火星への道遙か

初版: 04.12.2000  追加 11.27.2007

1999年末、アメリカの火星探査機が消息を絶ったことを覚えていらっしゃるだろうか。母船は火星に到達、着陸機を無事に切り離したものの、着陸予定時刻になっても応答が無く、結局失敗に終わった件である。既にアメリカは火星探査機を数機立て続けに失っており、計画全体の進行が危ぶまれていた。2年毎に一機の無人探査機を送り込み、2010年には火星の石を持ち帰るという、意欲的な計画である。

先月末、今後予定されていた探査計画は白紙に戻されることが決まった。この決定には「NASAの体質に問題あり」という理由が絡む。

NASAのゴールディン長官は会見で、彼のやり方に全面的に責任があることを認めた。「より早く・より確実に・より安く」 これが彼の方針であったのだが、これが破綻した瞬間である。

80年代までアメリカは宇宙開発に巨額の資金を投入してきた。アメリカ人が大好きなものベスト3の1つに「ロケット」があるように、アメリカンプライドの一つとして国民の支持もあった。

しかし、冷戦の終結により、国策としてのソ連との開発競争は必要なくなった。加えて、巨額の財政赤字がNASAに対する予算削減をもたらし、それまでのような贅沢な研究開発はもはや不可能となった。ここ数年こそアメリカは好景気に沸いているが、累積赤字はまだ解消されていない。

そこで長官が謳ったのが、先の「3拍子」である。開発費を削られたため、実験もそうたくさんはできない。人材も削られた。代わりに、長年得られたデータをもとにした、コンピュータシミュレーション実験を多用した短期間での機体開発、及び低コスト素材の使用でカバーしようとしたのである。

しかしやはりというか、全てに無理があった。以前失った探査機はどれも人的ミスが原因であり(限られた人員でチェック機能不十分)、年末の失敗はシミュレーションでは予測不可能であった、着陸レーダーの欠陥である可能性が高いという(着陸脚展開の際レーダー波が干渉、地上高10メートル付近で「着陸」と誤認、逆噴射ロケットを停止させてしまった説が有力)。1997年、「マーズ・パスファインダー」着陸機が大成功を収め、「久しぶりのビッグニュース」ともてはやされた際、NASAは「3拍子」に確信を持った。しかし、その後の相次ぐ失敗により結局、金額ベースで言うと、パスファインダー計画の費用とほぼ同額を無駄にしたことになってしまったという。

21世紀・宇宙時代の到来をかつて空想した方も多いが、現実にはすぐ隣の惑星への道のりさえも遠い。

【以下、追加情報です。マーズ・フェニックス計画に関しても記載しています】

マーズ・フェニックスについては別ページにまとめ中です

<追加情報 11.28. 2007>

下は、今年6月30日に「マーズ・リコネッサンス・オービター」によって撮影された火星の北極域。この視野の何処かに、「マーズ・ポーラー・ランダー」(MPL)が墜落(?)しているものと見られている。

           

MPLは1999年末、火星北極域に着陸を目指し突入したが、二度とシグナルを送ってこなかった探査機。逆噴射エンジンが予定よりも早くカットしたため、墜落したものと考えられている。

現在火星へ飛行を続けている「マーズ・フェニックス」がMPLで行われるはずだったミッションの再チャレンジに挑む。大きいサイズはこちらへ【photo:NASA/JPL/University of Arizona

<追加情報 11.29. 2006>

来年8月に打ち上げが予定されているNASAの火星着陸探査機「マーズ・フェニックス」の組立作業中の様子がリリースされた。

             

画像は今年9月、コロラド州デンバーのロッキードマーチン・スペースシステムズにおいて組み立て作業中の同探査機。この画像は、円形の太陽電池の展開がテストされているところ。

フェニックスは北極圏の凍結した大地に着陸し、土壌を採取、生命の痕跡などを探る。このミッションは99年に失敗した「マーズ・ポーラー・ランダー」のリベンジ戦でもあり、「フェニックス」(不死鳥)にはそのような甦り・再起の意味が込められている。詳しくはこちらへ【NASA 11.29】

<追加情報 11.07. 2006>

来年打ち上げが予定されているNASAの火星探査機「マーズ・フェニックス」に、名前を記録したDVDが搭載される。現在、米惑星協会のサイトで登録を受け付け中。締め切りは2007年2月1日とのこと。

このDVDにはアーサー・クラークやカール・セーガンらのメッセージなども収録される予定(どうやら動画のようですね@管理人)。フェニックスは07年8月に打ち上げられ、08年5月に火星に到着する。【Planetary Society】

…このミッションはかつて失敗した「マーズ・ポーラー・ランダー」のリベンジミッションと位置づけられており、“甦り”の意を込めて「フェニックス」(不死鳥)と名付けられています。

<追加情報 04.26. 2006>

2007年8月に着陸機の打ち上げが予定されているNASAの「マーズ・フェニックス」計画が、新たな局面に入った。

これは、NASAジェット推進研究所(JPL)、ロッキードマーチンスペースシステムズ、アリゾナ大学が中心となり推進しているミッション。火星の北極に着陸機を送り込み、地表を掘るなどして水や有機物の存在を調査するというもの。

これまで、各種観測機器が個別に組み立てられてきたが、いよいよ、ボディへの組み合わせ作業が始まった。

この着陸機は、マーズ・ローバーのエアバッグとは異なり、ガス噴射による軟着陸を目指す(着陸フェーズの概要はこちら)。

この「マーズ・フェニックス」の「フェニックス」はもちろん、「不死鳥」の意。1999年12月、同様のミッションを担った「マーズ・ポーラー・ランダー」探査機が着陸に失敗したのだったが、「マーズ・フェニックス」にはこのリベンジを図る気持ちが込められている。2003年、ミッションの正式決定がなされている。詳しくはこちらへ【SpaceDaily 04.26】

<追加情報 04.05. 2006>

2007年の打ち上げが予定されているNASAの火星探査機「フェニックス」の製造は着々と進んでいるようです。この探査機は、火星の北極地方に着陸し、土壌をシャベルで掘り、化学成分を調査するというものです(バイキング探査機の極地版てとこですかね@管理人)。詳しくはこちらへ【SpaceDaily 04.05】

<追加情報 10.25. 2005>

1999年12月、火星の極地へ着陸を試みようと大気圏突入を試みたものの、その後何の音沙汰もなく失敗に終わった「マーズ・ポーラー・ランダー」のクラッシュした地点と思われる最新画像が公開された。

これは、火星を周回するマーズ・グローバル・サーベイヤーのオービタル・カメラによって撮影されたもの。左は今年初めに撮影されたもので、ポーラー・ランダーの逆噴射痕と機体そのものと思われる影が映し出されている。ところが、右は先月27日に撮影されたものだが、そのような痕跡は全くといっていいほど見られなかった。この日の撮影は、右の画像が撮影されたときと太陽光線の条件は極めて近いもので、同様の画像が得られるものと期待されていた。

            

結局、左の画像で得られた痕は、画像データに含まれたノイズということで片付けられるという。今後、マーズ・グローバル・サーベイヤーによる調査を行う予定はなく、現在火星に向かっているマーズ・リコネッサンス・オービターにより引き継がれることになるという。【Sky&Telescope 10.25】 

<追加情報 06.03. 2005>

米航空宇宙局(NASA)は2日、長いロボットアームを装備した探査機を火星の北極に着陸させ、存在する可能性のある水や生命の手がかりを探る「フェニックス計画」計画にゴーサインを出すと発表した。

3億8600万ドルが投じられるこのミッションでは、探査機が2008年5月に火星の北極に着陸する予定になっている(右)。2002年に火星周回探査機『マーズ・オデッセイ』が北極付近に大量の氷が存在する証拠を発見しており、これを直接検証すべく、フェニックスがロボットアームを使って凍った地面を掘り起こし、分析用の土壌サンプルをすくいあげ、調査するというもの。

また、フェニックスは、新たに低予算で火星の研究を行なう試み『マーズ・スカウト』プログラムにおける初のミッションとなる。

予定では今後2年間にわたり、探査機と搭載機器の開発を行なう。またNASAが今年8月に打ち上げを予定している火星周回機『マーズ・リコネッサンス・オービター』が収集する情報に基づき、北半球における着陸地点の選定を行なう予定。

ミッションの調査責任者を務める、アリゾナ大学のピーター・スミス氏は「フェニックス・ミッションでは、地球上の永久凍土に覆われた地域と似通った火星北部の平地における未知の地域を調査する」と話した。

ところで、まさにその名のとおり、フェニックス(不死鳥)はかつてのミッションで葬り去られていた状態から見事に復活した。この着陸機は、そもそも2001年に行なわれた『マーズ・サーベイヤー』プログラムの一部として開発されたが、1999年に『マーズ・ポーラー・ランダー』が失敗ことで、このプログラムは断念されていた(ポーラー・ランダーに関してはこちら)。【NASA/ Spaceflight Now 06.03】

<追加情報 05.07. 2005>

ついに発見!? 「マーズ・ポーラー・ランダー」とおぼしき姿が確認されました。

1999年12月に火星着陸に失敗した探査機「マーズ・ポーラー・ランダー」の本体及び関連物証と思われる形跡がみつかった。

マーズ・ポーラー・ランダーは火星の極地を調査すべく、南極地方へ着陸を目指して火星を降下していたが、予定時刻になっても信号がなかった。その後の捜索において、同惑星を周回中のマーズ・グローバル・サーベイヤーが2000年に撮影した着陸予想地点にそれらしき画像があったものの、はっきりと同定することはできなかった。

            

上の4枚は左から右へとズーミングされている(アルファベットで対応)。このうち写真「D」に写っているのがパラシュートで、「E」に写っているのはランダー本体と、逆噴射ロケットが地表に残した噴射痕。この画像を見る限り、パラシュートはきちんと展開し、地表近くまでロケット噴射が続いていたことは明らか。ただ、噴射がどこまで続いていたのかはこの画像からはわからないという。

失敗原因として、噴射が予定より早く終了したため地表に激突したとされている。下図はその最終段階。パラシュートでつり下げられてきた機体が高度1300mで切り離され、その後は逆噴射でゆっくりと地表に降下する。この逆噴射は地表すれすれでカットされる予定であったが、実際は数十メートルを残して停止したものと考えられている。

ランダーは、比較的原型を留めている可能性が高いという。

ランダーを下げていたパラシュートや機体の材質、大きさなどが、現在火星面を走っている「マーズ・ローバー」とほぼ同じことから、その画像データと照らし合わせ、より詳しく解析することで、サーベイヤーが撮影していた影がポーラー・ランダー本体やパラシュートに間違いないと同定された。【Sky and Telescope/ Spaceflight Now 05.07】


<追加情報 05.03. 2005>

1999年末、火星の南極圏へ着陸を目指していて消息を絶ったNASAの火星着陸機「マーズ・ポーラー・ランダー」の捜索が検討されている。

マーズ・ポーラー・ランダーは同年に打ち上げられた火星の極地方の地質や気象を調べる挑戦的な探査機であったが、到着予定の12月3日、大気圏突入後、再び交信が回復することはなかった。着陸失敗、地表に激突したものと考えられている。

当時、火星を周回していたNASAの別の火星探査機「マーズ・グローバル・サーベイヤー」が墜落予想地点を撮影、探査機とその周辺器機の捜索を行ったが、カメラの解像度が限界ギリギリで、芳しい成果を得ることはできなかった。

ところが最近、より高度な撮影法で探査を試みようという動きが出ている。これは撮影時、サーベイヤーの機体全体を動かすことで解像度の飛躍的な向上を目指すというもので、現に、現在活動中の2台の火星探査車の姿がこの方法で撮影されている。

ただこの方法は難易度が高いため、墜落して所在が不確実な機体をジャストショットするには時間がかかる、或いは失敗する可能性もあるという。【Space.com 05.03】