タフな微生物!

初版: 11.08. 2005

2005年5月から6月にかけて欧州宇宙機構(ESA)がロシアと共同で実施した「フォトンM2」ミッションにて、真空中に曝された地衣類が、極限の環境に耐え抜いて生きていたことが明らかにされた。

このミッションはバイオリサーチを主目的としたもので、ロシアが製造した無人宇宙船に各種実験装置や生物を搭載し、約半月の間、地球を周回させるというもの。この間、宇宙環境における強い放射線や、無重力などが生命体にどのような作用を与えるのか、観察される。

この宇宙船は1960年代にソ連が用いた有人宇宙船「ボストーク」と形状がほぼ同じ(下写真・左上)。茶色の球形カプセル内に各種装置や資料が搭載され、一部はカプセルの外壁へも搭載されている。任務終了後は、このカプセルが帰還する(カプセルの頭にくっついている帽子のようなものは電池)。カプセル内には植物やバクテリアなどが積まれていた。

ところで、カプセルの外壁にはESAが開発した「ビオパン」(Biopan)と呼ばれる円筒形の筒(写真・左下)が装着されていた(同・右下)。この中には「地衣類」と呼ばれるコケの一種が納められており(同・右上)、宇宙空間ではこの筒が開放され、同植物は真空・強放射線・強温度変化の極限環境に曝されるようになっていた。植物がどのような影響を受けるかを調べることで、放射線などに対する生命の耐久力などを調べることができるという。

             
                    フォトンM2                 搭載の地衣類

              
                   ビオパン                 取り付けられたビオパン

地衣類は菌類の一種で、藻類と共生をする特徴がある。藻類は光合成を行い有機物を合成し、その一部を菌類に与え、一方、菌類は藻類の生活に適した環境を提供するという、共存共栄の状態。

地衣類は地球上でも、極限の環境を耐え抜くことで知られている。1つのエコシステムが完成しており、もはや一種の“コロニー”ということもできる。

5月31日に打ち上げられたフォトンカプセルは、約15日間地球を周回し、その間、この植物は宇宙空間に曝された。その後カプセルは地球に帰還、回収され、調査が続けられてきた。

その結果、藻も菌も、細胞が傷むこともなく、宇宙環境を耐え抜いたことが確認された。このことは、地衣類は極限の環境をフルに耐え抜く力を備えていると断言できるという。

(右・回収された地衣類の電子顕微鏡画像。Fungal Cells は菌細胞を、Algal は藻細胞を指す)

今後の実験は、さらに突っ込んだ事柄に焦点が移ることになりうると、関係者は語る。例えば、小隕石についた地衣類は、大気圏突入に耐えるかどうか、といったことである。

また今回の結果は、地衣類は火星地表でも生き抜く可能性を持つことを示唆するともいう。追実験では、このような点も焦点になるという。【ESA 11.08】

<以下は、フォトンカプセルの回収記事です>

ロシアと欧州宇宙機構が共同で打ち上げた生物科学調査カプセル「FOTON-M2」が6月16日、カザフスタンの草原に帰還した。飛行期間は16日間であった。

FOTON(フォトン)カプセルはガガーリンら、ロシアの最初の6飛行士が搭乗した「ボストーク」宇宙船をベースに開発された科学実験用の無人宇宙カプセル。ボストークと異なるのは、約半月にわたって各種観測器機を稼働するための大型電池がカプセルの先端に搭載されているところ。

初飛行はロシアがまだ旧ソ連だった1985年で、微少重力下における物理現象などの研究プラットホーム。このFOTONと極めて類似の無人宇宙船に「BION」というものがあるが、こちらは生物科学の実験プラットホーム。後年、BIONの内容はFOTONと統合されている(確か、BIONカプセルのホンモノが日本にあったはず・・バブルの頃にどっかの自治体が買ったという話があったような?)。

FOTONミッションはこれまで14回行われ(1回は失敗)、うち最初の4回は純粋にソ連単独のミッション。欧州宇宙機構が製作した実験プラットホームが最初に搭載されたのは1991年で、以後これまで、両者は深く関わり合ってきた。

今回のFOTONーM2カプセルは総重量385キロで、流体物理や生物学、水晶の結晶成長や微少隕石などに関する総計39の実験・観測装置がゴテゴテと搭載されている。生物としては、イモリやサソリなどが格納されていた(無重力に慌てた?でしょうねぇ・・(笑))。

(写真は搭載されていたESA製作の科学プラットホームの1つ。弁当箱のような感じで、ニートに詰め込まれたデザインが好きです・・)

FOTONーM2は高度300キロの軌道を16日間飛行後、逆噴射エンジンを45秒噴射、その30分後に大気圏へ突入し地上へ帰還した。次回のミッションは来年が予定されている。【Spaceflight Now/ ESA 06.17】