ブラックホールに吸い込まれた!

初版: 02.22.2004 追加: 06.17. 2006

ブラックホールに接近した星の一部が、ブラックホールの強力な重力の影響でばらばらになる様子を、エックス線による観測でとらえたと、米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)の共同研究チームが18日、発表した。この現象は理論的には予測されていたが、実際に観測されたのは初めてという。

チームは「ブラックホールの形成と成長の様子や、ホールの重力が周辺の星に与える影響の研究に有用なデータが得られた」としている。

研究チームは、NASAのエックス線宇宙望遠鏡チャンドラなどを使って、7億光年のかなたにある銀河中心部のブラックホール周囲に発生した強力なエックス線を観測した。 

これは、太陽と同じ規模の星が、太陽の1億倍もの質量を持つブラックホールに接近した際、ホールの強力な重力によってばらばらにされて飲み込まれる時に出たことを突き止めた。飲み込まれずに残った部分は、周辺に飛び散ったという。【共同/Spaceflight Now 02.22. 2004】

【関連の追加情報を以下に記載します】

<追加情報 06.05. 2006>

画像は、X線宇宙望遠鏡チャンドラにより観測されたM31・アンドロメダ星雲。X線のエネルギーによって色分けされており、赤・低エネルギー、緑・中間、青・高エネルギーにそれぞれ対応している(左は米キットピーク天文台で撮影された可視光画像で、チャンドラによる観測領域が右に抜き出されている)。

             

特徴的なのは、散りばる点状のX線源。この1つ1つは高密度星と巨星からなる連星系に対応している。高密度星とは、ブラックホールや中性子星のこと。これに対し、相方の巨星よりガスが流れ込み、高温となったそれからX線が放射されている。一方、中心領域に集中しているX線源は、恐らく超新星爆発による衝撃波によって数百万度に熱せられている部分と見られている。超新星爆発による高エネルギーが、中心領域からガスを外へ向かって放出させるとも考えられており、これが銀河の形や恒星の誕生に影響を与えている可能性もある。大きいサイズはこちら。【Chandra 06.05】

<追加情報 05.22. 2006>

巨星・ブラックホールの連星系では、巨星の外層がブラックホールへ流れ込み降着円盤を形成、円盤中心付近からは円盤面に対称にジェットと呼ばれる高速ガス流が吹き出している姿が多く観測されている。ところが先頃、NASAのスピッツア赤外線宇宙望遠鏡による観測で、巨星・中性子星の連星系でそのようなジェットを形成しているものが発見された。

これまで、ジェットを吹き出しているのはブラックホールの場合ばかりであったので、中性子星を中心星としたジェットが確認されたのは初めてのこと(右・想像図)。

カリフォルニア大学の研究チームによる観測結果と分析が、「アストロフィジカル・ジャーナル」レターズ(ApJ-letters)の5月20日号に記載された。

観測チームは「4U 0614+091」と符合がつけられた中性子星X線連星を観測した。この連星は、巨星からのガスが中性子星に流れ込み、そこでX線を発している天体。観測の結果、中性子星の周辺に降着円盤、更に、ジェットの存在が確認されたという。

これまで、そのようなジェットの観測は電波望遠鏡により行われてきた。ジェットから放射される電波を捉えることで存在の認知をすることができるわけだが、ところが中性子星が中心星の場合、形成されるジェットがブラックホールの場合と比べ弱い(10分の1)ため、何時間にも及ぶ観測を行わないと捉えられないものだった(そのため、これまで確認されることがなかった)。

ところが、研究チームはスピッツアの超高感度赤外線カメラの力でこの天体を観測、ジェットの存在を発見したという。詳しくはこちらへ【Spitzer 05.22】

<追加情報 05.01. 2006>

米国立電波天文台の超長基線電波干渉計(VLBA・右)による最近の観測で、これまでに見つかっているブラックホールどうしからなる連星系のうち、両者の距離が最も近いペアが発見された。両ブラックホールは超大質量タイプで、太陽質量の1億5千万倍を超える。また両者の距離は、地球とベガ(こと座)間のそれよりも近い。

「ジャイアント・ブラックホールどうしの距離は僅か24光年しか離れていません。これは、過去に見つかった同様の連星系の100分の1の距離足らずです。」と語るのは、VLBAを用いて研究を続けているニューメキシコ大学のクリスチナ・ロドリゲツ研究員。

このブラックホール連星は、地球から7億5千万光年離れた「0402+379」と符合がつけられた銀河の中心部に存在する。研究グループは、双方のブラックホールとも本来別々の銀河中心核だったもので、銀河が融合した結果できあがった連星系だろうと考えている。

両ブラックホールは、周期15万年で公転しあっているとみられている。

もし、両者が融合することがあったら、その際は強力な重力波を発すると考えられている。重力波は一般相対性理論の正確さを検証する重要な天文学的現象であるが、今回見つかったブラックホール近接連星が融合するまでには、10億×10億年(1018年)かかるという(…原文はa billion billion years …とにかく、宇宙自体が存続しているかどうかわからない程の時間がかかるということですね^^;)。

VLBAによる初期の観測では、この銀河中心核付近に、電波を放射するペアの物体の存在が明らかになっていた。その後の更なる観測の結果、両物体は確かに、連星系を成した超大質量ブラックホールであることが確認されたという。

「天文学者らはこれまで、超大質量ブラックホール連星は銀河衝突が原因で形成されたと考えてきました」とロドリゲツ研究員は語る。これまでその証明は難しかった…というのも、これまで見つかっていた中で最も距離が近いペアでも4500光年離れていたからだ。太陽質量の数倍程度のブラックホールからなる連星系はこれまでも我々の銀河内で見つかってきたが、超大質量ブラックホール連星で、しかも最至近距離をなすものは、銀河「0402+379」の中心核に見つかったものが初めてだ。詳しくはこちらへ【NRAO 05.01】

<追加情報 04.24. 2006>

NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」による9つの銀河の観測データより、ブラックホールにより解放されるエネルギー効率は宇宙一であることが明らかとなった。

銀河中心の巨大ブラックホールや、ブラックホールと巨星がペアとなった連星系の場合、ガスやダストが流入するケースがあるが、その際、円盤(降着円盤)を形成する場合が多い。降着円盤は同時に、物質の重力エネルギーを解放する場でもあり、そのエネルギーはクウェーサーのエネルギー源として説明つくほど巨大であることが知られている。

今回明らかになったのは、いわばその「燃費」だ。結論は、極めて燃費がよく、そのような意味で“ブラックホールエンジン”は“グリーン”な動力源と言えるという。

「車に例えるなら、理論的には、1ガロン(4リットル弱)で10億マイルも走れるほどです」と語るのは、メリーランド大学のクリストファー・レイノルズ氏。レイノルズ氏は、この研究を行うスティーブ・アレン氏(スタンフォード大学)率いるチームの一員。

同チームはチャンドラ宇宙望遠鏡で、9つの楕円銀河の中心領域を観測した。これらの銀河中心には太陽の2億〜30億倍の超巨大ブラックホールが座っており、クウェーサーなどと比べると比較的小さいエネルギーを発している。年齢的には古い方に属し、宇宙初期に急激な成長を遂げたものと見られている。

観測で明らかになったことは、これらの“おとなしい”ブラックホール全てが、可視光やX線で観測される以上に高エネルギーのジェットを噴出させているということだ。

ブラックホールの燃費は、2ステップの観測で計算された。まず、チャンドラのデータより、ブラックホールにどの程度の物質が降着しているかが見積もられ、続いて、“空洞”を形成するのに必要なエネルギーが見積もられた。こうして入力と出力が見積もられ、得られた結果は、僅かな燃料(降着物質)で巨大な出力が発揮されているということだった。

(下はチャンドラによって観測された9つの楕円銀河の1つ、NGC4696。“CAVITIES”というのが空洞構造で、ブラックホールの両側に、ジェットによって形成されたもの)

              

下、左端:
銀河中心領域のイラスト。薄い破線円は降着ガスがブラックホールの影響を受け始める所。一部のガスは外に向かって吹き飛ばされ始める。

中央:
最内縁のイラスト。中央の黒い部分がブラックホールで、その近傍が最もエネルギーが解放される領域であり、それをイメージして描かれている。物質はホールへと落ち込んでいくが、高エネルギー光子により吹き飛ばされるものも多く、それがジェットを形成する。吹き飛ばされた直後のガスには、光速に近い速さに達するものもある。また、左と右のイラストでブルーで描かれたのが、そのジェット。動画はこちら

右端:
ジェットが周辺ガスを押しのけ、“空洞”を形成する様を描いたイラスト。ブラックホール周辺と比べると桁違いに大きな(100倍以上)構造物となっている。

            

円盤を形成する物質は、重力エネルギーを解放しながら徐々に内側に向かう。そこでは、一部のガスは発せられる光子などにより外部に吹き飛ばされジェットを形成するが、大部分は更に深く沈降しつつより高エネルギーを放射、ついにはブラックホールの「事象の地平」まで達して中へと吸い込まれていく。

今回の観測で、ブラックホールへの流入が数百万年間にわたってステディであることも明らかになったという(空洞の大きさなどから見積もったんでしょうかねぇ@管理人)。

加えて、取り巻く高温ガスにはジェットによって継続的にエネルギーが供給され続けるので、新たな恒星の形成などが妨げられていることも判明。これが銀河の大きさに制限を加えているかもしれないという。詳しくはこちらへ【NASA Chandra 04.24】

…先週、NASAが「ブラックホールは“グリーン”だった」と予告していたので、緑ってなんじゃい!?と期待していましたが…グリーンの意味が違った^^ゞ そもそも降着円盤のアイディアは、核融合よりも更に桁違いのエネルギーを解放するメカニズムとして考案されたもので、その高燃費も予言されていましたが、それを実測で確かめたという点に意義があるとみていいのでしょう。

<追加情報 04.18. 2006>

NASAゴダード宇宙センターの研究者達はこのほど、同エームズ宇宙センターに備えられているNASAご自慢のスーパーコンピュータ「コロンビア」(右)による数値シミュレーションで、2つのブラックホールから成るブラックホール連星が1つに融合する様を、かつて無い精度で描き出すことに成功した。

「Physical Review Letters」誌3月26日付に論文が記載された。詳細が「Physical Review D」誌に発表される予定。

このシミュレーションでは、ブラックホールとその周辺時空の振る舞いが3次元解析された(右)。この解析は、NASAのスパコンで行われた天文計算では最大のものという。

(計算結果を動画で示したものはこちら

アインシュタインの一般相対性理論によると、2つのブラックホールが融合するとき重力波のエスケープに伴って空間が“Jell-O”のようにブルブルと振るえることが知られている。(Jell-O…米国のゼリーの1つ。日本で言えば「こんにゃく畑」みたいなものでしょうか@管理人)

だがこれまでのシミュレーションはうまくいかなかった…一般相対性理論による方程式が複雑すぎたためである。だが、ゴダード宇宙センターの研究者達は上手い手法を編み出し、実行を可能としたのである。(論文を見ないと詳細はわかりませんが、リリースを読む限り、テンソルの膨大な計算や発散の困難などを解消する方法を見出したようです@管理人)

「この融合は宇宙で最もパワフルな現象で、その時に解放されるエネルギーは全宇宙の恒星を合わせたものよりも大きいのです。」と語るのは、ゴダード宇宙センター内の重力天体物理研究所の所長、ジョーン・セントレラ氏。

この重力波は相対性理論の正しさを示すことになる“直接証拠”。この検出の試みがレーザー干渉計で行われているが、それはあまりにも弱いため、まだはっきりとした反応は得られていない。ブラックホールの融合は大きな重力波の放射を生じる。

初期条件として、同質量・非自転の2つのブラックホールを用意し、それを様々な位置関係から出発させ、融合させてみたという。それらの結果、いかなる場合でも、ブラックホールは安定した重力波を放射することがわかったという。

研究チームは目下、質量の異なるホールどうしではどうなるか、計算を行っているという。くわしくはこちらへ【NASA 04.18】

<追加情報 01.09. 2006>

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者グループは先頃、時空に安定した“くぼみ”を刻むブラックホールの存在を明らかにした。それはちょうど、ソファのくぼみのようなものであるという。

この発見は、ブラックホールの正確な質量や自転に関する情報取得を可能にするものと期待されている。

研究チームはNASAの「Rossi X-ray Timing Explorer」(RXTE)衛星を用いた観測により、あるブラックホールに対する観測について、9年前の1996年以来変化のない、同一パターンのX線が放出されていることを明らかにした。

一般にブラックホールとその周辺領域は過酷な環境にあるため、そこから放射される電磁波は刻々変化すると考えることができる。ところが、9年の間隔をあけた観測データに変化がないということには、根源的な何かがあると考えられる。

この結果は、MITのジェロン・ホーマン氏及びミシガン大学のチームとの合同研究により明らかになった。今月10日、米天文学会総会で発表された。

「放射X線の周波数振動に関し、全く同じ周期を検出したという事実は、偶然の出来事ではありません」とホーマン氏。「振動は、ブラックホールによって形成された時空の溝によってつくられているものですね。この現象は予想されてきたものですが、今や我々は、その確固たる証拠を持っていると言えます。」

彼らのグループは、「GRO J1655-40」と符号が付けられたブラックホール連星系に注目し、その事象の地平(入ったら光すら二度と出られない内側領域との境界)から僅か100マイル(約160km)かそこらの狭い部分を観測した。

この連星系はブラックホールと巨星が公転しあっているもので、巨星の外層がブラックホールへ向かって流れ出し、降着を起こしている(右・想像図)。

この観測領域では、物質は比較的安定してブラックホールの周囲を取り囲んでいることができる。だが、時折、放射されるX線がある正確な周期で“ふらついて”いることが明らかになったという。

これは、ブラックホールが時空を変形させていることの直接証拠という(右はその模式図。時空の変形のため、降着するガスも大きく変形している。この盛り上がり(コブ)全体もまた回転している)。

1996−97年に観測されたバースト現象と2005年のバースト現象との間の9年間、ターゲットはおとなしかった…この間、ガスの供給は干上がっていたと考えられる。彼らは2005年に発生したバースト後、1日2回の割合で約8ヶ月間、トータル550時間の観測データを得た。ガスが降着し、全体が高温となり、X線放射が生じるのだ。

この長期観測により得られたX線のふらつきを彼らは、擬周期振動(quasi-periodic oscillations; QPO)と呼んでいる。この振動は、ブラックホールを取り巻くガスの一部に生じた“コブ ”の“よろめき”(回転)から生じていると考えられている。振動の周期は300Hzと450Hzといい、これは9年前に得られた値と同一という。

ちなみにこのブラックホールの質量は、9年前の観測より、太陽の約6.5倍ということがわかっている。

正確な振動周期には、ブラックホールの質量と回転速度が関係している。この対象の場合、質量は既にわかっており、今回、振動周期が300Hzと450Hzと確定した…すなわち、回転速度を逆算することができるというわけだ。

(右は8ヶ月間に得られたX線強度の全体グラフ。約75〜90日にかけてグラフが突出し際だっているが、これが「バースト」現象で生じた高エネルギーのX線。

下は、X線のふらつきを周波数別に分析したスペクトル。右側のほう、約300Hzと450Hzの部分にピークがあり、これがコブのよろめきによるものと考えられている。極めて弱い強度であるので、拡大しないとわからない。9年前にも同じスペクトルが観測されたわけだが、このような微細な特徴の再出現は、ブラックホール固有の属性に起因すると考えるのが自然と言える。)

              

「初めて、ブラックホールの完全な姿を描くことができるというわけです」と語るのは、ミシガン大学のジョン・ミラー氏。

ちなみに、このような長期スパンにわたる観測が可能になった背景には、「Rossi X-ray Timing Explorer」の存在がある。この衛星は1995年12月30日に打ち上げられたものだ。チームの一人、ルディ・ウィニャンズ氏は言う、

「もしこの衛星を用いなければ、このようなQPOを再度観測することはなかったでしょう。我々には時間が必要です。ブラックホールから放射されるX線は普通、様々なタイプのふらつきを見せるのです。毎秒数回の割合で強弱を繰り返すものもあれば、数日周期のものもあります。我々が観測したのは特殊なもので…そう、毎秒数百回というものです!しかも、それは9年前の観測と同じものだったという訳なんです。」

…詳細や大きいサイズの画像はこちらへ。【MIT 01.09】

<追加情報 01.06. 2006>

高速で運動する電波天体(ブラックホールや中性子星を含む連星系など)を観測するNASAのRXTE観測衛星(Rossi X-ray Timing Explorer)を用いて調査を続けていた研究者グループは、“中質量ブラックホール”が伴星である巨星の外層を吸い込む様子をキャッチし、放射されるX線強度の変化の周期を明らかにすることに成功した。中質量ブラックホールが関係するとみられる連星系の観測が詳細に行われたのは初めてのこと。

ブラックホールは、自己の質量に耐えきれず、果てしなく崩壊していく天体であるが、その質量によって大きく分類することができる。太陽よりも遙かに重い超巨星が超新星爆発を起こすことで形成されたブラックホールは太陽の数倍程度の質量で、小質量ブラックホールと呼ばれ、また、殆どの銀河の中心に存在するブラックホールは太陽系がすっぽり入るほどの大きさで、太陽の数百万倍もそれ以上もの質量を持ち「大質量ブラックホール」と呼ばれている。この大質量ブラックホールがどのように形成されたのかはまだわかっていないが、銀河形成初期の頃のガスの収縮によるものではと言われている。

ブラックホール自体は“ブラック”なので見えない。しかしそれが連星を成し、伴星が巨星の場合、巨星の外層がブラックホールに落ち込み、その際 X 線を放射することがある。この強度などからブラックホールの質量などが推定される。

ところがここ10年ほどのうちに、特に強くX線を放射する天体が見つかり始めた。その特徴などから算出を行うと、考えられるブラックホールの質量が太陽の100ないし10000倍になるという。この“中途半端な”質量のホールがどうやってできたのか、議論が続いている。

この中途半端な質量のブラックホールが、「中質量ブラックホール」と呼ばれている。

今回、アイオワ大学のフィリップ・カーレット教授率いる研究チームは「M82 X-1」と言われるX線天体を詳しく調べた。この天体は極めて強いX線を放っていることで知られており、近年中質量ブラックホールの存在を巡って議論が続いている。同チームの大きな特徴は、このX線放射の強度周期を得たことにある。この周期は、対象天体が連星系であることを示唆しており、そのことが重要な情報をもたらすからだ。

この周期に加え、天体の速度が得られれば、相対論などの特殊な理論を用いることなく、簡単なニュートン力学を適用することで連星系の質量を求めることができる。

右は実際に得られた光度(強度)曲線。周期約62日でピークが生じているのがわかる。

ところでこのM82 X-1という天体は、高密度な恒星集団の近傍に存在する。

この恒星集団は、僅か100光年のスパンの空間に、100万個の恒星が密集している。ちなみに太陽系を中心とした同程度の空間には、せいぜい1万個程度の恒星があるのみ。M82 M-1の成因について最も有力視されているシナリオは、短期間の間に恒星どうしの融合の連鎖が生じ、ごく短期間ながら極めて巨大な恒星ができ、それが重力崩壊を起こして中質量ブラックホールが生じたというもの。M82 X-1近傍の恒星集団はそれを可能とするには充分な密度を持っていると考えられている。

一方、彼らが得た周期62日は、伴星が非常に低密度な巨星であることを示唆している。ぶよぶよに膨張した超巨星の外層が大量にブラックホールに吸い込まれていくという形で、高輝度のX線放射に必要な燃料源になると考えられる。

ただ、計算に必要な速度の決定は、難しいものになると言われる。対象が、ダストでかすんだ領域に存在するからで、可視光はおろか、赤外光でも難しいという。ただ、今回、強度の周期が判明しただけでも、大きな進展だという。

ちなみにM82はおおぐま座にある銀河で、隣接にM81が存在する。右は両者を取り込んだ画像(ハッブル・大きいサイズ)で、アマチュア天文家の被写体としてもポピュラー。上の四角で囲まれた銀河がM82。

M82は恒星の形成速度が通常の銀河よりも早く、「スターバースト銀河」として知られている(短期間でたくさんの恒星が生まれている=スターバースト)。可視光でも拡大すると活動が活発なことがわかり、その昔は「銀河中心で大爆発が起こった」と考えられたこともあった。

下は1999年から2000年にかけてチャンドラX線宇宙望遠鏡で観測されたM82の中心領域。X線波長で、約3ヶ月の間隔をおいて撮影された画像で、緑の十字は銀河中心を示す。左右を見比べると、中心の右側(距離約600光年のところ)で突如明るいスポットが出現しているのがわかるが、これがM82 X-1に対応する強力なX線。

              

M82中心はガス密度が高く、その上M81の接近による重力効果がスターバーストを誘発していると考えられている。さまざまな波長でみたM82はこちらへ【NASA/Iowa Univ. 01.06】