もう、終わったと思う」
コルズンはカレリにつぶやいた。使用した消火器は、計3本だった。
◇
換気装置がうなりをあげる。やがて煙も薄らいてきたが、全員酸素マスクをつけたままだ。火災による損傷はSFOGとその近くの壁面だけのようであった。SFOGは再起不能になっているが、船体は無事だった。
彼らは地上との交信時間を待った。交信はロシア上空か、米バージニア州上空を飛行中しかできず、1回に15分かそこらであった。そのため、非常の時には全て自分たちで対処しなければならない。火災後初めての交信で、船長・コルズンは火災があったこと、応急の対処を立案し、それを実行することを伝えた。管制官が了解したところで、交信が途切れた。(写真・マスクをするリネンジャー)
マスクの数にも限界がきていた。彼らはできるだけ酸素を消費しないよう、じっと動かないでいるしかなかった。一眠りしようにも、眠れる者はいなかった。4時間後の2回目の交信では、当時の状況が報告され、地上の医師団はクルーらの活躍を称え、ぐっすり眠るように指示した。しかし、深い眠りにつけるものはいなかった。
ところで。NASAの関係者が火災のことを知ったのは、発生から12時間も経ってからだった。モスクワの管制室の慌ただしさに何事か発生したことを悟り、ロシア人に尋ねたのがきっかけだった…それまでロシア側からの積極的な連絡は、1つもなかったのだ!
NASAは驚いた。自国の飛行士が火災に見舞われていたのを半日も知らなかったのだ。火災が発生したときの対応も、マニュアルにはなかった。そもそもトラブルに対する備えは、あまりにもずさんだった。「飛行士の安全保障は、ロシア側がやる」という取り決めがなされており、それ以降、NASAの思考は停止していたのだ。
◇
それだけではなかった。その後の地上との交信で、リネンジャーはマイクを譲ってもらえなかった。医者である彼は医学的な見地から情報を交換したかったのだが、それができない。船長らの交信内容は、火災のことではなく、前から予定されていたメディアのインタビュー等の話になっている。「ひょっとしたら、火災を隠蔽しようとしているのではないか…?」彼はそう悟った。
「ミールは安全だ」とロシアは訴えてきた。安全性に疑問が出ると、米側からミッションを打ち切られかねない。そしてそれは、現金の援助停止を意味する。リネンジャーは、船長らも含めたロシア人全体が、火災を「些細なもの」として葬ろうとしているのではないかと勘ぐった。
ついに彼は、交信に横から割り込み、無理やり話をしようとした。だがこの行動は行き過ぎた…コルズンは激しく憤り、彼らはついに、怒鳴り合いを始めたのだった!
しかし。火災から3日後、NASAにも真剣な雰囲気が見られないことをリネンジャーは気づいた。彼はロシアとの協力が、政治的都合を優先させたものであることを、多少ではあったが知っていた。「ひょっとしたら、米ロは共謀して、隠蔽しようとしているのではないか?」一人、イライラだけが高ぶっていった。
一方、NASAは別のことで怒りを覚えていた。火災発生から僅か3日で、ロシアは原因調査を終了したというのだ。米国なら3ヶ月でもまとまらないだろう。ロシア側が責任を隠蔽しようとしているのは、見え見えだった。だが、米国側は何もいうことができなかった…安全管理はロシア側の担当だからだ。
(資料:リネンジャーによるレポート・焼けただれた装置などを交えた報告があります(NASAより))
http://spaceflight.nasa.gov/history/shuttle-mir/multimedia/video/v-042.mpg
◇
3月3日、コルズン、カレリ、エーバルトの3人がソユーズで地上へ帰還した。ミールの船長を継いだのはツィブリエフであった。
彼は以前、93年にミールに搭乗したとき、手動ドッキングを失敗するなどトラブルが多く、厄介な立場に立たされた。今回はその名誉挽回を目論んでいたが、早速火災に見舞われてしまった。性格は思慮深く、勤勉なのだが、いつも何かにたたられている男だった。
しかし、彼らの飛行はやはり、トラブル続きだった。3月4日、貨物船プログレスを一度ミールから引き離し、手動で再ドッキングさせるというテストを行ったが、これは危うくプログレスがミールへ激突する寸前の“ニアミス”だった。原因はモニター画面が作動しないのが原因だったが、地上管制官達はツィブリエフの操作ミスとして責任をなすりつけた。管制官達はいつも飛行士達に限界までの仕事を与え、追いつめ、何かトラブルがあると責任を飛行士に押しつけようとした。管制官の中には
「彼らはそれなりの給料をもらっている。運用にも莫大な経費がかかっている。無重力なのに疲れるというのがおかしい。働いて当然だ」
…などと言うものもいた。
やがて、配管から冷却剤が漏れ始めた。どこから漏れているのかツィブリエフとラズトキンは探し回るが、何日経っても見つからない。一方、リネンジャーは自分の実験を黙々と続けていた。その姿に2人のロシア人はイライラした…「手伝う」気配がなかったのだ。彼らは深夜まで、ひどいときには朝まで修理に追われていた。そのため、昼近くまで寝ているのも普通だった。
だが、リネンジャーには違って映っていた。「彼らは修理ばかりで実験を殆どやっていない。しかも昼まで寝ている。怠け者だ」と。彼からは本当に、手伝うという気持ちが欠けていたようである。
やがて、火災を上回る事態にミールが遭遇するのを、彼らはまだ知らない(続)
【Reference】 どの資料も詳しくわかりやすく、推薦です!
“Star-Crossed Orbits” by James Oberg, McGraw-Hill, 2002
「ドラゴンフライ」(上)(下)ブライアン・バロウ 著 小林等 訳, 筑摩書房, 2000 (かなりオススメ!)
S.P. Korolev Rocket and Space corporation Energia http://www.energia.ru/english/index.html
NASA Human Spaceflight http://spaceflight.nasa.gov/home/index.html