彗星のかけらを収集

初版: 01.04.2004  追加: 09.25.2008

1999年にNASAが打ち上げた彗星探査機「スターダスト」が日本時間3日早朝、ターゲットとしていた「ビルト2彗星」への最接近に成功した。この衛星は彗星表面から放出されるダストを集め、2006年に再び地球へ接近し、ダストを詰めたカプセルを投下、米国ユタ州の空軍基地で回収するという壮大な計画。日本時間午前4時22分、彗星の核(コマ)まで約200km程の距離まで接近した。

写真は、約500kmの地点から露出100分の1秒で撮影されたもの。白黒写真だが、核がこれまで言われていた「汚れた雪だるま」であることを確かに印象づける映像だ。画像処理の結果、5本の“ジェット”が吹き出しているのが確認されている。ジェットはさしずめ、猛スピードで噴き出すチリのようなもので、これが尾を形成。ミッションは、この“おこぼれ”を脇で、ハエ取りのような特製の網で拾い集めるようなイメージだ。

(下写真は接近想像図・ハエ取りが上部にくっついている。収集後、後部に開いたカプセルに格納され、ここが地球に帰還する)

だがジェットは、人工衛星に取っては命取りともなりうる。そもそもダストは、精密機械の最強の敵。ジェットに突っ込む形を取らぬかどうか、懸念されていた。衛星に“バンパー”は装着されているものの、直撃はさすがに望ましくない。

ところが、再接近時の観測データを分析したところ、探査機はジェット流を直撃し、横切る形で突っ走ったことが明らかになった。“Ignorance is bliss”(「知らぬが仏」←訳、あってる?)と関係者は語る。「まさに結果オーライだね。ジェットを突っ切ったけど、探査機は生きてるよ!」

なお、何となくぼやけているのは、カメラレンズの結露のため。この結露は打ち上げ直後既に形成されていたとみられており、以前はもっと程度がひどかった。多分、内部で蒸発した何らかのガスによるものと思われている。その後、内部ヒーターや太陽光を利用して温度を上げ、曇りを取ろうという作業が続けられてきたが、完璧には取れなかったようだ。
【NASA, etc】 …公式サイトはこちら http://stardust.jpl.nasa.gov/

<追加情報 09.25.2008>

2006年、彗星のチリを集めて地球に帰還したNASA「スターダスト計画」の帰還カプセルが、ワシントンのスミソニアン航空宇宙博物館に展示されることになった。

展示はNASA創立50周年を迎える今年10月1日から行われる。展示場所は飛行の歴史のマイルストーンたる機体を並べたコーナーで、他にはライト兄弟のフライヤー号、リンドバーグのスピリット・オブ・セントルイス号、アポロ11号司令船コロンビア号が並ぶ。

1999年2月7日、NASAは「ビルト2彗星」に接近し直接そのダストを収集、持ち帰る探査機「スターダスト」を打ち上げた。飛行は順調に進み、2004年1月3日早朝、同彗星へ最接近した。

スターダストはテニスラケットのような捕獲器具を備え、彗星のコマに突入するという派手な手法でダスト採集に臨んだが、見事に成功した。探査機はその後順調に飛行を続け、2006年1月15日、ラケットを格納した帰還カプセルがユタ州に帰還した(左・彗星に挑む探査機。尾部にカプセルとラケットが装着されている。右・帰還直後のカプセル。帰還フェーズは何のトラブルもない、完全成功だった)。

カプセルはクリーンルームで開けられ、ラケットにはダストがしっかり採取されていた。これは、人間が初めて目にする彗星からの噴出物となった。サンプルは分析に回され、結果が発表されている。

スミソニアン博物館というと、ミッションはすでに終わり、残された遺産の展示という印象がある。「しかし、スターダスト母機のほうはまだ稼働しており、2011年2月。彗星にフライバイするのですよ」と語るのは、「スターダスト・ネクスト計画」の責任者であるリック・グラミエール氏。いまだ健在の母機には新たな予算が昨年夏につき、2011年2月に「テンペル1彗星」に接近観測するミッション「スターダスト・ネクスト」が始動した。

テンペル1彗星には2005年7月に「ディープ・インパクト」探査機が接近、衝突体を衝突させ、飛び散った物質の観測を行っている。スターダスト・ネクストでは同彗星を再度観測し、その変化などを調査する予定になっている。詳しくはこちらへ【NASA 09.25】

<追加情報 01.28.2006>

スターダスト・カプセルの帰還を航空機上で捉えた映像(動画)が公開されています。こちらへ【NASA. 01.28】

<追加情報 01.19.2006>

先日帰還したスターダスト・カプセルをクリーンルームでオープンした研究者達は、早くもサンプルダストを検出した。

 

「彗星の粒子は、我々の予想を上回る量だよ」と語るのは、スターダスト主席研究員であるドナルド・ブラウンリー博士。「アエロジェルにくっついた無数の粒子を目の当たりにするのは、全くドキドキさせられるね」と興奮気味。アエロジェルはその99%がスカスカの“スポンジ”状の固体(上・左はアエロジェルをチェックする研究員たち。右がくっついていたダストサンプル。カビのように見える。大きいサイズはこちら)。

予定では米東部時間木曜午前11時(日本時間19日午前1時)より、ジョンソン宇宙センターで記者会見が行われる。【NASA 01.19】

<追加情報 01.17.2006>

ユタ州の地元紙に、スターダスト・カプセルに関する記事が、素晴らしいフォトと合わせて紹介されています(以下、一部要約)

ツーレ郡ウェンドーバー − 「きたぞ!」 男が叫んだ直後、スターダスト・カプセルは約7年、実に29億マイルに渡るスペーストラベルを終えて姿を現した。それは、雲が多い、西の上空にオレンジ色の燃えさかるドットだった。

それは、予定されていた午前2時58分ジャストだった。人間が作った流れ星は、どの星よりも、惑星よりも、ひときわ明るく輝いていた。

輝きを増しながら南東の空へ飛び進む。第二次世界大戦時に建設された飛行場の上をかすめていく…それは古びた管制塔の前を横切り、オリオン座の方向へ消えていく。淡い紫色の痕が後には残る。カプセルはほぼ天頂にアーチを描き、輝きを失っていった。(下・【Credit:Jeffrey D. Allred, Deseret Morning News】)
         

出現から30秒後、スターダストは雲の中へと消えていったが、この時点でドラッグシュートの減速が充分に効き、大気層との摩擦が大きく働くことはなく、再び目の前に見えることはなかった。だが約2分半後、最後の挨拶が鳴り響いた…それは衝撃波が残した大音響で、小型のカノン砲をぶっ放した時のようなものだった。

多くの観衆が叫び声を上げた。NASA solar system ambassadorのパトリック・ウィギンズ氏は「おかえりなさい、スターダスト!」と叫ぶ。

同氏はカプセルの帰還は“極めて輝かしかった”と、その痕跡は“鉛筆で描いたラインのようだ”と語った。

「雲の塊の中から現れたんだ。まるで芸人のようだよ!カーテンの向こうからステージに登場し、中央に進み出たんだ。美しいご入場だよ」と、興奮気味に語る。【Utah Deseret Morning News 01.16】

…詳細はこちらへ。なお、“NASA solar system ambassador”とは、JPLが胴元で派遣しているボランティアの天文解説員で、全米に470人ほどいると言われます。下は、「ソルトレーク・トリビューン」紙に記載されたウィギンズ氏。興奮の様子が伝わってきますね!同紙の他の画像はこちらへ【The Salt Lake Tribune 01.16】

    


<追加情報 01.16.2006>

右はクリーンルームであけられたカプセルの中身で、この中にダストを採取した“網”が格納されている。この後、ジョンソン宇宙センターへ運び込まれ、今週末にも網が取り出される予定。

今回のスターダスト並びに2004年のジェネシス双方の無人探査機によるサンプルリターンは、1976年、ソ連のルナ24号による月の土の採集以来。
【CNN 01.16】



<追加情報 01.15.2006>

スターダスト・カプセル帰還に関する記者会見が日本時間23時30分より行われた。関係者はジェネシスの時と比べ、非常にリラックスした表情。実際、それを指摘する記者がいましたが、プロジェクトマネジャーの「我々はあれ以来、ずっと検討を続けてきた」という言葉が印象的でした。以下は、回収されたカプセル(左・回収クルーが到着した直後…カプセルは横倒しになっています。右・クリーンルームにて)。【NASA-TV 01.15】
    

…今回の帰還劇を見ていてすごいと思ったのは、大気圏突入後も、全てのプロセスが予定時刻通りに進んだこと。普通は大気運動があるのでずれがでるのは当然と思うのですが・・。これはプロジェクトマネジャーも同感だったようで、会見の冒頭の概要説明で感想を述べていました。

回収されたカプセルを運んできたヘリが、マイケル陸軍飛行場に到着した(21:03)。この後、クリーンルームへと搬送される。日本時間23時より、記者会見とのこと。【Spaceflight Now 01.15】


回収されたカプセルを運んできたヘリが、マイケル陸軍飛行場に到着した(21:03)。この後、クリーンルームへと搬送される。日本時間23時より、記者会見とのこと。【Spaceflight Now 01.15】

下は飛行場に到着後、担ぎ込まれるカプセル。なんだか布団圧縮袋のようなものに包まれてますねぇ(笑)【NASA 01.15】
     

下は、大気圏を突き抜けるカプセル。なんとも、幻想的な雰囲気がします・・。画像はNASAのDC-8観測機により撮影されたもの。なお説明によると、神戸大学からも現地へ観測協力に出ているようです。【NASA 01.15】
     

…他、スターダスト関連の画像はこちらへ

スターダスト探査機の帰還カプセルは日本時間19時10分、ユタ州のテストレンジエリアに無事着地した。以下、NASA-TVを見ながらの要約です(時間は日本時間)。

18:35
3機の回収ヘリが離陸し、着陸予定エリアの外側の待機ゾーンへと向かう(左下)。
    

18:57
大気圏突入開始!大歓声と拍手!!“It's great!”地上の赤外線追跡カメラが、カプセルの姿を捉える。管制部に拍手!カプセルが猛スピードで落下してくる姿がくっきり(右上)。

18:59
ドラッグシュート展開と、管制部。軽い拍手。カプセルは大気圏突入を耐えきった模様。

19:00
高度6万フィート。シュートらしきものは確認されず、また、減速も確認できず。
(画面を見ている限りで減速は感じられない。不安・・@管理人)

19:01
高度4万フィート。管制部の皆の表情も硬い。緊張に包まれている。(予定通りのコースを辿っているとアナウンスがあるが、なんか不安@管理人)

19:03
高度2万6千フィート。僅かな減速を確認とアナウンス。

19:05
メインシュート展開!管制部に拍手!ドラッグシュートにトラブルをにおわせた先程の情報は誤りと判明。(しかし、見た目には相変わらず突っ走っている・・不安@管理人)

19:08
カプセルからのUHF信号をキャッチ、追跡中。

19:10
タッチダウン!大歓声と拍手、フラッシュの嵐!カプセルがユタの砂漠に無事着地したことを確認。回収ヘリが現場に向かうとアナウンス。

19:46
回収ヘリがカプセルを見つけたようだと報告。
(探査機を製造したロッキード・マーチン社の担当者へのインタビューの途中だが、割り込みレポート)

19:48
ヘリが着陸した旨の報告。
(インタビューと音声が重なってしまい、凄く聞きにくい。。@管理人)

19:54
クルーらがカプセルを取り囲んでいるとレポート。管制部で笑顔と拍手!

20:00
最初のヘリのクルーらがカプセルの初期チェックと周囲に不発火薬類がないか調査(軍のテストレンジであるので・・)、2機目のヘリクルーらがカプセルの詳しいチェックと周辺大気のサンプリング、及び写真の撮影とあわせてレポートをとりまとめる予定。【この部分、Spaceflight Now速報より。 01.15】

21:20
カプセルは3回バウンスしたとレポート。(インタビューと管制部のアナウンスが被って聞きにくい)【NASA-TV 01.15】

いよいよ、帰還です!

日本時間14時48分、スターダスト管制部はカプセルリリースにゴーサインを出し、15時58分、カプセルのリリースに成功した。カプセルは二度と、母船とつながることはない。今後4時間、ただひたすらユタの砂漠を目指して突き進むのみ。カプセルの重さは約45kgで、貴重なサンプルを抱えている。

カプセルリリースを確認した瞬間、JPL管制部では大歓声が起こった。母船からの切り離しは、まず両者を繋ぐアンビリカルを切断し、カプセルを固定している3本のボルトを火薬で爆破することで物理的に分離。その後、バネの力でゆっくりと母船からリリースされた。この際、カプセルの姿勢を安定させるため、ゆっくりとしたスピンが加えられている。

なお、母船の方はスラスター噴射で軌道を修正し、地球へ突っこむのを回避する。その後太陽周回帰道に入れられ、今後、別のミッションなど活用法が見つかったときに備える。【Spaceflight Now 01.15】

日本時間・今日午前2時30分、スターダスト探査機は月軌道を通過した。その後、地球までの40万キロを16時間27分で突っ走る予定だが、同じ距離をアポロ宇宙船では約3日かかったのと比べると、その速さは際だっている。なお、昨日午後13時53分、58.5秒間のスラスター噴射により最後の軌道修正が行われた。

予定では今日午後1時15分、管制部より探査機に対し、コンピュータコントロールを開始するように指示を送信。午後2時56分、探査機母船とカプセルを繋ぐケーブルの切り離しが行われ、その1分後、母船のスプリングによってカプセルがゆっくりとリリースされる予定となっている。

なお、母船はスラスターを噴射、地球への突っ込みを回避する。

   
リリースから約4時間後の午後6時57分、カプセルは北カリフォルニア上空の高度125kmで大気圏に突入、高度32kmまで降下したところでドラッグシュートを展開し、午後7時5分、高度3kmのところでメインシュートを展開。タッチダウンは午後7時12分に予定されている。【NASA 01.15】

…スターダスト・JPL管制部のライブ映像はこちら
リターンミッションの流れはこちら

<追加情報 01.13.2006>

NASAのスターダストが28億8千マイル(約46億キロ)の旅路を終え、いよいよ帰ってくる。米太平洋時15日午前2時12分頃(日本時間同日午後7時12分)、ユタ州のテストエリアにサンプルを詰めたカプセルが着地する予定で、現地上空では大気圏を突き進む火の玉が観測されると期待されている。

カプセルの切り離しに先立ち、最後のマニューバ(姿勢制御)が13日午後8時53分(日本時間14日13時53分)に行われる予定。カプセルの大気圏突入時の速度は46440km/時に達する見込みで、これは1969年5月、アポロ10号によって打ち立てられた最速記録を上回るものとなる見込み。

大気圏突入後、高度32kmでパラシュートが開かれ、着陸することになる。天候が良ければ、直後にヘリで回収チームが駆けつけ、回収、マイケル陸軍飛行場内の施設に運び込まれる予定になっている(右・スターダストカプセルの構造)。

スターダストは1999年2月7日に打ち上げられ、2004年1月2日、ビルド2彗星に接近、その核に241kmの距離まで迫った。その際、彗星から吹き出すダストがサンプリングされ、帰還するカプセルにはそれが格納されている。

なお、NASA-TVによる特番が予定されており、日本時間15日午後6時30分よりスタート。【NASA 01.13】

…どんな帰還劇になるのか楽しみですね!ちなみに、“Hypervelocity Re-entry”(超高速大気圏突入)と題されたページがあります。カプセルなどの大気圏突入に特化したサイトで、「ジェネシス」、「スターダスト」に加え「はやぶさ」もしっかりエントリー。カプセルの大気圏突入は上空にて航空機でも追跡されます http://reentry.arc.nasa.gov/index.html

<追加情報 01.06.2006>

地球への帰還ルートを順調に辿っているNASAの彗星探査機スターダストは6日、通算18回目の軌道微調整を行い、成功した。このマニューバにより、探査機は15日に地球に接近し、搭載カプセルをリリースすることが可能な運びとなった。

軌道微調整は6日午前3時(日本時間)、計8機のスラスター噴射を107秒間実行することで行われた。消費されたヒドラジンは385グラムだった。【NASA 01.06】

<追加情報 12.22.2005>

NASAは22日午前3時(日本時間)、会見を行い、彗星探査機「スターダスト」のサンプル回収カプセルが予定通り1月15日、米大陸に帰還することを発表した。会見ではミッション担当幹部が一堂に会し、スターダストミッション全体の意義と、どのような手順でカプセルが回収されるのか、CGなども交えながら説明を行った。

スターダストミッションは1999年2月7日に打ち上げられた、往復7年にわたる長期ミッション。2004年1月2日、ターゲットである「ビルド2彗星」に最接近、ジェットの直撃を耐え抜き、サンプルの採集を行った(当サイト内の解説はこちら)。

サンプルリターンカプセルは時速46440kmで大気圏に突入する予定で、これは人間が作ったものの中では最速の大気圏突入となる予定。かつて1969年5月、アポロ10号の司令船が打ち立てたワールドレコード(時速41153km)を上回る。(大気圏突入時のCGはこちら

「彗星は、太陽系では最も情報を含んだ天体の1つ。スターダストのようなミッションから学ぶほど、月や火星といった地への人類の進出に備えることができるというものです」と語るのは、NASAサイエンスミッション局副局長のメアリー・クレーブ女史。

探査機は1月5日、13日に軌道修正を行う予定で、米東部時間15日午前12時57分(日本時間同午後2時57分)、カプセルが探査機から切り離され、4時間後、太平洋上空125kmで大気圏に突入し、減速降下。パラシュートを展開後、ユタ州の米空軍訓練域に着陸する予定となっている。

カプセルは高度32kmでドラッグシュートを展開し、高度3kmでメインシュートを展開することになっている。予定では、カプセルは午前5時12分(米東部時間)に着地する予定。

カプセル着陸後、天候状態が良ければヘリでユタ州の陸軍基地に搬送され、初期プロセスが行われることになっている。天候が悪ければ地上から陸路で接近する予定になっており、回収後、やはり陸軍基地へ搬送される予定。その後サンプルはNASAジョンソン宇宙センターへ運ばれることになっている。

専門家によると、サンプルは1ミリ1ミリの3分の1もない程の微小サイズであるといい、これを更に研究のため、スライスするのだという。

スターダストミッションは、NASAジェット推進研究所が監督し、ロッキード・マーチン・スペースシステムズが探査機の製作と運用を行っている。【NASA 12.22】

<追加情報 11.30.2005>

2004年1月、ビルト2彗星に接近しダストを収集したNASAの彗星探査機「スターダスト」が1ヶ月後の1月15日、地球に帰還する。

スターダスト探査機は1999年2月7日に打ち上げられ、2004年1月、目標としていたビルト2彗星の核へ236kmの至近距離まで接近、見事にその傍を通過、彗星を取り巻くダストを収集、地球への帰還軌道を辿ってきた。

なお最接近の際、核から吹き出す「ジェット」の直撃を受け、それに耐えきったことが判明している。ダストはハエたたきのようなプレートで収集されたが、有益な量(…とはいっても極めて僅かではある)が収集されたものと期待されている。

ただ、カメラのレンズに打ち上げ直後“曇り”が生じたため、核の画像はぼけたものとなってしまった(画像処理でかなりぼけはぬぐい去られたものの、完璧には至らなかった)。

2006年1月15日夜明け前(現地時間)、プレートを納めたアポロ司令船のような形をした、重量45.7kgのカプセルが切り離され、米国本土上空で大気圏に突入する。その時の速度は秒速12.8kmで、これは弾丸速度の10倍…いうなら、米国東西の端から端まで約1分で飛ぶような速度。カプセルはその後パラシュートを開き、ユタ州の砂漠に着地、回収されることになっている。

右上はその時の通過航跡予想で、“Genesis”とあるのは、2004年9月に帰還した太陽風採集衛星「ジェネシス」の帰還経路。スターダスト“Stardust”の比較対象として描かれている(大きい図はこちら。ジェネシスカプセルのパラシュートが開かなかったのは、まだ記憶に新しいところ・・スターダストはそんなことがないように祈るしかないですね・・同型のカプセルらしいですが・・)

ところでこの大気圏突入の際、別の科学観測が行われることになっている。それは、高温のプラズマに包まれたカプセルそのものの観測だ(右・ドロップテストの際のカプセル)。

カプセルの下部は、炭素を主素材とした耐熱シールドで覆われている。このシールドはNASAエームズ研究所で開発されたもので、カプセルを高熱から守る唯一の“盾”。大気圏突入の際、断熱圧縮で生じた高温のプラズマと激しい衝撃波がカプセルに襲いかかる。中に入った貴重な“彗星のかけら”を守るのは、この耐熱シールドだけだ。

そしてこの状況は、上空を飛行するDC-8で追跡される。勿論この航空機が追いつけるわけはないのだが、乗り込んだ科学者達は、少しでも近い距離で大気圏突入の様を観察する。これにより、耐熱シールドがどのように機能しているか評価することができるのだという。

また、この劇的なシーンは肉眼でも見ることができるという。1月の、夜明け前の極寒の空。ネバダの上空・高度60kmを、それはホワイトピンクの強い輝きを放ちながらまるで隕石のように、猛スピードで落下してくるように見えると予想されている。

「観測者には、カプセルは一点の光と見えるだろう。それが目の前を通過した後には、残映は殆ど無く、痕は急速に暗くなっていくに違いない。誰しも、特異な体験をすることになると思う」と語るのは、スターダスト・リターンカプセル再突入観測キャンペーンの主任、ペーター・ジェニスケンズ氏。氏は流星が専門の天文学者。

その後、現地時間午前3時、ユタ州の砂漠に着地することになっている。回収の際、別働隊が耐熱シールドを回収、どの程度の熱を受け、どのような溶け方をしているかなど、物理的リサーチを行うことになっている。

では何故、この耐熱シールドの観察に神経質になっているのか?

実は、この耐熱シールドは、NASAが現在推し進めている新宇宙開発計画で用いられるCEV宇宙船の耐熱シールドの候補になっているというのだ。

「我々が主に関心を持っているのは、高温で溶け蒸発し残った耐熱シールドとその化学的特性である」と語るのは、NASAエームズ研究所のカプセル調査プロジェクトマネジャーのデーブ、ジョルダン氏。

なお、肝心のプレートは注意深く、NASA・ジョンソン宇宙センターへと搬入され、特製のクリーンルームへと通されることになっている。【NASA Ames RC 11.30】