文明の名残?/火星のニコちゃん

初版: 05.23.2003 追加: 09.21.2006

1976年7月31日、NASA(米航空宇宙局)は火星探査機「バイキング1号」が撮影した写真の一枚を公開した(右下写真)。特に多くを語る必要はあるまい。当時、一大センセーションを引き起こした一枚だ。

17世紀初頭、ガリレオが望遠鏡を発明して以来、この惑星に関する観測は多くの人によってなされてきた。接近時には不気味なまでに赤く輝く火星。これは、土壌に鉄分が多く含まれるために赤茶けて見えるためである。

火星を望遠鏡で見ると、薄暗い様々な模様が見られる。これに魅了された米国の観測家、パーシバル・ローウェル。19世紀末から20世紀初頭にかけ活躍した彼は、黒い「すじ」があまりにも規則的に見えたため、「知的生物が作った人口運河ではないか」と考えた。彼は、複雑な幾何模様を描いたスケッチも大量に残した。彼のこの説は非常に評判となり、小説にもなったほどだった(H・G・ウェルズ著『宇宙戦争』)。

だが、他の観測者による観測が進むにつれ、「ローウェルのスケッチはおかしい」という声が出始める。確かに黒い縞模様は見えるのだが、スケッチに残したような幾何模様には見えないのだ。

70年代半ば、アメリカは火星に直接降下して調べるため、探査機「バイキング1号」を送り込んだ。探査機が惑星に近づくに連れ、表面の様子がより明らかになっていく。その結果、「ローウェルの運河」は完全に否定された。そこに映し出されたのは、ただの赤茶けた岩石惑星。火星人ファンをがっかりさせただけだった。

ところが、事態が一変する。バイキングが続く「2号」のための着陸地点を探していた際、たまたま撮られた一枚の写真、これに「人間の顔」が写っていたのだ。

この「火星のファラオ」は、意気消沈したマニア達を蘇らせるには充分過ぎるものだった。縦の長さは約3km。「単なる光の悪戯に過ぎない」と発表するNASAに対し、「実は、政府は火星人の存在を知りながら、隠しているのではないか」等という陰謀説の方が一人歩きを始める。「画像処理をしたら、影の部分にも目鼻口の構造がある」という魅力的な?解析結果を発表する者まで現れた。だが、決定打を欠いたまま、歳月だけが過ぎ去った。

1998年4月、米国の火星探査機「マーズ・グローバル・サーベイヤー」は22年ぶりにこの地を撮影。しかし、当時とは打って変わって「顔」など無く、単なる丘陵地形を露にしただけだった。

更に今年4月、再び近接撮影に成功、その画像が5月下旬、公開された(右写真)。なんとなく顔の形に見えなくも無いが、やはりバイキングが送ってきたようなはっきりとした形を見るには、無理がある。レーザーを用いた高精度の高度測定でも、目や鼻、口といった特徴の存在は否定された。ただ、地質学上は非常に興味深い地形であり、古代の海洋ともかかわりがあると考える研究者もいる。

ところで、火星には「ニコちゃん」もいる。

右写真は、火星の表面にある「ニコちゃんマーク」英語では“Happy Face”というらしいが…。

この写真は、米の火星探査機“マーズ・グローバル・サーベイヤー”により近頃撮影されたもの。これは火星の南半球にあり、以前からGalle Craterという名で知られている、直径約230kmのクレーターだ。南半球が冬の季節に入るときに出現する期間限定?の模様だとか。【NASA/ JPL】

※マーズ・グローバル・サーベイヤーなど、火星周回機の画像を解析する会社のHPに、これら「火星の顔」をまとめたページがあります。英語ですが、詳しく解説してありますのでオススメです↓

http://www.msss.com/education/facepage/face.html

<追加情報 09.21. 2006>

欧州宇宙機構(ESA)の火星周回探査機「マーズ・エクスプレス」は先頃、あの有名な「火星のファラオ」のステレオ画像を得ることに成功した。この“顔”は1976年7月、NASAの火星探査機「バイキング1号」によって撮影されたもので、「火星人が作ったものだ」という類の話が多数語られることになった。

           

マーズ・エクスプレスは2004年4月から今年7月にかけ、顔が存在する「シドニア地方」と呼ばれる領域の撮影を何度も試みてきたが、ダストやもやのために阻まれっぱなしだった。だが今年7月22日、ついに高解像度ステレオカメラはその領域の撮影に成功、データ解析の結果得られたのが、上である。

データは周回3253周目に得られ、解像度は13.7m/ピクセル。シドニア地方は北緯40.75度・東経350.54度を中心とした領域。このとき得られたデータからは、他にも多くの貴重な情報が得られている。

「得られた画像は、本当にスペクタクルなものです」と語るのは、マーズ・エクスプレス計画に携わる研究者であるアガスチン・チカロー博士。大きいサイズや、その他の画像などの詳細はこちらへ【ESA 09.21】