半世紀越しの論争に幕

初版: 05.01.2003 追加: 09.03. 2008

1953年11月15日、早暁。米オクラホマ州のアマチュア天文家レオン・スチュアート(Leon Stuart)は、自慢の天体望遠鏡にカメラを装着、東の空に昇った月の撮影を始めた。それは、彼にとっては特別難しいことではなく、目をつぶってもできるような作業であった。11月の、しかも早朝という最も冷え込む時に、彼は防寒着に身を包み、月を追う。それは、単によい画像を撮るためか、それとも、世紀の発見を目指してなのか…天文愛好家だけが共有できる世界を満喫する彼。だが、その中の一枚に、その後約50年に渡る論争の種があろうとは、その時はまだ知る由も無かった。

フィルムを処理し、乾いた印画紙を眺めた時、そこに不自然な白点があるのに気づくまで、そう時間はかからなかった。それは月の暗影の縁にあったが、明らかに太陽の光が当たらない領域であった。

彼はそれを「隕石が落ちた瞬間に生じたフラッシュ」と結論、その後、多くの研究者の目にとまることになった。だが、「流星では?」と反論も多く、探査機が飛び、ついには人間が月へ到達した時代になっても、結論は出ぬまま「スチュアート・ミステリー」として受け継がれてきた(左写真の中央右・小さいがくっきりとした白点)。仮にクレーターができていたとしても、地上の望遠鏡では見えないほど小さいからだ。

ところが先日、米航空宇宙局(NASA)・ジェット推進研究所(JPL)のブラッティ博士(Bonnie J. Buratti)らが決着をつけた。彼らはこの写真から、衝突した天体のサイズを約20mと推定、予想されるクレーターの直径を1.5kmと見積もった。その上で、月を周回する探査衛星・クレメンタインにより94年に撮影された高解像写真を再解析した結果、まさに“それ”はあった!周囲のものとは違う、新しくて際だったクレーター。

スチュワートは史上唯一人、月へ隕石が激突した瞬間に居合わせ、記録した人物となった。【NASA/ JPL News】

<関連情報 09.03. 2008 追加>

8月上旬に活動するペルセウス座流星群。先月9日、アメリカ大陸の東西で月を観測していたアマチュア天文家が、月にインパクトする流星を観測、記録することに成功していた。

下は、米国東岸のメリーランド州在住のジョージ・バロー氏が自宅で観測したフラッシュ。光度は7等より少し暗い程度で、20センチ望遠鏡に低解像度デジタルビデオカメラを装着して撮影したものだという。

            

一方、その1時間後、米大陸西岸・カリフォルニア州在住のロバート・スペルマン氏もデジタルカメラで月にインパクトする流星を観測した。彼は24センチ望遠鏡を用いての成功だった(こちら)。

月に衝突する流星は、“プロ”であるNASAも2005年より観測を続けている。これは同国が進める新宇宙計画の一環で、将来月面基地を建設するにおけるリスク計算などの基礎データ収集の目的がある。調査はマーシャル宇宙センターで行われているが、05年以降、100個以上のインパクトが確認されている(これまでのリスト)。

二人のアマチュアが観測した時間帯、マーシャルでは時間の関係から観測することができなかった。それ故このようなアマチュア天文家による観測は間を補完するものとして非常に重要なものとなる。

詳しくはこちらへ【NASA 09.02】

<関連情報 12.25. 2007 追加>

2007年12月14、15日の夜、ふたご座流星群の流星体によるとみられる月面衝突閃光の検出に、日本の観測者らが成功しました。しし座流星群、ペルセウス座流星群に伴う閃光については、多地点からの同時観測によって、その存在がすでに確実になっていますが、ふたご座流星群については1地点からの観測は報告されているものの、信頼性の高い多地点同時観測は今回が世界で初めてとなります。(下・滋賀県の石田さんによる撮影)

                  

これらの観測は、電気通信大学の柳澤正久 (やなぎさわまさひさ) 教授が中心となって、鹿児島県薩摩川内市のせんだい宇宙館などを通じて呼びかけられました。これに応じた東京都練馬区在住のアマチュア天文家、唐崎秀芳 (からさきひでよし) さんと、滋賀県守山市在住のアマチュア天文家、石田正行 (いしだまさゆき) さん、電気通信大学の池上裕美 (いけがみひろみ) さん、石榑勇介 (いしぐれゆうすけ) さんらの観測によって、月面衝突閃光によるとみられる4例の発光が捉えられたのです。このうち3件は滋賀県と東京都の2地点から同時に同じ位置に観測されており、月面での現象であることは間違いないと考えられます。また、神戸大学の阿部新助 (あべしんすけ) 助教は、兵庫県立西はりま天文台公園でカラービデオカメラを用いた観測を行い、これら3つの閃光を確認しました。カラー観測の成功はおそらく世界初であり、詳しい解析結果が待たれます。

詳細な方向や画像はこちらこちらへ【国立天文台アストロ・トピックス355 12.25】

<関連情報 08.01. 2007 追加>

スチュワートの撮影したフラッシュについて、新説が…(下のリンクにはスチュワート撮影画像の大きいサイズ有り)
http://www.space.com/scienceastronomy/070730_gassy_moon.html

これは地下から吹き出したガスによるものとのことです。月探査衛星などで観測されたガス濃度の高い地点と一致するとのこと…

<関連情報 06.13. 2006 追加>

今年5月2日、NASAの研究者らは月を観測中、「雲の海」と呼ばれる領域に閃光を認めた。これは、月面に隕石が落下した瞬間を捉えたものだった!

その閃光はホンの一瞬であったが、およそTNT火薬4トンの爆発に匹敵し、直径14m、深さ3mのクレーターができたものと推定されている。なお、この時のフラッシュは、ビデオにも記録されている。これまでにも同様のフラッシュは記録されたことがあったが、今回のは最もよい状態であるという。

公開されているビデオ画像は7倍スローで再生されているもので、通常の速さだと肉眼では気付かない。フラッシュの継続時間は僅か0.4秒という(下は激突した地点とその周囲。こちらのページの真ん中に動画有り)。

             

この記録より、激突の際のエネルギーとクレーターの規模、それに隕石のサイズとスピードが見積もられた。エネルギーとクレーターは上述したとおりだが、隕石のサイズは約25cm、スピードは秒速38km程度とみられている。

ところで、NASAは再び月面へ人間を送ろうとしているが、このような隕石の危険性はないのだろうか?これは当然憂慮すべき問題であり、いま正に、どの程度の頻度で隕石が落下しているのか調査が始まったばかりだ。具体的には、月の夜の側のワッチを望遠鏡でひたすら続けるのだ。そして、今回の隕石落下は、その観測の中で捉えられたものなのである。詳しくはこちらへ【NASA 06.13】

<関連情報 12.24. 2005 追加>

月面に隕石が激突する瞬間が撮影された。月面の西側、「雨の海」と名付けられている領域の中にそれは落ち、一瞬の閃光を残して消えた。しかしこの時、新しいクレーターが誕生したのであった。(…雨の海は、アポロ15号が着陸したところです)

このような、月面に隕石(流星)が落ちる現象は珍しくはないのだが、これまではっきりと記録されたのは1999年が最初。今回の観測は11月7日、アラバマのNASA・マーシャル宇宙センターの自然科学部門に所属する宇宙環境チームによりなされた。

隕石は約12cm程度の大きさと見られ、落下地点には直径3m、深さ40cm程度のミニクレーターができたと推測されている。爆発の規模はTNT火薬で70キログラム。

「閃光は、7等星ぐらいの明るさだったよ」と語るのは宇宙環境チームのメンバーで、月面隕石衝突を研究しているロバート・サッグス氏。これは、裸眼で見える最もくらい星よりもやや暗い程度の明るさ(…天王星が衝のとき約6等で、海王星が約8等ですから、その間です@管理人)。
          

ところで、サッグス氏は特殊な装置を用いたのではない。市売のソフトウェアとビデオ装置を使っただけだ(上は1/30秒間隔でコマ切れにした映像)。

他の可能性は考えられないという。そのゆっくりとした減光、それに、一点での(動きのない)閃光は、隕石で間違いないとのこと。人工衛星という可能性もあるが、しかし、それであれば僅か5フレームの画像変化でもかなり動いているはずだという。

サッグス氏らは次に、星図と月面図を照らし合わせて考察、その結果、この時期(11月上旬)に特徴的な「おうし座流星群」にまつわるものだろうと結論づけた。おうし座流星群はエンケ彗星のダストが供給源とされている。

この調査活動は、月面へ再び戻ろうとしているNASAにとって、極めて興味深いもの。将来、月面で人間が活動する際、隕石などからどう身を守るかということに関して必要とされる知識となるからだ。

地球の場合は、その厚い大気のおかげで微少隕石は燃え尽きてしまう。しかし大気のない月では、小さいものでもそのまま月面を直撃しているのである。詳しくはこちらへ【Space.com 12.24】

<関連情報 09.14. 2004 追加>

滋賀県多賀町多賀のダイニックアストロパーク天究館は13日、ペルセウス座流星群の流星物質が月面に衝突して起きる発光現象を確認した、と発表した。

衝突が起きたのは日本時間の8月12日午前3時28分。愛知県の一宮高校の地学部が月面での発光現象を見つけたが、原因特定までにいたらなかった。天究館はこのデータを入手し、同館など県内3カ所で撮影された観測画像などと合わせて分析、ペルセウス座流星群の流星物質による現象と突き止めたという。

月面での衝突による同様の発光現象は過去2度、しし座流星群で観測されているが、ペルセウス座流星群では初めて。今回の観測は、同流星群が多く見られる時期を選び、電気通信大の柳澤正久教授が観測を呼びかけていた。【京都新聞 09.13.2004】