宇宙食のお味は?

初版: 11.30.2003  追加: 07.28.2005

宇宙開発というとどうしても宇宙船の技術やコストに目を奪われがちだが、忘れてならないものが1つある。それは、食事だ。

宇宙での食事はなかなか厄介である。というのも、重力が無いため皿に盛ることができず、ましてスープなどの液体は丸くなってプカプカ浮かんでしまう。最悪、霧状になって船内に充満しかねない。初期の宇宙飛行においては、ちょうどセメダインのようなチューブに、糊状に加工された食物が練り込まれ、飛行士達はそれをひねり出して口の中に含んでいた。いわゆる「元祖・宇宙食」というものだが、栄養学的には計算されていたものの、人間の食事スタイルからはほど遠く、お世辞にもうまいものとは言えず、評判はすこぶる悪かった。現代でもこのスタイルは基本的にまだ克服されておらず、せいぜい、セメダインチューブが輸血用血液を入れるようなパックに置き換わったくらいだ。

ただ、味や食感は近年かなり進化している。写真はNASA(米航空宇宙局)のSpace Food Systems Laboratory(宇宙食研究所)で、Chris Hadfield飛行士が宇宙仕様のチョコレートケーキを試食しているところ。このチョコケーキは乾燥後、パック詰めにされ、食する際は水を加えて元に戻すようになっている。背後では、研究所の主任・Vickie Kloeris女史が、彼の表情を見つめている。気になるお味は…?「ビミョ〜」とか言ってたりして(笑)

宇宙飛行士達の最も要望の高いメニューはエビで、そのあとにスープなどが続くという。どれもレストランで見られるようなものばかりだが、宇宙でも食べられるようにするには、大変な手間と労力が掛かっている。

各食材は洗濯物乾燥機のような大型装置に入れられ、5日ほどかけて乾燥の後、パック詰めにされて真空密閉される。ただ、一度封をすると、約3年は保存が効くという。

国際宇宙ステーションでは1日3食+おやつが用意されているが、開発費や加工費などを考慮すると、1食あたり約100ドル(約1万1千円)のコストがかかっているという。ちょっとしたコース料理だ。1つの食品がモノになるまで約6〜8ヶ月の開発期間がかかるとKloenis女史は語る。

また、失敗も多い。かつて、トマトソースのかかった魚料理を開発したこともあったが、すこぶる評判が悪かったという…魚は難しい食材の1つで、その臭いが問題だとか。トマトソースで臭いを打ち消そうと考えたらしいが、かえって逆効果になってしまったのだ。

ちなみに過去3年間で50種類の"新製品"を開発したそうで、今年の感謝祭(11/27)には、ステーションの搭乗員達は宇宙仕様の七面鳥を食した。もちろんパック詰めで、水を加えて温めるタイプではあるが…味は、通常となんら変化はないそうだ。【CNN】

<追加情報 07.28.2005>

「ディスカバリー」には、日清食品(本社・大阪市)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同開発した宇宙食ラーメン「スペース・ラム」が積み込まれている。27日午前、発案者で日清食品創業者会長の安藤百福さん(95)が、大阪府池田市の「インスタントラーメン発明記念館」でラーメンを報道陣に初めて公開。おいしそうに試食した後、「夢のような話を実現できて大変うれしい。私も宇宙にぜひ行きたい」と話した。

宇宙食ラーメンは、01年から研究に着手。通常のラーメンだと、めんと汁が無重力空間では飛び散ってしまう。このため、透明パックの容器に塊状となっためんと、乾燥させた具材やスープを封入。シャトル内で使用可能な70度のお湯を注いで5分で戻り、はしやフォークでとろみのついたスープにからめて食べる。味付けは、宇宙で好まれるやや濃いめにしたという。1958年に開発された世界初の即席ラーメンの基本製法である「瞬間油熱乾燥法」も生かされている。

スペース・ラムの「ラム」はラーメンの略。しょうゆ味をベースにしたレギュラーとカレー、みそ味のほか、野口聡一さんのリクエストに応え、とんこつ味も用意した。スペースラムは28日から同記念館で展示する。市販の予定はないという。【毎日 07.28】

<追加情報 05.01.2005>

日本人宇宙飛行士・野口聡一さんのスペースシャトル「ディスカバリー」初搭乗を前に、米国とロシアの宇宙食40点の比較展示や、宇宙食のもちの試食を楽しめる「宇宙食館」が4月、北海道余市町の余市宇宙記念館にオープンし、人気を集めている。

同記念館は「冷戦時代に宇宙開発競争を繰り広げた両国の違いが一目で分かる内容。食を通じ宇宙を身近に感じてほしい」としている。

米航空宇宙局(NASA)製は、フリーズドライのポテトグラタン、ピラフなど10点で、余市町出身の毛利衛さんが宇宙で食べたものも。ロシア製は、チューブ入りのボルシチや缶詰の調理肉など30点。主に2001年に役目を終えた宇宙ステーション「ミール」で使われたものだという。【共同 05.01】

<追加情報 04.24.2005>

日米など15カ国が共同で運用する「国際宇宙ステーション」の通常メニューに日本食を加えることを、計画に参加する国・地域の専門家が集まる「多数者間医療パネル」が決めた。日本人宇宙飛行士が、自分だけの特別食としてスペースシャトルでカレーや日の丸弁当を食べたことはあるが、各国の飛行士が自由に味わえるステーションの通常メニューに、日本食が登場するのは初めてだ。

ステーションの通常メニューは現在、米国とロシアの料理だけだ。しかしステーションには各国の飛行士が入れ替わりで、半年前後も長期滞在する。

このため、多数者間医療パネルが「各飛行士の好みに合わせた食事が望ましい」と提言。「米露の食品が中心だが、日本、カナダ、欧州の食品も追加可能とする」と、各国料理を通常メニューに加えることを認めた。

日本は07年にステーションに取り付けられる実験棟「きぼう」を打ち上げる。その後、日本人宇宙飛行士がステーションに乗り込むのに合わせて、日本食が採用される見通しだ。

採用が検討されているメニューは、山菜ごはん、さんまのかば焼き、緑茶、5月に打ち上げ予定の米スペースシャトルに搭乗する日本人宇宙飛行士の野口聡一さん(40)がリクエストしているラーメンなど35品。米露の宇宙食は高脂肪高カロリーのものが多く、ヘルシーな日本食には他国の飛行士の期待も大きいという。

宇宙飛行士の毛利衛さんは「味が繊細で健康的な日本食という『文化』が宇宙開発に貢献できる意義は大きい」と話す。【毎日 04.24】

開発中の宇宙日本食

【主食】おにぎり、白米、赤飯、山菜ごはん、白がゆ、紅ざけがゆ、玄米がゆ、しょうゆラーメン、カレーラーメン、シーフードラーメン

【副菜】完熟トマトと魚介のリゾットソース、五目ごはんソース、ビーフカレー、ポークカレー、チキンカレー、いわしトマト煮、さばのみそ煮、さんまかば焼き【汁物】卵スープ、わかめスープ、すまし汁

【デザート】ソフトクッキー(ブルーベリー、ごま)、黒あめ、ミントキャンデー、練りようかん、クリようかん

【飲料】緑茶、ウーロン茶【機能性飲料】野菜ゼリー(ニンジン、リコピン強化)、アミノ酸ゼリー

【調味料】トマトケチャップ、野菜ソース、マヨネーズ