一度限りの雄姿

初版: 10.21.2004 追加: 04.08.2008

ここにある一枚の写真。一見、普通のスペースシャトルに見えるが…だが、周囲をガラクタに囲まれ、機体は砂地に無造作に放り出されている。しかも、かなり汚れているようだし…。これは先頃、ドイツのテレビ局クルーがペルシャ湾を取材中に発見したもので、旧ソ連がかつて開発した「ソ連版スペースシャトル」のテスト機の可能性が高いという。

旧ソ連は1980年代、米国のスペースシャトルに対抗する形で独自のシャトル開発を続け、1988年11月15日、大型ロケット“エネルギア”に背負われて打ち上げられた機体が初飛行に成功した。「ブラン」と名付けられ、突如世界に登場した姿は、米のシャトルとウリ二つ。これは米国のシャトルを模倣することで、機体設計の手間を省いたためと伝えられている。だがマネとはいえ、試作機が何機も作られ、テストが繰り返されたのは事実。真似れば万事OKというほど、エンジニアリングは甘くない。

ちなみにブランの飛行は無人で行われた。飛行制御のソフトウェアが完全ではなく、念を入れてのものだったと言われている。地球を2周した後の無事な帰還を「高度なオートメーション技術の真骨頂」と、これでもかと押し出したソ連当局。「人間を乗せるのが怖かったのだろう」という西側の憶測に対し、「我々は用心深くミッションを遂行しているだけだ。無謀なことをするのが科学ではない」と反論する声が必死だったのを、私は覚えている。まあ確かに、この反論は筋が通ってますね…

ところで、88年のブランの初飛行が、最初で最後だった。1990年に完成し、フライトを待っていた2号機「プチカ」はついに飛行せず、93年にはシャトル計画そのものが廃棄されてしまった。勿論、ソ連という国自体が力尽きてしまったのが原因だ。ブランはその後、バイコヌール宇宙基地の格納庫にお蔵入りとなった。(写真・打ち上げ前のブラン)

現在、ソ連版シャトルの殆どはテスト機も含め、所在不明であるという。あるものはモスクワ郊外のゴーリキー・パークに置かれ(しかも中はレストランに改造)、またあるものは2000年のシドニー五輪の際、アトラクションの1つとして出現している。

今回ドイツ人達が発見したシャトルは、このシドニーからきた(更に転売?)ものだろうという。それが事実ならこのシャトルは、旧ソ連の開発陣によって25回の滑空試験をこなした、正真正銘のテスト機であることになる。湾岸で働くドイツ人ビジネスマン、Kai Niedermaier氏はこのシャトルを買い取り、部品をオークションで売るという。

初飛行を成し遂げたブランは格納庫に長年放置されたままだったが、これは解体費が、フライトにかかる費用よりも高価になるという皮肉な事情からだった。「ブラン」とは「大吹雪」の意。その名に込められた威力が二度と復活することはなかった。

放置され、老朽化が進んだ格納庫の天井が2002年5月、ついに崩壊。これが、1度限りの勇姿を見せたブランの哀しい最後となった。【photo: Spiegel】

<追加・関連情報 04.08.2008>

下は、ドイツ・ライン川を運ばれるシャトル…上で記したテスト機です^^

             

2004年にドイツのテレビクルーによって偶然発見されたものが、今やっと運ばれて来たようで。側面の文字は直書き?…よく見ると横断幕ですね。【photo: 時事 04.08】

<追加・関連情報 06.16.2005>

パリ航空ショーで、ロシアの新型宇宙船・クリッパーがお目見えしている。右はそのフォトですが…天井から吊ってあるようですね。ところで、愛知万博・ロシア館でのクリッパーの展示はどうなのでしょう・・聞くところによるとお客さんは少なく、触り放題だとか。。

そういえば、クリッパーのモックアップ、何機あるのかな・・?ロシアもかなり力を入れてセールスしているようですね。。【Photo: Space.com】

<追加・関連情報 03.22.2005>

ロシアの新型宇宙船“Klipper”(クリッパー)は今夏、フランスの航空ショーで世界公開される予定であったが、急遽、名古屋万博にお目見えすることになった。

ロシア・RIA Novosti 通信が伝えるところによると、この重量17トンの新型宇宙船・クリッパーの実物大モデルは当初、パリ航空ショーで展示される予定であったが、予定を繰り上げ、名古屋万博で世界公開になったとのこと。ロシア政府関係者はできるだけ早くクリッパーを公開したがっており、その動きの現れと見られる。【RIA Novosti 03.22】

クリッパーはロシアが次世代型往復帰還機として提唱しているもの。現在建設中の国際宇宙ステーションへの人員物資の輸送や、将来の月面探査、さらには宇宙観光に適していると売り込みに躍起になっている。【管理人】

<追加・関連情報 02.10.2005>

ロシアが開発中の新型宇宙船「クリッパー」が、今年6月13日からパリで開かれるル・ブールジュ(Le Bourget)航空ショー(いわゆる「パリ航空ショー」)にお目見えすることになった。

クリッパーはロシアの宇宙企業・エネルギア社が開発している次世代型宇宙艇(図)で、国際宇宙ステーションに向けて人員を輸送する手段として提案している宇宙機。

※スペースシャトルに似ていますが、貨物室が無いのが特徴です。まあ、貨物は別に打ち上げればイイですからねぇ…

重量は14.5トンの機体は人員6名の他、約700キロの貨物を搭載することができ、元・大陸間弾道ミサイル(ICBM)であるロケット「ゼニット」の改良版にて軌道に打ち上げられる。【Itar-Tass 02.10】

<追加・関連情報 11.30.2004>

RKKエネルギア社は30日、ロシアの新型有人宇宙船「クリッパー」の実寸模型を報道陣に公開した。(クリッパーは、米国で開発される新型宇宙船の10分の1のコストだと、これまたセミョーノフ社長は主張してます)

クリッパーは長さ10m、直径3.5mで、現行のソユーズ宇宙船の約2倍。形はアイロン(?)型で6人乗り。「米国はこの宇宙船建造プランには参加しないだろう。しかし、ヨーロッパは関心を持ってくれており、来月13日には欧州宇宙機構と会合も持つ予定だ」という。クリッパーは10年間で20ないし25回の飛行を行う予定の往復型スペースクラフト。新開発予定の打ち上げロケット「オメガ」の先端に装着されて打ち上げられる。【Novosti-cosmonautiki 12.01】

…ロシアのクリッパー、かなり面白そうだなぁと思います。シャトルの貨物室がない形ですね。ロシアにはすでに高信頼度の貨物ロケットがありますから、資材はそれで運べばいいし、まとまった人員はクリッパーで、ということであればこちらが結局、米国のシャトルタイプよりも遙かにコストがかからないということでしょう(シャトルは周辺設備、人員まで入れたら膨大な維持費がかかっている)。

クリッパー、パイロットは2人ですが、後の4人は、科学者でなく観光客でもいいわけですからね(笑)

それにしても最近のロシアの宇宙開発は、安定して進んでいるように見えます。米国からのISSも含めた資金援助も順調なのか、或いは、ロシアの好景気で資金周りもよくなって来たのか…?まだプランだけのものが多いですが、メドもある程度ついているのかなぁ?米国の苦しそうな所に先手を打って協力を持ちかけ、資金を捉えるところなど、うまいというか、商魂魂というか…シャトル・ミールミッション以来そうですから(笑)