最果てを目指して

初版: 05.07.2002 追加: 09.13.2013

ボイジャーに関する最新情報はこちら!)

人間が作ったもので、地球から一番遠いところにあるものは何か・・それは、1977年に米国が打ち上げた惑星探査機・ボイジャー1号だ。

1970年代中頃、米国は木星・土星を調査するための惑星探査計画を画策し、2機の同型機(写真)で両惑星を調査する「ボイジャー計画」を打ち立てた。米航空宇宙局(NASA)の惑星探査の中でも最も際だった、目に見える素晴らしい成果をもたらした計画の1つだ。

木星は火星の外側、土星はさらにその外側を公転する。地上から望遠鏡でもよく見えるが、その詳細な素性、特に衛星(月)に関しては、正確なことは殆ど知られていなかった。今、私の手元に1979年発行の「天文年鑑」(誠文堂進光社刊)がある。例えばこの資料の木星の項には、「衛星イオの周囲はナトリウムイオン密度が高い」とあるが、はっきりとした理由は記載されていない。つまり謎の1つだったわけだが、これが、活発な火山活動のためであることを明らかにしたのが、この一連の探査だ。

NASAは元々、木星から冥王星までを一気に探査機で調査する「グランドツアー計画」を練っていたが、予算の関係で縮小され、「ボイジャー計画」に落ち着いたという経緯がある。1977年8月20日にボイジャー2号が、同年9月1日に1号が打ち上げられた。2号が先に打ち上げられたのが興味深い。1号は途中で2号を追い抜き、79年3月に木星、80年11月に土星へ到達。膨大な量の写真と観測データを送信後、土星の重力で太陽系の上方(北側)へと大きく軌道を逸れ、太陽系を後にした。一方、2号は遅れること79年9月に木星、81年8月に土星へ到達、1号と同様、大量の観測データをもたらしている。当時私は小学2年生。TV特番で映し出された、鮮明な土星の輪を強烈に覚えている。

ここまでは当初の計画通りで、全てのミッションが無事終了した。だが2号はその軌道の関係で、そのまま天王星まで飛ばす事が可能であり、土星接近前の時点で関係者達は予算追加を議会で訴えていた。勿論、土星探査終了直後に天王星へ向けてコースが設定されたのはいうまでもない。だが、予算が得られないと、地上での管制を打ち切らねばならない・・・天王星行きが正式決定されたのは、粘り強いロビー活動の結果であった。因みに海王星が追加承認されるのは、この更に後である。

1986年1月、ボイジャー2号は天王星へ最接近、写真撮影と各種科学観測に成功した。この時、時速7万2000km。土星までの距離の2倍先にあり、ここからは太陽は点にしか見えず、撮影のためには数秒間の露出が必要であった。例えるなら、曇空の中、高速で走るレーシングカーに乗って、カメラを構えるようなもの。いかに困難な事かは、想像に難くない。その更に3年半後の1989年8月、海王星接近に成功、長年の議論の的だった、はっきりとした輪の有無に決着をつけた。と同時に、その重力で軌道を大きく曲げられ、太陽系を離脱・・・ここまで足かけ12年。そもそも設計寿命4年のこの探査機をここまで持ちこたえさせたのは、技術者達の熱意と情熱に他ならない。(右:海王星・ボイジャー2号による)

ロサンゼルス郊外・パサデナ市にあり、カリフォルニア工科大学にも所属するNASA・ジェット推進研究所(JPL)。探査計画を押し進めてきたのはこのJPLだが、全米のベスト5%の成績でないとスタッフとして採用されないとまで言われる部署。はっきりしていることは、私の頭では無理だということだ(笑)。

ボイジャー1号は現在(2002年5月。最新の位置は下のリンクを参照)、地球から125億キロ、光速で片道12時間かかる所を飛行している。惑星探査の予定はないが、この太陽系外縁の物理環境を測定し、データを地球へと送信し続けている。

打ち上げから実に25年。先日、自身の位置を把握するための太陽&星座センサーを、予備のものと切り替えた。「まだまだ飛行可能だね。予備は全く新品同様だよ。あと20年は大丈夫かな」と関係者は語る。【05.07. 2002】

(下はボイジャー1号が1990年2月14日に撮影した太陽系全景。全て点にしか見えない。地球も小さな緑色の点でしかない。なお、水星は太陽に近すぎて撮影できず、冥王星は小さすぎて写らなかったとか。大きいサイズの画像はこちらでご覧頂けます)【photo:NASA/JPL】

 

              

【ボイジャーの最新情報】
ボイジャーとは現在も定期的に交信が行われており、現在位置や機体の状態など、最新情報がリリースされています。ジェット推進研究所(JPL)の以下のサイトをご覧下さい
http://voyager.jpl.nasa.gov/mission/weekly-reports/index.htm

太陽系との位置関係は…こちらのサイトはビジュアルで見るには一番でしょう(右は一例)。
http://heavens-above.com/solar-escape.asp

あと、こちらは視点を自由に変えることができます。
SolarSystem Simulator http://space.jpl.nasa.gov/
このサイトは、ボイジャーのみならず、様々な視点が楽しめます。使い方ですが、サイトを開くと、下のような画面が出ます。

この画面で、「Show me」で、何を見たいかを選択し、「as seen from」でどこを中心に持ってくるかを決めます。次に、日付を選択し、視点を決めますが、この辺は色々数字をいじって試すと面白いです(時刻は世界時(UTC)で定めますが、これは日本時間から9時間を引いた値です)。最後に、「Run Simulator」をクリックします。

ちなみに下の数値で示された場合、この下にぶらさげたフィールドが返されてきます。
      

      
        (2006年3月4日午前0時(世界時)の探査機ボイジャー1,2号とパイオニア11号の位置)

その他のサイト
ボイジャー公式サイト http://voyager.jpl.nasa.gov/index.html
Historical Images of Voyager's Grand Tour http://beacon.jpl.nasa.gov/exhibits/voyager/default.html
Voyager Project Information http://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/voyager.html

(ボイジャー公式サイト…公式、の割りにはちょいとショボイです。。ぜひ充実を!(笑))


【ボイジャーに関する最新情報を下に記載しています】

<追加・関連情報 09.13. 2013>

米航空宇宙局(NASA)は12日、36年前に打ち上げられた探査機「ボイジャー1号」が、人工物として初めて太陽系圏から脱出したと発表した。

太陽系圏は、太陽と惑星および太陽風と、外の宇宙とを隔てる磁場の境界を指す。ボイジャー計画を率いるエド・ストーン氏は、「ボイジャーは太陽系圏を離れて恒星と恒星の間の宇宙の海の航海に乗り出した」とコメントした。

今後は「恒星間空間の探査という初のミッション」(ストーン氏)に取り組み、太陽風と別の恒星からの恒星風の相互作用についての研究に乗り出すという。

米アイオワ大学などの研究チームが科学誌サイエンスに発表した論文によると、ボイジャー1号は2012年8月25日ごろに恒星間空間に入った。太陽系圏離脱はこれまでにも伝えられていたが、NASAが正式発表したのは今回が初めて。

ボイジャー1号と2号は1977年に打ち上げられた。NASAによると、1号は現在、地球から188億キロ、2号は153億キロの地点にある。

ストーン氏によれば、「太陽系」の定義には遠く離れて太陽を周回する彗星も含まれる。このため厳密に言えば、太陽系を離脱するまでにはあと3万年かかるという。約4万年後には太陽系外の恒星に接近する見通し。

ボイジャーは1号、2号とも、宇宙人と遭遇した場合に備えて地球の画像や音声を記録した金色のディスクを搭載している。2号もあと3〜4年で太陽系圏を脱出する見通しだ。【CNN 09.13.2013】


<追加・関連情報 06.16. 2012>

1977年に打ち上げられ、35年経った今現在も機能しているNASAの惑星探査機「ボイジャー1号」の最近の観測データを分析するに、荷電粒子密度が劇的に変化する領域にさしかかりつつあると見られることが明らかになったという。この領域より外は、太陽系外空間と見なされている世界である。

 

この領域に侵入すると、荷電粒子の密度が急激に増加するとされている。勿論、人類の作った探査機がここを通り、そして太陽系を出るのは初めてのことである。

「物理の法則では、ボイジャーが恒星間空間に飛び込む最初の探査機となるのは明らかなのですが、それがいつになるのか、まだ正確なことを我々は知り切れていないのです。最新のデータをみると、探査機は新たな領域に飛び込んだようです。太陽系未知のフロンティアに迫っており、とても興奮しています。」と語るのは、ボイジャー計画に初期から関わるカルテックのエド・ストーン教授。

ボイジャーが現在飛行している場所まではざっと178億キロ、これは光速で16時間38分かかる距離である。ここまでボイジャーはざっと35年かけてやって来た。観測センサーは勿論、35年も前のものである。原子力電池の電力は低下しており、もはや全ての装置を同時に動かすことはできないが、荷電粒子センサーなど空間観測に必要な装置は稼働を続けている。

2009年から今年1月まで、観測値は25%も上昇しているといい、直近では、今年5月7日からの1週間で5%も、1ヶ月で9%もの上昇が見られているという。運用チームが狙っている重要ポイントは3つあり、荷電粒子の急増はそのひとつであった。もうひとつはヘリオスフェア(太陽圏=太陽風の力が及ぶ範囲)内で生成される粒子のカウントである。このような粒子のカウントは減少傾向にあるが、ボイジャーが太陽系を抜けるときに見られると予想されている急減少は出ていない。

そして3つ目のポイントは、磁場の向きのはっきりとした変化である。ボイジャーがヘリオスフェア内にいる現在、その向きは東西方向であるが、ここを抜けると、南北方向に向きが変わるものと期待されている。この分析には数週間を要するといい、運用チームは観測データの分析を急いでいるところである。【NASA 06.16】

…そういえば、ハセガワよりボイジャーのプラモデルが発売されましたね。ボイジャーファンは必買。私も買いますw
   
http://www.hasegawa-model.co.jp/hp/catalog/sw_series/sw2/index.html


<追加・関連情報 03.20. 2011>

伝説の惑星探査機「ボイジャー1号」は、太陽系外空間で今でも順調に飛行を続けている。電力の低下により全ての観測機器を同時に動かすことはとっくにできなくなっているが、イオンセンサーなどは稼働を続けており、姉妹機である「ボイジャー2号」共々、太陽風の振る舞いに関する貴重なデータを送り続けている。これらが外空間の構造理解を大きく飛躍させていることは、近年報じられている通りである。

ところで、荷電粒子である太陽風は、太陽系外空間でどの方向に向きを変えているのか?この疑問に答えるデータを集めるべく、ボイジャー1号の姿勢が大きく傾けられた。このような大きな姿勢制御は、1990年以来のことである。

米東部時3月7日午後12時10分(日本時8日午前2時10分)、ボイジャー1号は地球から見て反時計回りに姿勢を70度回転、ジャイロによりそれを2時間33分維持させた。このように、姿勢を変更しジャイロで固定させるマニューバは90年2月14日が最後で、この時は有名な“太陽系ファミリー”の撮影が行われた。

「ボイジャー1号は33年も飛行を続けているのに、しなやかな動きです。」と語るのは、プロジェクトマネジャーのスザンヌ・ドッド女史。「なんのひっかかりもなくマニューバは実行されました。我々はあと数回同様の観測を行おうと考えています」

2機のボイジャーは「ヘリオヒース」と呼ばれる領域を飛行している(下)。ここは太陽風が太陽系外の星間風とぶつかり、乱される領域。太陽から一直線に飛んできた荷電粒子が向きを変えるのである。

            

2010年6月、地球から170億キロの地点を飛行していたボイジャー1号の低エネルギー荷電粒子検出センサーのデータは、太陽風の外向きの速度成分が正味ゼロになったことを示していた。この現象を、もちろん研究者達は太陽風が消滅したと考えているわけではなく、向きを変えてセンサーにかからなくなっていると解釈している。だがそれはどの方向へなのか?それをはっきりさせるべく、今回の制御が行われたのであった。センサーはボディに固定されており、その向きを変えるには探査機全体を振り回す他ない(下・枠囲みが該当センサー)。

             

ただしこれはリスクを伴う運用でもある。姿勢を大きく変えるということは、メインアンテナもそっぽを向くわけであり、もしその状態でなにかトラブルが発生し再度地球へアンテナを向けることができなくなったら、それで終わりということになってしまう。本番に先立ち2月2日、2時間15分の試行が実施された。16時間後にデータが受信され、テストは成功し、探査機の姿勢変更に何も問題がないことが確認されたのであった。

また、検出センサー分析チームは期待していたデータを取得することができ、正式にゴーサインが出たのであった。運用チームはこの観測を3ヵ月おきに実施することにしているという。

詳しくはこちらへ【Voyager 03.08】

<追加・関連情報 05.20. 2010>

先日既報のボイジャー2号のプログラム書き換え処置ですが、成功したそうです^^ 詳しくはこちらへ【JPL 05.20】

<追加・関連情報 05.17. 2010>

先日伝えられた、ボイジャー2号のデータ変換系(FDS)のアノマリーの原因が、1ビット反転していたことと判明しました。本来0であるべきところが1になっていたとのこと。プログラムの修正は19日にも行われる予定とのことです。

詳しくはこちらへ【JPL 05.17】

…宇宙線の影響でしょうかねぇ。過去にも似たようなことはありましたし…。

<追加・関連情報 05.07. 2010>

惑星探査機「ボイジャー2号」の、観測データ処理系に不具合が生じているとのことです。目下、運用チームがトラブルシューティングを続けています。詳しくはこちらへhttp://www.sorae.jp/030905/3861.html

<追加・関連情報 02.14. 2010>

14日、米国の惑星探査機「ボイジャー1号」が太陽系を“真上”から撮影して20年を迎えた。

ボイジャー1号は、2号と共に外惑星系を探査した、いまや伝説と化した惑星探査機。1号は1977年9月5日に打上げられ、79年3月5日に木星を、80年11月20日に土星を通過、膨大な観測データを送信してきた。2号は77年8月20日に打上げ、79年7月9日に木星、81年8月25日に土星を通過し、さらに86年1月24日天王星、89年8月25日に海王星を探査した。

ボイジャー1号は土星を通過する際、南極側を通過したため、その重力で軌道を大きく北側へと向けられ、太陽系の“上側”へと飛行を続けている。1990年2月14日、その1号が“下”を見下ろすように、太陽系の撮影を行った。

下がその際取得された画像をつなげたもの。全部で60フレーム撮影された。一方、下段は惑星の拡大撮影である。

            
            

太陽系ファミリー9つの惑星(含・冥王星)のうち、6惑星が撮影された。このうち水星は太陽に近すぎ、冥王星は暗すぎるため撮影できなかった。また火星は光学系内における太陽光の散乱のためにセンサーに写らなかった。地球が光の帯の中に見えるが、この帯は散乱太陽光である。(大きいサイズ

ちなみにこの撮影は、カール・セーガンの提案で行われた。彼はこの地球をみて「ひとつの淡い青いドットだ」と語った。それは大宇宙に浮かぶ我々の故郷であり、そして我々自身なのである。

ボイジャーは打上げから30年以上経つが、2機とも健在である。原子力電池で稼働するが発電力は低下し、全ての観測機器を同時に動かすことはもはやできない。だが今も取得される科学観測データは、太陽系周辺部に関するまたとない情報をもたらし、我々の知見を大きく拡大させている(下はボイジャーとパイオニア探査機の現在位置。VがボイジャーでPがパイオニア。パイオニアは2機とも既に交信は途絶えている)。

                 

詳しくはこちらへ【NASA 02.13】

<追加・関連情報 12.25. 2009>

これまで物理学では存在し得ないと言われていた星間雲の中を、太陽系は走り抜けていることが明らかとなった。雑誌「ネーチャー」12月24日号に論文が掲載されている。

これは、ジョージ・メイソン大学のメラフ・オファー氏の研究チームが明らかにしたもの。ボイジャー探査機が検出しているデータを分析した結果、太陽系のすぐ外には強い磁場が存在することがわかったという。この磁場が星間雲を固定していると考えられる。

これまで天文学者たちは、太陽系が走り抜けている星間雲を「Local Fluff」(局所恒星間雲)と呼んできた。この星間雲のサイズは約30光年で、温度6000℃の水素およびヘリウム原子の混合体。これはさらに、1千万年ほど前に近くで発生した超新星爆発による数百万℃の高温ガスバブルに包まれ押し込まれていると考えられている(下・太陽系近傍の局所恒星間雲のモデル)。

            

ところが星間雲のこの温度では、バブルの押し込みに対抗するのは難しい。つまり、星間雲がどうして耐えられているのか謎だったのである。

それが、ボイジャーの観測データを分析した結果、星間雲は考えられていた以上に強く磁化されており、この磁場が助っ人となって高温バブルを支えているようなのである。

また、太陽系のヘリオスフェアの形状はこうした力のバランスの上で決まる。したがって遠い将来、太陽系が近隣の別の星間雲の中に入れば、ヘリオスフェアは更に押し込まれる=サイズが小さくなる可能性もある。もしこうなったとしたら、地球に降り注ぐ宇宙線は今よりもっと多くなることだろう。

詳しくはこちらへ【NASA 12.23】

<追加・関連情報 10.15. 2009>

NASAの太陽系外縁観測衛星「IBEX」(インターステラ・バウンダリー・エクスプローラー)による、全天観測マップがリリースされた。雑誌「サイエンス」に論文とともに掲載された。

この衛星はちょうど1年前の昨年10月19日に打ち上げられたもので、太陽系外縁からやってくると考えられている「宇宙線異常成分」(ACR)を観測するように設計されている。ACRとは、地球で観測される宇宙線の中で、太陽起源のものでもない、また、遠方の深宇宙を起源とするものでもない、そういう意味で“異常”な宇宙線の総称である。現在のモデルでは太陽系外縁のターミネーション・ショック(太陽風が影響力を及ぼす端の領域)で生成されていると考えられており、この全天走査を行うことで、この外縁の様子にかつてなく迫ることができるものと期待されていた。

            

太陽から流れ出る太陽風(莫大なイオン流)と、遠方の恒星系から吹き流れてくる恒星風(太陽風と同意)とが衝突をする内層が「ターミネーションショック」と呼ばれる。一方外層は「ヘリオポーズ」と呼ばれ、その間の空間を「ヘリオヒース」という。ACRはその特徴から、高温の電離ガスなどではなく、中性ガスということがわかっている。この中性原子(ENA)は、ターミネーション・ショックで加速され生じた高エネルギーイオンが星間物質との相互作用で中性になり、結果、磁場の束縛を離れ、太陽系内部に押し戻されて帰ってきたものと考えられている。

IBEXによる全天走査は6ヶ月間にわたって行なわれ、観測センサーはENAをカウントし続けた。そのカウントをマッピングしたものが下の図である。

            

上の図で「V1」、「V2」とマークされているのは、それぞれボイジャー1号、2号のポジション。太陽系外縁を通過し、データを取得した探査機は両機のみ。両者はそれぞれ2005年と2007年にターミネーションショックを通過したが、その際の観測データより、ヘリオヒースがつぶれていることがわかっている。

この図で驚かされるのは、ENAの高い領域が帯状をなしていることだ。このことは、今までに提唱されてきたどのモデルにも合わない。

(下は、IBEXの観測原理を表す図。NASAのリリースにはコメントありませんが、想定では枠内のようなカウント分布が得られると思われていたのでしょう。これが実は帯状だったというわけで、誰もが困惑させられたのでしょうねぇ@管理人)

               

「初めて我々は太陽圏の外へと思考を向けることができつつあるわけで、銀河系における我々の位置を本当に理解し始めているところです」と語るのはIBEXミッション責任者のデビッド・マクコマス氏(サウスウェスト研究所)。「この結果はまったくもって意外なものです。帯状をなしているということは、現在提唱されているどの理論モデルにも合わないものです。」

ボイジャーは惑星探査を終了後、太陽系空間の外へ向けて旅を続けている。しかし上の図でわかるように、不運にも、ボイジャーの通過領域はENAの帯から外れていたのだ。

ミッションに関わる研究員エリック・クリスチャン氏(NASAゴダード宇宙センター)は、「ボイジャーから得られた知見は基本的に正しいものですが、最も興奮するような肝心な領域をかすめて通ってしまったのです。それはちょうど、2箇所の気象観測所の間を巨大台風が通過してしまったようなものです。」と語る。

下は、現時点で可能性として考えられ得るモデルのひとつ。星間磁場と太陽系の進行方向が斜めにクロスするため、ENAの生成場所が帯状になることが考えられるというもの。

              

なお今回の分析には、土星周回探査機「カッシーニ」から得られたデータも加味されているという。詳しくはこちらこちらへ【NASA 10.15】

<追加・関連情報 10.01. 2009>

宇宙空間の高エネルギー粒子を観測するNASAの探査機「エース」(ACE)の最近の観測データより、銀河宇宙線の強度が過去最大であることが明らかとなった。

「今年、宇宙線強度は過去50年で最も強く、それまでの最高値を19%も上回る値になっています」と語るのは、カリフォルニア工科大学のリチャード・メワルト氏。「増加は顕著で、深宇宙ミッションで宇宙飛行士を飛ばす際に必要なシールドを再考する必要性を示唆しています。」

例えば火星に人間が行く際は、宇宙線から守るためのシールドが必要となる。宇宙線の強度が考えられていた以上に強くなるのなら、シールドもそれに合わせ直す必要が出てくることになる。

約11年周期で強弱を繰り返す太陽活動は、2007年に底を打ったものの、現在も低調に推移している。太陽活動が弱いときは宇宙線の量が増加することは知られているが、現在その宇宙線強度がマックスにあり、メワルト氏はこれを「パーフェクト・ストーム」と呼んでいる。

(下・到来する鉄原子核のカウント。従来の予測では2007年に底を打った太陽活動は活発に転じ、来年でピークを迎える予定であったが、底を打った状態が今なお続いており、それに呼応するように、宇宙線の強度も強さを維持し、記録の更新までしてしまった。)

            

銀河宇宙線は太陽系の外から飛んでくる高エネルギー粒子。具体的には主に陽子であるが、例えば超新星爆発で光速に近い早さまで加速された重元素核(鉄など)なども含まれている。このような宇宙線は宇宙飛行士や人工衛星のシステムに影響を与えたりする可能性をもっている。

一方、太陽の磁場が太陽系全体をすっぽり覆っており(「ヘリオスフェア」と呼ばれる)、この磁場のおかげで太陽系内空間まで突入してくる宇宙線は相当量軽減されている。また、宇宙線は太陽から流れ出す太陽風に逆らって進まなければならず、そのため更にエネルギーを落とす。こうして太陽によるシールドが効いて守られているのだが(下)、太陽活動が弱いと磁場も太陽風も弱まるため、内空間までの進入を許しやすくなってしまう。

            

ただし、地球上では強い地球磁場と大気のおかげで、生物は宇宙線から守られる。実際、数百年前には現在の最高値の3倍から4倍に達する量の宇宙線が地球を直撃したことがわかっている。これは宇宙線が大気と衝突した際に生成されるベリリウム同位体の量を極の氷から採取することで判明したものだが、こうした足跡を残す量が到来したものの、生態系を脅かすほどの影響は生じなかったのである。詳しくはこちらへ【NASA 0929】

<追加・関連情報 06.18. 2009>

昨年10月にNASAが打ち上げた太陽系外縁観測衛星「IBEX」(インターステラ・バウンダリー・エクスプローラー)は順調に機能している。軌道投入から約1ヵ月半の昨年12月3日、観測センサーがオンにされるや早速、特徴的なデータが取得されたという。

この衛星は、太陽系外縁からやってくると考えられている「宇宙線異常成分」(ACR)を観測するように設計されている。ACRとは、地球で観測される宇宙線の中で、太陽起源のものでもない、また、遠方の深宇宙を起源とするものでもない、そういう意味で“異常”な宇宙線のことを指す。現在のモデルでは太陽系外縁のターミネーション・ショック(太陽風が影響力を及ぼす端の領域)で生成されていると考えられており、この全天走査を行うことで、この外縁の様子にかつてなく迫ることができるものと期待されている。

運用しているサウスウェスト・リサーチ研究所(SwRI)の運用チームが観測を開始したとき、高速の原子を検出した。この時たまたまセンサーの前を月が横切り、この月で散乱された太陽風がセンサーに飛び込んだと考えると説明が付くという。

太陽からは高速の荷電粒子である太陽風が四方八方に流れ出ている。地球近傍では地球の磁場がシールドすることで、太陽風が地上まで到達しない。しかし月は磁場が弱いため太陽風が月面まで達し、散乱されて飛び散るものが出てくる。IBEXはこの飛び散った粒子を検出したのである。

下は、IBEX、月、地球の軌道と当時の位置関係。放物線に見えているのは、地球のバウ・ショックと磁気圏外縁(マグネトポーズ)。軌道図の下は衛星のスピン角を縦軸に、時刻を横軸に取ってカウントを表したもので、月方向からのカウントが白矢で示された部分。(角度幅は約6°とのことですが、これが月の特徴と一致するのでしょう@管理人)

            

運用チームは、月面に達した粒子の10%が飛び散り、90%が土壌中に吸収されると考えている。飛び散った粒子は衝突の際に電子を獲得し、中性原子になるが、IBEXで検出されたのも中性粒子であった。

今年の夏の終わり頃には、最初の全天走査マップがリリースされる予定とのこと。現時点でどのような成果が取得されているのかそれまで一切ノーコメントとのことだが、プロジェクト責任者のマッコマス氏は「どのモデルにも合っていないようだ」とほのめかしている。

詳しくはこちらへ【IBEX 06.18】

<追加・関連情報 03.05. 2009>

惑星探査機「ボイジャー1号」が木星を通過して、5日で30周年を迎える。

いまや伝説となったNASAの惑星探査機「ボイジャー」は同型機が2機準備され、1977年8月20日に先に2号が、同9月5日に1号が打ち上げられた。両機によって木星・土星が探査され、更に2号が天王星・海王星への接近探査を成功させたのであった。

1号に生じたシステム不調を治すため2号が先に打ち上げられたが、最初の目標であった木星へは1号が先に到達した。アプローチは79年1月に始まり、写真の撮影と各種観測が本格化、同3月5日に最接近、4月に全ての観測を終了したのであった。この間撮影された画像は19000枚に達している。

下は最接近4日前の79年3月1日に撮影された大赤斑とその周辺(大きいサイズ)。木星へはパイオニア10号、11号が既に接近していたが(73,74年)、ボイジャーにより解像度の高い画像が取得され、木星大気の複雑な運動が初めて明らかになったのであった。

            

下は、最接近の11時間前に取得された画像。木星におけるボイジャー1号の最大の発見のひとつが、衛星「イオ」の火山活動だった。下はそのワンショットであり、当時メディアでも大きく取り上げられた。

            

下は、最接近3日後の3月8日に撮影された一枚。縁の部分に(傘状)、そして昼夜の境界線上(輝点)に噴煙が写っている。当時、最接近の前後に撮影された画像をチェックしていたJPLのリンダ・モラビト研究員が気づいたもので、地球以外の天体で火山噴煙が確認された最初の映像となった(詳細)。その後、他の画像にも噴煙が写っているのが確認されたのである(上)。

                    

ちなみに2号の木星接近は4月末より開始、最接近は8月で、取得された画像は33000枚を超えるものだった。ボイジャーサイトはこちらへ【photo: NASA】

<追加・関連情報 10.06. 2008>

今月19日、太陽系と外宇宙との境界領域を調査する「インターステラ・バウンダリー・エクスプローラー」(IBEX)衛星が、ペガサスロケットによって打ち上げられる。

これはテキサス州「サウスウェスト・リサーチ・インスティチュート」(SwRI)のデビッド・マクコマス氏が責任者を務めるミッションで、太陽風と銀河星間物質との相互作用を全天的に観測するものである。(下は今年8月、カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地で準備作業中の衛星。かなり小さいサイズですね。詳細はこちら

               

太陽から流れ出る太陽風(莫大な量のイオン流)と、遠方の恒星系から吹き流れてくる恒星風(太陽風と同意)とが衝突をする内層を「ターミネーションショック」という。一方外層は「ヘリオポーズ」と呼ばれ、その間の空間を「ヘリオヒース」という。

この領域近辺を飛行する衛星が2機ある…ボイジャー1号と2号である。ボイジャーはよく知られているように、惑星探査機であるが、ミッション終了後も問題なく飛行を続けており、打ち上げから30年が過ぎた今もデータを送り続けている。両機が送り続けるデータはこの空間における貴重なものであり、そしてそれは予想されていたものと異なるものであった。

ボイジャーのデータを基にしてこの領域における高エネルギー粒子の減速、加速モデルが提唱されているが、その妥当性はまだ証明されていない。これらを考察する上で貴重な資料をIBEXは集めるものと期待されている。

詳しくはこちらへ【NASA 10.06】

<追加・関連情報 07.03. 2007>

NASAの惑星探査機「ボイジャー2号」が最近取得した太陽風観測データを分析した結果、太陽系外縁の「ヘリオヒース」がつぶれた格好をしていることが明らかとなった。論文が「ネーチャー」誌今月3日号に記載された。

太陽から恒常的に、四方へ流れ出す高プラズマ流、すなわち太陽風は冥王星の遙か外まで流れていくが、星間物質との相互作用で徐々に速度を落とし、やがて外空間を満たす星間物質流および星間磁場と激しく衝突すると考えられている。その衝突面は一定の厚みを持っており、内面が「ターミネーション・ショック」、外面が「ヘリオポーズ」で、その間は「ヘリオヒース」と呼ばれている。

データの分析によると、ボイジャー2号はターミネーション・ショックを予想よりも早く通過したことがわかり、このことはこの領域が内側へつぶれていることを意味していると考えられる(下はそのつぶれを意識して描かれた模式図)。

            

一方、太陽3D観測衛星「ステレオ」が昨年、太陽系外縁から到来したと思われる粒子を観測していたことが明らかにされた。ステレオは2機の同型衛星で同時に太陽を観測し、立体的にそれを捉えるのが目的。2006年に打ち上げられて以来、太陽観測を続けているが、しかしその搭載センサーは思いもよらず、遙か太陽系外縁から到来したと考えられる粒子を検出していたのである。

報告によると、ステレオは昨年6月から10月にかけて、太陽の進行方向(上のイラストで言えば左側)から到来する高エネルギー中性原子を検出していたという。

分析の結果、この中性原子は、ターミネーション・ショックで加速され生じた高エネルギーイオンが星間物質との相互作用で中性になり、結果、磁場の束縛を離れ、太陽系内部に押し戻されて帰ってきたものと結論づけられた。高エネルギーイオンが星間を漂う中性原子から電子を捕獲し中性、すなわち高エネルギー中性原子になる現象は一般的なものである。中性原子は水素であろうと見られている。

また、ボイジャー2号の観測データには予想されるエネルギー値との乖離があったのだが、このこともきちんと説明できるという。中性原子のデータから、ヘリオヒースに存在していた高エネルギーイオンの量を推定することができる。

詳しくはこちらこちらへ【NASA 07.02】

<追加・関連情報 12.12. 2007>

今年8月に打ち上げ30周年を迎え、太陽系外空間を飛行中のNASAの探査機「ボイジャー2号」が今年8月、「ヘリオヒース」と呼ばれる領域に到達したことが明らかとなった。

太陽から流れ出す太陽風は、太陽系の外空間のある部分で、その外側を流れる星間物質流および星間磁場と激しく衝突すると考えられている。その衝突面は一定の厚みを持っており、内面が「ターミネーション・ショック」、外面が「ヘリオポーズ」で、その間は「ヘリオヒース」と呼ばれている(下)。

              

現在、この領域を飛行している宇宙機はボイジャー2号、及び姉妹機の1号のみ。この空間における高速荷電粒子の振る舞いなどがモデルで予言されているが、両機はその検証、ひいては太陽系の大局構造の理解にまたとないデータをもたらすものと期待されている。

2号は、既にヘリオヒースへ突入している1号から160億km離れた場所を飛行中で、ここは16億kmほど太陽に近い。これはつまり、ターミネーション・ショックやヘリオヒースの形状が球対称ではなく、歪んでいることを意味している。(下・水道水とシンクによる類推。水道水が太陽風で、シンク壁など周囲が星間物質。)

             

「旅を続けてきたボイジャー2号は、ターミネーション・ショックを複数回通過し、ヘリオスフェアへと突入しました。」と語るのは、ボイジャープロジェクト研究員のエドワード・ストーン氏。

ボイジャー2号は1号の後追いをしている格好だが、1号と異なり、プラズマ検出器が今なお機能している。プラズマ流である太陽風の観測には非常に有利であり、その速度の直接検出が可能。1号のそれは機能していないため、別の要素から推量するほか無い。

ところでターミネーション・ショックを通過する際、1号では1回のショック(明らかにそれとわかるデータギャップ)しか検出されなかったが、2号では数日間の間に少なくとも5回のショックが確認されたといい(ショック面自体が前後することで、複数回通過に見えたと考えられている)、うち3回ははっきりとしたものであった。その際、取得されたデータがこれまた興味深いもので、ショック通過後のプラズマ温度が低下していたという。通常であれば、圧縮により温度が上がることが考えられるが、この場合逆だったのである。

             
             

この解釈として、ショックが宇宙線粒子を加速し、その代わりにエネルギーを失ったシナリオが考えられるという。実際これまでも、高エネルギー宇宙線の生成メカニズムとして、ターミネーション・ショックによる加速が提唱されており、来年夏にも観測衛星が打ち上げられる予定となっている。

ただ、まだ詳しいことは明らかになっていない。研究チームは今後も詳細な分析と考察を続けていくとしている。詳しくはこちらへ【NASA 12.10】

<追加・関連情報 08.20. 2007>

NASAの惑星探査機「ボイジャー1号」「同2号」が、打ち上げ30周年を迎えた。両探査機は現在も健在で、太陽系外空間へ向けて飛行を続けている。

1977年8月20日、ボイジャー2号が、同9月5日、ボイジャー1号が打ち上げられた。そもそも両機は同日に打ち上げられる予定であったが、1号の機器に不備が見つかり延期された。

1号は途中で2号を追い抜き、79年3月に木星、80年11月に土星へ到達。膨大な量の写真と観測データを送信後、土星の重力で太陽系の上方(北側)へと大きく軌道を逸れ、太陽系を後にした。一方、2号は遅れること79年9月に木星、81年8月に土星へ到達、1号と同様、大量の観測データをもたらした。

2号はこの後天王星へ向かう軌道を辿り、86年1月に同惑星へ到達。史上初めて天王星の近接観測に成功した。更にその3年半後の89年8月には海王星へ到達、最大の謎だったリングに関する決着を付け、また、海王星が予想以上に活動的な惑星であることを知らしめた。

「ボイジャー計画は宇宙開発史における伝説です。それは外惑星系の科学的豊かさに我々を開眼させ、太陽系探査で最も深い業績を上げたパイオニアでもあります。」と語るのは、NASAサイエンス部門副局長のアラン・スターン氏。

ボイジャー1号は現在、太陽から155億kmの地点を、2号は125億kmの地点を飛行しており、光速でそれぞれ片道14時間と12時間かかる距離。両機は元々4年間で木星と土星の探査のみが予定されていたが、2号は軌道の関係から天王星、海王星の探査も可能であったため追加され、結局12年間で4惑星のグランドツアーを達成した。

「ボイジャー計画は、スペース・エイジ以前には不可能な方法で太陽系を我々に見せてくれたのです。それは外惑星系が如何に学ぶべき事で富んでいるかということ、如何に多様性に富んでいるかということを示してくれたのです」と語るのは、同計画に関わる一員であるエドワード・ストーン氏。

2004年12月、ボイジャー1号は「ヘリオスヒース」と呼ばれる領域を通過したことが確認された。この領域は太陽風の勢力が及ぶ外縁にあたり、外空間から流れてくるガスが太陽風と激しく衝突している領域(下図)。2号も今年末にここを通過すると見られ、両機はまたとない貴重なデータをもたらすと期待されている。

            

両機は現在、磁場や荷電粒子を検出する5種類の科学機器を運用している。電力は原子力電池であり、他が正常であれば2020年ぐらいまでは持つと予想されている。

ところで、両機には“宇宙人へのメッセージ”と言われる有名なレコードが搭載されている。このレコードには54種類の言語による挨拶に加え、自然界や文明が出す音などが録音されている。また、117枚の写真やイラストも添えられている。

NASAのブログでは現在、ボイジャー打ち上げ30周年を記念して、「あれから30年、もし新たに同様のレコードを作成するとしたら、あなたは何を収録しますか?」というコンセプトでアイディアを集めている。締め切りは来月5日。

詳しくはこちらこちらこちらへ【NASA 08.20】


<追加・関連情報 08.01. 2006>

NASAの惑星探査機ボイジャー1号は、今月15日午後5時13分(米東部時)、太陽から100天文単位(1天文単位は太陽・地球間の平均距離)の距離に到達した。

ボイジャー1号は1977年9月1日に打ち上げられ、木星、土星を探査し、その後は太陽系外空間を目指して今なお飛行を続けている。詳しくはこちらへ。【NASA 08.15】


<追加・関連情報 05.26. 2006>

テキサス州「サウスウェスト・リサーチ・インスティチュート」(SwRI)が提出している太陽系と外宇宙との境界領域を調査する「インターステラ・バウンダリー・エクスプローラー」(IBEX)ミッションプランに対し、NASAは“オフィシャル・カンファーメーション”を与えた。これは、より具体的なミッションデザインと予算の構築に進むことを認めるもので、実現化へ向けたゴーサインの1つと言える。

IBEXミッションは衛星を2008年6月に打ち上げ、宇宙線の一種である「宇宙線異常成分」(ACR)を観測するというもの。ACRは外宇宙との境界付近のターミネーション・ショックで生成されると考えられているが、現在ボイジャーから得られているデータの限りでは、シロともクロとも判断がつかないでいる。詳しくはこちらへ。【SpaceRef 05.26】

…これはNASAがスポンサーの、総額1億2000万ドルを越えない低額予算ミッションの1つとして提案されているものです。

打ち上げから28年が経過した今なお健在なボイジャー1号と2号からこれまで得られたデータを解析した結果、「ヘリオスフェア」(太陽圏)は北側で外側へ膨張、南側で内側へ収縮していることが判明した。

赤道面から仰角34°を飛行しているボイジャー1号は「ターミネーション・ショック」と呼ばれる領域を通過し、ヘリオスフェアの最外層を飛行している。一方2号は俯角26°を飛行しており、ターミネーション・ショックは約10億マイル(16億km)ほど太陽に近いことを明らかにした。

南北側での違いは、星間磁場による押し戻しが南側で起こっているためだろうと推測されている。2号が来年末、ターミネーション・ショックを通過すると見られており、その時、正確な位置関係が判明するものと期待されている。

ボイジャー2号はまた、南側のショックが低エネルギーイオン源であることを確認した。ただ、当初の予想に反し、両探査機とも高エネルギー宇宙線源を未だ見出していないという。詳しくはこちらへ【NASA 05.24】


<追加・関連情報 02.18. 2006>

現在、太陽系を離れつつあるボイジャー1号。2004年12月、「ターミネーション・ショック」と呼ばれる太陽系と外宇宙の境界を通り過ぎたが、現在も送られてくる観測器機のデータから、宇宙物理学者達は1つの結論を得た…ボイジャーのデータは、過去20年間にわたり妥当と考えられてきた予想が間違いであることを示したのだ。

その予想とは、「宇宙線異常成分」(ACR = anomalous cosmic rays)に関するもの。宇宙線異常成分とは、地球で観測される宇宙線の中で、太陽起源のものでもない、また、遠方の深宇宙を起源とするものでもない、そういう意味で“異常”な宇宙線。宇宙線とはイオンや電子、X線など高エネルギーの放射線。主に太陽から来るものと、銀河など遠方から来るものとがあるが、70年代、これらと明らかに異なる特徴を備えた宇宙線が発見された。「ACR」はこれらの総称である。

ACRはその特徴から、高温の電離ガスなどではなく、中性ガスから生じたものということがわかっている。これまで支持されているモデルは、太陽系外から飛び込んできた中性原子が地球〜小惑星帯軌道付近において太陽放射により陽イオンになり、それが太陽風で吹き飛ばされ、ターミネーション・ショックで再び内側へ向かって加速を受けたというもの。この加速を受けた粒子が拡散し、それが地球にも飛び込んできているというモデルである(下に記載の図と説明もご参考下さい)。

このモデルが真であれば、ターミネーション・ショックの領域には上述の加速粒子が多く存在するはずである。ところがボイジャー1号の通過の際、そのような粒子の存在は殆ど認められなかったのだ。

今月17日、「ジオフィジカル・リサーチ・レターズ」に記載された論文は、この事実をうまく説明する説を提唱している。論文は米サウスウェスト・リサーチ研究所(SwRI)のデビッド・マクコマス博士およびボストン大学のナザン・シュバルドロン博士によるもの。両博士らは、ターミネーション・ショックの形状に注目する必要があり、このことが今後の同分野の研究における重要な礎になると主張している。

ターミネーション・ショックがどの辺に存在するのかはっきりしたことはわかっていなかったが、ただ、磁場の急激な変化やプラズマの加速といったものの観測が期待され、それにより存在を把握することができる。

これまで、ターミネーション・ショックは球形をしているというのが一般的な考え(仮説)で、形状についてそれ以上の考察が行われたことはなかった。だが、マクコマス博士らは、ACRがより現実的な形状により生じている可能性を示した。その形は、卵のような形状だ。「そもそも太陽系は銀河の中を動いているわけですし、ターミネーション・ショックが球形をしているというのは実際のところあり得ないですよ。卵のような形がより現実的ではないでしょうか」と、シュバドロン博士は言う。

ACRの生成には、ターミネーション・ショックの付近に約1年ほど留まる必要性がある。新たなモデルでは、単純な計算で、粒子は約300日ほどターミネーションと接触することが示せるといい、これはモデルの信憑性を裏付ける、より確実な証拠だという。

先述したが、ボイジャー1号はターミネーション・ショックを通過する際、高エネルギーACRを観測することがなかった。20MeVヘリウム粒子は予測の10%にも満たない量であり、4MeV酸素粒子は僅か5%程度だった。

だが、両博士が提唱する新モデルによると、ボイジャー1号が通過したターミネーション・ショックの“先頭”の部分では粒子の加速は生じず、むしろ、ターミネーションの“側面”に移動するにつれて加速が行われ、それがACRとなっているのだという。この違いはもちろん、ターミネーション・ショックの形状に依存する結論である。

            
(上はターミネーション・ショックと粒子加速の模式図で、黄道面と垂直に切った図。ターミネーション・ショックの“先頭”は右側。ターミネーションの内側では磁場はらせんを描き、ターミネーションと結びついている(水色ライン)。また、ボイジャー1,2号の概略位置が描かれており、2号はまもなくターミネーションを通過、1号は通過直後の位置にあることが示されている。

粒子が(図・右端から左側に向かって)太陽系外から飛び込むときは中性(非イオン)であるので磁場との作用は無くそのまま素通りし、太陽の近くまでやってくる。次にその粒子は太陽の放射線によりイオン化し、はね飛ばされるが、それが再びターミネーション・ショックに達すると、今度は電離しているため磁場に引っかかり、磁力線に沿ってらせん運動をしつつ移動する。やがて“側面”に達したとき(図・上)、ターミネーションを離れ、内側へ向かって拡散する。それが地球でACRとして捕らえられる。このモデルが確かなら、ボイジャー1号の飛行経路では加速粒子を観測するわけがなく、現実にマッチしているといえる。鮮明サイズはこちら

後続のボイジャー2号は今後2年ほどでターミネーション・ショックを通過すると見られているが、1号と異なり、より側面側を通過するのではないかと見られている。「我々のモデルによれば、2号は高エネルギー加速粒子とACRを観測するのではないかと思う」とシュバドロン博士は語る。詳細はこちらへ【Southwest Research Institute 02.18】

…この記事は、下の<関連情報 09.26.2005>に関係するものです。ボイジャー2号の今後の観測が楽しみですね。記事を読みながら、「そうそう、日本がACR観測衛星をM-Xで打ち上げても面白いのに…!」などと閃いたのですが…既にSwRI がプランを練っており、「IBEX」(Interstellar Boundary Explorer)ミッション衛星が2008年打ち上げ予定だそうです。しかも主席研究官はマクコマス博士だし。さすがだわ。。これはNASAがスポンサーの、1億2000万ドルという低額予算を超えないプロジェクトの1つとのこと。サイトはこちら


<追加・関連情報 09.26.2005>

NASAが28年前に打ち上げ、木星・土星を探査した惑星探査機・ボイジャー1号による最近得られた興味深い観測が、「サイエンス」9月23日号に発表された。

ボイジャー1号は太陽系外縁の「ターミネーション・ショック」と呼ばれる領域を既に通過し、「ヘリオヒース」と呼ばれる領域を飛行している。

ターミネーション・ショックは、太陽から流れ出る太陽風(莫大な量のイオン流)と、遠方の恒星系から吹き流れてくる恒星風(太陽風と同意)とが衝突をする内層(右図)。外層は「ヘリオポーズ」と呼ばれ、その間の空間を「ヘリオヒース」という。ヘリオヒースでは太陽風の速度が急激に落ち、密度の高い状態が形成されていると考えられているが、詳しいことはまだよくわかっていない。

ところで、最近のボイジャーによる観測で、このヘリオヒースにおける太陽風の減速の度合いは想像以上に大きく、減速はおろか、むしろ内側へ押し返されさえしていることが明らかになったという。

また、ターミネーション・ショックという名がつけられているように、この層ではイオン流の急激なバウンスなどの現象が生じていると考えられていたが、ボイジャーは結局、このような“ショック”を観測することなく通過してしまったと考えられるという。得られたデータはショックではなく、ステディに増加していくものだったという。【JPL 09.26】


<追加・関連情報 05.25.2005>

1977年に打ち上げられ、木星・土星を探査した後、太陽系を離脱する軌道を飛行しているNASAの惑星探査機・ボイジャー1号が、太陽系の外縁と見なされている領域を飛行していることがほぼ確定された。

この領域は「ヘリオスヒース」と呼ばれる領域で、太陽から流れ出ている莫大なイオン流(太陽風)の勢いが落ち、太陽系外宇宙から流れてくる物質と激しく衝突し始めるところ。

右はその想像図。画面左側より、外宇宙からの物質が到来し、冥王星軌道の外側の緑色の部分で太陽風と衝突している状態(=ヘリオヒース)が示されている。

この場所は大体、太陽〜地球間の距離のおよそ90ないし100倍の所であると考えられているが、詳細はわかっていない。

ボイジャー1号は既に惑星探査を終えているが、機体自体は打ち上げからおよそ30年経過した今も健在で、太陽系空間に関する情報(太陽風や太陽系外からの宇宙線の測定)を送り続けている。目下、地球・太陽間の距離の約94倍の地点を飛行している。ちなみに電力は、3機の原子力電池。2020年くらいまでは持ち堪えると考えられている。

データによると、プラズマの密度などが均一で、これは理論で予想されていたヘリオヒースの状況に近いという。

ボイジャー1号は昨年12月16日、ヘリオヒースの“入り口”にあたる“ターミネーションショック”と呼ばれる領域を通過したことが確認されていた。現在飛行しているヘリオヒースを通過すると、そこから先は太陽の影響の及ばない、本当の外宇宙となる。

なお、後続のボイジャー2号もあと5年かそこらでヘリオヒースに到達すると考えられている。詳細はこちら。【NASA 05.25】


<追加・関連情報 03.10.2005>

太陽系を脱出し、彼方へと飛行を続けるボイジャー1号、2号は打ち上げから30年経過した現在もなお電波を送信し続け、地球とのコンタクトも取れている。この管制を打ち切ろうという話がにわかに持ち上がり、波紋を広げている。

理由は、予算不足。ボイジャー2機を含む数種類の人工衛星が、ミッション予定を超えた今なお運用されているが、その維持費がかさむのだという。ボイジャーなど、今後惑星探査の予定はなく、もはやコンタクトにさほどの価値がない、ということのようだ。このような話は過去にもたびたび持ち上がっていたが、今回は性急な動きが感じられるという。

だが、多くの研究者などが反対を表明している。ボイジャーは太陽系外惑星探査の先駆けでもあり、それと今なお通信が可能ということ、それ自体に大きな意義があるという。【SpaceDaily 03.10】