恒星の進化とフシギ

初版: 11.22.2005

現在わかっている恒星の中では最も質量が大きく明るい「エタ・カリーナ」と呼ばれる恒星が、連星系であることが最近の観測でわかった。NASAの遠紫外線観測衛星「FUSE」による発見である。

エタ・カリーナは「りゅうこつ座η(エータ)星」とも呼ばれ、写真で撮影すると巨大なガス雲に包まれ、実像を捉えることができない恒星として知られる(下)。この恒星は太陽質量の約100倍以上という大質量を有し、これは、恒星が単独で安定して存在することのできる限界質量に迫る値。それ故、中心部でのエネルギー生成も規模が大きく、光度は太陽の500倍を超えるとも言われている。
                 
この恒星は明るさが大規模に変化することでも知られる。現在は双眼鏡などがあれば光を肉眼で捉えることもできるが、今から約160年前の1843年には、シリウスの次に明るく輝いたという記録がある。シリウスは地球から8.7光年の距離にあり、太陽以外で全天で最も明るい恒星。しかしエタ・カリーナは7500光年の距離にありながら、シリウスに迫る明るさで輝いたというのだから、そのエネルギーの大きさは想像を絶する。

ちなみにもっとも古い記録は1677年に残されたもので、この時はかろうじて肉眼で観測される程度の光度だった。これが1730年にかけて増光し、全天でも明るい恒星になったものの、その後1780年頃にかけて減光。しかし、1820年頃から再び増光を起こし、1843年に全天で2番目の明るさに達したと言われる。その後減光し、現在に至る。

このように光度が変化するのは、周囲を取り巻くガス雲の動きによるものと考えられている。右はハッブル宇宙望遠鏡が1996年に撮影したエタ・カリーナの姿だが、双方向へ突出したガス雲(ローブ)が特徴的。中心部の恒星本体はガスに隠されて可視光では見ることができない。

1843年の増光は大規模な爆発によるものとされ、ローブはその時放たれたものと考えられている。この時の爆発はちょっとした超新星爆発に匹敵するものだったと推測されているが、全体が吹き飛ぶのはかろうじて避けられたと見られている。ローブは現在も膨張を続けており、その速さは時速240万キロ(!)。

ただ、この天体はその質量が大きすぎる故に中心部での燃料消費も早く、寿命は数百万年と見積もられている。向こう100万年かそこらのうちには大爆発を起こすと考えられており、これは超新星爆発(Supernova)を凌ぐ、“極超新星爆発”(Hypernova)であろうと言われている。

さて、最近の観測で、この巨大恒星が伴星を持つことが明らかになったという。「エタ・カリーナのパートナーはこれまで、観測から身をかわしていたんだね」と語るのは、カトリック大学(ワシントン)の研究員ロジナ・アイピング氏。「この発見は、この謎めいた恒星の理解に大きな前進を与えるものになるよ」

研究者達の間ではこれまで、エタ・カリーナは単独恒星ではないものと思われてきた。この恒星のこれまでの不可解な振る舞いは、伴星を考慮に入れれば説明がたやすかったからだ。

エタ・カリーナはX線を発するには温度が低すぎると考えられてきたが、実際にはX線が観測されてきた。しかも奇妙なことに、5年ごとに、3ヶ月間の期間限定でX線が消滅するのも観測されてきた。研究者達は、エタ・カリーナ(主星)から流れ出るガス流が伴星に流れ込む際に発する高温源からX線が発せられ、連星系の公転に伴い、5年おきにX線源が地球から見て隠れる方向に位置するのだろうと考えてきた。

今回の発見は、この推論を直接証明するものとなる。

(右の画像は1999年にNASAのX線観測衛星「チャンドラ」により得られた画像。低、中、高エネルギーX線の3データを合成したもので、上のハッブルにより得られた画像とは大きく異なる。この画像はX線の放射分布を示していると考えればよく、中心領域(青)では強いX線が放射されていることを表している。この高エネルギーX線放射の発見が、主星から伴星へのガス流の存在、すなわち伴星の存在、が認識されるきっかけとなった)

伴星の発見は、この周期的なX線の“消滅”を利用してなされた。FUSE衛星はX線が“消滅”する直前に伴星から放射されると思われる遠紫外線(X線よりはやや低エネルギーだが、通常の紫外線よりは高エネルギー)をキャッチし、主星がX線を隠した(消滅した)直後にこの遠紫外線の消滅も観測したという。

このことにより、遠紫外線源は伴星であろうという結論に達したという。

              

(上は、エタ・カリーナ主星(A)と伴星(B)の想像図。主星から伴星へ流れ込むガス流がX線を放っている領域が弓形の部分。AとBの距離は地球−太陽間の10倍程度しかない・・これは、太陽−土星間と同程度。詳細はこちらをごらんください)

この発見に関する論文が、「アストロフィジカル・ジャーナル」(ApJ)のレターズ11月1日号に記載された。【NASA/FUSE Science Summary/Space.com 11.02 】

…放射光と線源をもう一度まとめておきますと、X線(超高温)>遠紫外線(伴星=主星よりは高温)で、X線はエタ・カリーナ主星から伴星へと流れるガス流で生じる超高温領域から発せられ、遠紫外線は、エタ・カリーナ主星よりも高温の伴星から生じています。高温であるほどエネルギーが高い放射光が発せられます。(Space.comの記事はNASAのリリースを基に書いたと思われますが、この部分がちょっと混乱して記述されているようです…元の記事はこちら