宇宙を渡る帆掛け船

初版: 03.30.2001  追加 11.09.2008

子供の頃、学習図鑑に見入った方なら、光の反動を推進力とする「光子ロケット」や、太陽の光を帆に受けて進む「光子帆船」のようなものがよく描かれていたのを覚えている方も多いと思う。この、かつては空想の域でしかなかったものが近未来、実現しようとしているのだ。

人類はこれまで、太陽系内の惑星には数々の探査機を送ってきた。しかし、冥王星の外まで到達したものは、ごく僅かに過ぎない。

実は、太陽系の外は、内よりも星間密度等、かなり異なると考えられている。探査の意義はあるのだが、ここで浮上する最大の問題は、「時間」なのだ。今の探査機のスピードだと、到達するまでに数十年はかかる。着いたときには研究者の多くは年金生活、或いはこの世を去っているかも知れない。スピードを得るには、強い推進力が必要。皮肉にもそれが、強力なエンジンを用いてではなく、「帆」を用いることで、既存の探査機のそれの、実に5倍の速さを実現可能という。

また、太陽からは強烈な光(光子)に加え、「太陽風」と呼ばれるイオンや電子といった粒子が絶え間なく外宇宙に向かって流れ出ている。速さは秒速数百キロにも達するのだが、これらをあたかも帆船のように帆で受け、一気に加速しようというコンセプトなのだ。

最新の特殊カーボンファイバーで織られた帆の広さは東京ドームを遥かに凌ぐ。これをコンパクトに折りたたみ、太陽の傍に向かわせ、そこでオープン。太陽の近くが粒子の勢いも当然強い。

探査機はぐんぐん加速、時速15万キロを越える。これはニューヨークとロサンゼルスを1分未満で繋ぐ速さだ。木星軌道まで達したときに帆を外し、後は慣性で外宇宙を目指す。

大航海時代、マゼランやコロンブスらは帆船に乗り、まだ誰も知らぬ無法の海を押し渡り、地球が丸いことや新大陸を発見、人類に新しい世界観をもたらした。時代や空間尺度は異なれども、我々は、そんな新たな帆船の旅への第一歩を踏み出そうとしているのかもしれない。

<追加情報 11.09.2008>

太陽の光の粒子を大きな帆に受けて進む「ソーラーセール(太陽帆船)」の実現を目指し、宇宙航空研究開発機構は8日までに、近くの惑星まで航行する実証機の準備に着手する方針を固めた。近い将来に、H2Aロケットを打ち上げる際の振動を抑える重りの代わりに搭載する計画が、英国で開かれた国際学会で明らかにされた。

実証機チーム代表の森治助教は「ソーラーセールによる惑星間航行に成功すれば、世界初。挑戦の意味を込めて『イカロス』と名付けた」と話している。

太陽帆船は燃料が要らず、低コストが長所だが、大きな帆を畳んで打ち上げ、宇宙で広げる技術が課題。宇宙機構の川口淳一郎教授らは2004年8月、鹿児島・内之浦から小型ロケットを打ち上げ、枠がない直径10メートルの薄い樹脂膜の帆を宇宙で展開する実験に世界で初めて成功した。その後、一部に太陽電池を張った帆と、小惑星探査機「はやぶさ」で実用化したイオンエンジンを組み合わせ、木星とさらに遠くの小惑星へ航行する探査機の計画を立案。今回はその前段階として、木星より近い金星などを目標とし、まず帆だけで航行できることを実証することにした。【時事 11.09】

<追加情報 07.01.2008>

今月29日から来月6日のウィンドウで、NASAの開発した“ソーラーセイル”が打ち上げられる見込みとなった。打ち上げには「ファルコン1」ロケットが使用される。

セイルを開発しているのは、NASAマーシャル宇宙センターのエドワード・モントゴメリー氏を中心とした研究グループ。同チームおよびNASAエームズ宇宙センターのチームは「ナノセイル−D」と名付けたスペースセイルの打ち上げに向け、活気づいている。

「全てにとって、これは初めてのことなのです」と、モントゴメリー氏は語る。今回のミッションが成功すれば、宇宙空間で帆を展開し、推進する初めての宇宙船となる。(下・セイルと開発チーム。セイルはアルミと新開発プラスチックでできており、全重量は5kgに満たない。折りたたまれた際にはパン一斤程度の大きさとなる。)

            

この類の試みは、NASAが始めてではない。2001年7月および2005年6月、米惑星協会が中心となって作成した「コスモス1」がロシアの原潜よりICBM転換ロケットで打ち上げられたが、2度とも軌道投入に失敗している。また、2004年8月にはJAXAが帆の展開を成功させている(ただしこれは展開実験のみで、空間飛行をしたわけではない)。

このソーラーセイルが受ける“風”は、強烈な太陽光だ。光の“風圧”は弱いものだが、長時間受け続けることで累積される力は大きなものとなる。

この帆船は、加速は弱いが、最終的には物凄い速度を得る。普段利用されるロケット、すなわち化学エネルギーによる加速では、太陽系外縁探査には時間がかかりすぎる。例えば今なお稼働し、太陽系外縁を飛行している「ボイジャー」は、そこへ達するまで30年を要した。しかしもし今これをセイルで追えば、10年で追いつくことができるだろう。セイルならそれほどの速度を得ることができるのである。

ちなみに「ナノセイル−D」の“D”であるが、これは通し番号ではなく、「デモンストレート(demonstrate)、展開(deploy)、ゆっくりとした航行(drag)、軌道離脱(de-orbit)」の頭文字を表している。詳しくはこちらへ【NASA 06.26】

<追加情報 02.12.2006>

帆に受ける太陽の光の圧力だけで宇宙を進む世界初の「太陽帆船(ソーラーセール)」の打ち上げに昨年失敗した米惑星協会(本部カリフォルニア州)が、宇宙船を作り直して再挑戦する方針を9日までに決めた。

世界の宇宙ファンからの熱い励ましが原動力となったが、課題は約400万ドル(約4億7000万円)の費用調達。協会は「ぜひ民間の力で夢の達成を」と広く寄付を呼び掛け、資金集めに本腰を入れている。

ソーラーセールは、将来の惑星間移動の手段として注目の技術。初の地球周回実験を目指した協会は昨年6月、8枚の帆を持つ宇宙船を、旧ソ連の弾道ミサイルを改造した3段式ロケットで潜水艦から打ち上げたが、1段目の燃焼が途中で止まり、宇宙船の技術は全く試せずに終わった。【共同 02.10】

<追加情報 09.29.2005>

NASAグレン研究センターで、400平方メートルの「ソーラーセール」の展開試験に成功した(写真)。

これは、NASA・ジェット推進研究所(JPL)と米民間企業ATKスペースシステムズが合同で開発しているもの。一辺20メートルの正方形の形をしており、極めて薄いアルミを素材として作られている。対角線にセールを支えるブームが伸び、今回このブームの展開テストが行われ、スムーズに稼働させることに成功した。

ソーラーセールは、太陽からの放射を受け、太陽系空間を飛行するシステム。かつてはSFの域を出なかったが、近年開発が進み、2002年にはNASAが推進システムとして採用、開発が加速していた。これは新素材の開発にもつながり、今回のセールのアルミ素材は普通の紙の約40〜100分の1の厚さを実現している。

太陽からの太陽風や太陽放射は、常に莫大な量が流れ出している。我々のイメージする“風”とは大きく異なり、密度も小さいが、大きな帆で受け続けることで徐々に加速され、最終的には化学燃料などの力を借りずに、大きなスピードを得ることになる。

外太陽系やその外へ飛行するための最大の障害は“時間”。現在は冥王星までも早くて10年はかかる。だが、セールシステムはこの問題を解決する手段として注目されている。

ソーラーセールは、日本も宇宙空間における実験帆の展開には成功している(世界初)。また、米惑星協会はロシアのボルナロケットで大型セールの打ち上げを2度行っているが、共に失敗している。【SpaceDaily 09.28】

<追加情報 06.22.2005>

AP電が報じたところによると、民間団体の米惑星協会(本部:パサデナ)は22日、太陽光の力を動力に宇宙空間を進む太陽帆船「コスモス1」を前日に打ち上げ、船体の位置などがつかめないでいることに触れ、「プロジェクトは事実上、失敗した」との認識を示した。コスモス1は2001年にも打ち上げに失敗している。

位置を特定する作業は続けているが、その望みは「1%」の確率、とも認めた。ただ、「後悔はしていない。将来の事業につながるものだ」と意義を強調している。

コスモス1はロシアで製作、打ち上げ事業費は約400万ドル(約4億3000万円)。宇宙プロジェクトでは異例の低コストになっている。

船体は21日、北極圏バレンツ海にいるロシアミサイル原潜から打ち上げられた。協会は、6時間にわたり船体との交信はなかったとし、失敗説が強まったが、さらに分析したところ、信号を送っていたことをつかんだ、と述べていた。ただ、当初の予定より低い軌道を飛行している可能性があるとし、位置は不明とも述べていた。【CNN/他 06.23】

…写真は2001年に打ち上げ失敗したボルナロケットが潜水艦に搭載されようとしているところ。ボルナロケットは原潜発射型核ミサイルを改造したもの(要は、民需転換)で、核弾頭の代わりにコスモス1が搭載されている。でも、こうも失敗続きだと、ボルナの信頼性自体が揺らぎますね。。

ちなみに、私はミリタリーに詳しいわけではないのですが、潜水艦のハッチや発射口は重要機密だと聞いたことがあります(写真では丸出しですが・・)。潜水艦の最大深度はハッチの構造や厚さできまるとのことで、専門家が見たらどの程度まで潜れるのか一発でわかるのだとか・・まあ確かに、耐水圧のファクターは、ハッチの強度で決まるというのはわかりやすいですね。

いつでしたか、テレビ局の取材で、海自潜水艦のハッチの撮影はモザイクがかかっていたのを見た覚えがあります。

どうも情報が錯綜しているようです・・「打ち上げは成功し、軌道にある帆船からの電波を捉えた」「打ち上げは成功したが、その後行方不明になっている」「打ち上げそのものが失敗、大気圏離脱ができず落下した」などと混乱気味。。(-.-; 

現段階では、「打ち上げ84秒後にエンジントラブルがあった」ということ、「打ち上げ数時間後、米国とチェコ、それにロシア・カムチャッカのトラッキング(追跡)ステーションで弱いシグナルを記録していた」ということが発表になっています。しかしメディアの中には「失敗」と伝えるところも多くみられます。

多くの期待を受けていた「太陽帆船」のテスト機が22日、ロシア・北方艦隊の潜水艦より発射されたが、上昇途中でコンタクトが途絶え、その後何の応答もないという。

関係者によると、現在も帆船の状態は不明とのことで、通信回復を試みているという。ロシア各地の通信所でもシグナルを受信できず、失敗の公算が高まっている。

この帆船は「コスモス1」と名付けられているもので、かつても打ち上げに失敗している。打ち上げにはロシアのミサイル原潜に搭載されているボルナロケットが用いられている。【SpaceDaily/他 06.22】

<追加情報 06.10.2005>

太陽光の力を受けて宇宙空間を進む「太陽帆船」の本格的な飛行に、米民間組織「惑星協会」が21日、世界で初めて挑戦する。ロシアのロケットを使い、バレンツ海の潜水艦から地球の周回軌道へ打ち上げる計画。

太陽帆船は、巨大な帆で太陽から放出される光を受け、その圧力で前進する。太陽光からの推進力は弱いが、帆船は光を受けている限り加速を続けることができ、燃料を運ぶ必要もないため、効率の高い動力として注目されている。

(管理人注:イラストは太陽からビームが出ているように見受けられますが、これは“四方八方へ流れ出る”光やイオン流の一部が描かれたものです)

「コスモス1」と名付けられた惑星協会の帆船は、高度約800キロの軌道に達したところで、長さ約15メートルの薄い羽根8枚を組み合わせた風車型の帆を広げ、加速を始める。24時間後の時速はわずか約160キロ。しかし、仮にこのまま3年間加速を続ければ、時速16万キロ以上に達する。これは、太陽系のはずれに位置する冥王星に約5年間で到達できるスピードである。

太陽帆船の研究に取り組んでいるのは、惑星協会だけではない。米航空宇宙局(NASA)は先月、真空の実験室で試験飛行を行った。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は昨年8月、宇宙空間で太陽帆を展開する実験に成功している(右写真)。

惑星協会のプロジェクト責任者、ルイス・フリードマン氏は「今回の飛行が成功すれば、太陽帆の技術は宇宙探査に変革をもたらすだろう」と話す。太陽光を反射する帆は、地上からもはっきりと観測できるという。【CNN 06.09】

<追加情報 02.16.2005>

下の方で記載している「ソーラーセイル」に関して。イタル・タス通信がセイルを製造しているラボーチキン社のスポークスマンの発言として伝えるところによると、セイルの打ち上げは4月に延期されるという。【SpaceTravel 02.16】

故カール・セーガン氏の妻が主催するメディアグループ「コスモス1」と惑星協会(Planetary Society)関係者の出資の下に続けられているソーラーセイルプロジェクトに関し、今年3月、セイルがテスト発射される見通しが立った。

ソーラーセイルは、その名の通り、宇宙空間を進む「帆掛け船」(イラスト)。ロシアの戦略ミサイル原潜より、弾道ミサイルを改造した「ボルナロケット」で発射され、高度800キロに到達、1枚15メートルの帆を8枚展開し、太陽から流れ出るイオン流(太陽風)を受ける。テストでは、太陽風を受け、どのような加速を示すかなどが試される。

このソーラーセイルは2001年7月に一度打ち上げられたものの、システムの一部が作動せず、失敗。2001年末に再び打ち上げられる予定であったが、相次ぐトラブルで2度延期となり、今度の3月へとずれ込んだ。セイルはロシアのラボーチキン社で組み立てが行われ、ロシア北方・ムルマンスク市の海軍基地に停泊する原潜に輸送される。ムルマンスクは、ロシア北方艦隊の母港。

原潜は出航後3日で予定海域に到達、発射する(イラスト)。

なお、各種データは電波で送信されるのと同時に、米国、ロシア、それにチェコの光学望遠鏡で直接観測が行われる予定。【Spaceflight Now 02.14】