故郷へ、最後のささやき

人間が作ったもので、最も地球から遠いところにあるものは何か?…それは、以前ご紹介した米国の惑星探査機・ボイジャー1号だ。この探査機は1977年に打ち上げられ、木星・土星を探査の後、太陽系を飛び出したのだった。一連の探査は、同年に打ち上げられた姉妹機・ボイジャー2号と合わせて、「ボイジャー計画」として知られる。

ところでこのボイジャー計画に先立ち、初めて木星・土星へ到達した惑星探査機がある。それは1972年に米国が打ち上げたパイオニア10号と11号だ。10号は木星に史上初めて接近、11号は木星に加えて土星へ接近、初めて至近距離から美しいリングの映像を送ってきた。また、10号は木星接近後、太陽系を飛び出した最初の探査機となった。

パイオニア10、11号は、太陽系外惑星までの飛行を目指して設計された、最初の本格的な長距離探査機であった。火星より先ではもはや太陽電池は役にたたないので、電力源として原子力電池が積まれ、地球との交信を保つための大型パラボラアンテナが据えられている(写真)。このデザインは今日まで続く、外惑星探査衛星の基本スタイルにもなった。

両機は、真の意味で“パイオニア”(先駆者)だったといえる。火星と木星の間には“アステロイドベルト”と呼ばれる大小無数の小惑星が散らばる空間があるのだが、学者の中には、そこを通り抜けることは不可能だと主張する者も多かった。だが、両機はその空間を難なくすり抜け、ベルトが意外と“スカスカ”であることを知らしめた。また、現在はボイジャー1号に記録を塗り替えられたが、それまでは人類が作ったものが出した最速記録(時速4万4000km)も保持していた。

両機には、「宇宙人へのメッセージ」が積まれている。これは、著名なSF作家カール・セーガン氏(故人)と、地球外生命の可能性に関する議論で知られるフランク・ドレーク教授の提案でセットされたもの(写真)。比較的有名なものであるので、イラスト等で目にしたことがある方も多いと思う。探査機のイラストに重ねて男女の裸体図が描かれており、この対比が人間のサイズを示唆している。下部には太陽と9つの惑星が並び、探査機がどこからどう飛んできたのかが描かれている。他にも基礎情報が盛り込まれているが、どれも「これを拾う知的生物なら、何を言いたいのかわかるだろう」という期待の元で描かれたものだ。

そのパイオニア10号が打ち上げられて昨年でちょうど30年になるが、今だ、それからの電波が受信できるという。一方、11号の方は、95年11月を最後に、完全に途絶えてしまっている。どうやら電池が切れたようだ。

打ち上げ日であり、満“30歳”を迎えた昨年3月3日には、10号のデータは完全に受信された。だがその後、交信が途切れがちなり、7月には電波が出ているのはわかるが、データ解析は不可能の状態に陥った。このような遠方の探査機からのデータは、NASA(米航空宇宙局)の“深宇宙ネットワーク”と呼ばれる、世界中の超大型アンテナ群で受信するのだが、10号の信号は、その能力のほぼ限界に近い状態まで弱ったと言える。

先月、エンジニア達は再び10号からの信号をキャッチすることに成功した。だがやはり、解析できるだけの強さは無かったという。2003年1月1日現在、地球から121億3000万km = 光速で11時間10分 = 冥王星までの距離の2倍の所を飛行中。交信が途切れるのは時間の問題となったが、NASAは10号のささやきを最後まで追い続けるようである。【photo:NASA】

パイオニアの現在の位置は、こちらで見ることができます!このサイトはビジュアルで見るには一番でしょう。
http://heavens-above.com/solar-escape.asp

追加情報(06.05. 2006)

「パイオニア・アノマリー」と呼ばれている謎がある。「パイオニア」とは米国の探査機パイオニア10号と11号のことで、両者は30年以上前の70年代、木星と土星の探査に打ち上げられ、両惑星に関し多くの成果を残したことで知られている。両者とはその後も定期的な交信が続けられ、膨大な飛行データが残されているが、それらを解析した結果、両機が計算による予測コースからずれながら飛行していることが判明した。

このズレは小さいものの、無視もできないというようなレベルのもので、JPLのジョン・アンダーソン博士の研究チームが発見したもの。探査機は予測よりも、約30万km手前を飛行しているという。この距離は広大な宇宙空間では微小なものであるが、しかし、理論のズレとしては無視できないレベルのものとされている。この原因としては、「星間プラズマや太陽風による影響」、「搭載されている原子力電池から放射される熱が関わる力」、「ダークマターの影響」、「まだ知られていない、未知の力学からの効果」などが提唱されているが、決着はついていない。

ところで。この正体を突き止めるには、より詳しい飛行解析が必要だが、実は現在までに解析された分は、過去30年間のストックのうち僅か11年分なのだという。しかもその膨大なストックは今、散逸の危機にあるという。これを保護しようと動き出したのが、米惑星協会だ。

飛行データは、具体的には、シグナルのドップラーシフトだといい、殆どが旧式の巨大な7ないし9トラック磁気テープに記録されているもの(右)。しかも、この保存作業にNASAからの資金提供は無いという。

このため惑星協会は、データの保存を訴え、数ヶ月前から義援金の提供などを呼びかけてきた。そしてこの結果、大部分の未解析データの無傷保存にこぎ着けたという。しかも、探査機自身の状態データや科学データが、NASA・エームズ研究センターから回収されたというオマケ付きだった。これらのデータは「マスター・データ・レコード」(MDR)と呼ばれるものに集積されており、通常の保存期間は僅か7年とされている。だが幸運にも、過去30年にわたる両探査機のマスターデータが回収され、現在の記憶媒体への移し替えが行われている最中とのこと。

MDRには探査機内の温度などのデータが残されており、この変化を追うことで原子力電池からの熱の動向と、ひいては「パイオニア・アノマリー」の追跡に役立つことになるという。

なお、パイオニア11号は95年11月に電波が途絶え、10号の方は2003年1月に受信されたのが最後だった。今年3月上旬、微かな望みをかけて再度、電波の受信が試みられたが、それらしきシグナルを受信することができなかったという。詳しくはこちら。【Planetary Society 06.05】

追加情報(03.01.2003)

米航空宇宙局(NASA)・ジェット推進研究所(JPL)は2月25日、パイオニア10号からの電波が事実上途絶えたと断定した。1月22日に交信が成功したが、やはり受信能力の限界に近いものであった。その後2月6日にコンタクトが計られたが、もはや応答が無く、1月22日のものが最後であったと見なされた。ご苦労様でした。

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