銀河系の姿と銀河の進化

初版: 12.27. 2005 追加: 06.17. 2006

銀河やその形成に関する追加情報はこちらです)

我々の太陽系を抱く銀河は、渦巻き状に恒星が分布していると考えられている。もちろん、その全景を正確に我々の目で直接見ることはできない…家の中にいては、家の外観を見ることはできないのと同じだ。ただ、電波観測などを通して、「アンドロメダ銀河」と呼ばれるM31銀河(右)に近い形だろうと推測されてきた。

ところでその渦、別の言い方でいうと「アーム」(腕)のうち最も太陽系に近いものはペルセウス座の方向に位置していることがわかっている。最近、この“ペルセウスアーム”までの距離が正確に測定され、その結果、従来言われていた距離よりももっと近いことが判明した。

この距離計測はハーバード・スミソニアン宇宙物理学センターの、マーク・レイド氏率いるチームによって行われ、その結果が12月8日発行の「サイエンス・エクスプレス」誌の電子版に記載された。これは「サイエンス」1月6日号にも記載される予定。

彼らはこのペルセウスアームまでの距離を測る方法として「超長基線電波干渉計」(VLBI)と呼ばれる観測法を用いた。

VLBI は地球上の各地に存在する大型電波望遠鏡を繋ぎ、地球サイズほどに匹敵する実効直径の電波望遠鏡を実現し、クウェーサーなどの天体を観測する方法。近年運用を停止した我が国の電波天文衛星「はるか」は、宇宙空間の電波望遠鏡で、これと地上の大型電波望遠鏡とリンクさせることで、更に巨大な実効直径を持つ電波鏡を実現した。これは「スペースVLBI」と呼ばれている(「はるか」の概要と成果の早見表はこちら。VLBIに関するより詳しい解説は国土地理院のこちらへ。この技術で、大陸の移動などを計測することも可能です)。

「我々は、我々の住む銀河系の構造については、殆ど知らないのだ」とレイド氏はいう。「我々は文字通り、生い茂った木のために森全体が見えない状態なのだ。なぜなら我々は、銀河系の中に埋め込まれてしまっているからであり、また、星間ダストが視野を遮っているからだ」

これまで提唱されてきたペルセウスアームまでの距離は、約2倍の幅で数値が異なっていた。彼らは新しいVLBIの方法を考案し、恒星を入念に調査したところ、ペルセウスアームまでの距離が約6400光年と導き出した。これは精度2%だという。

これは予想されていた距離よりも近いという。

彼らは「年周視差」と言われる方法を用いて星々を計測した。この年周視差とは、観測対象となる近くの恒星の位置が、バックグラウンドとなる遠方の恒星に対して、一年周期でずれて見える現象。地球が公転しているために生じるもので、観測対象が地球から遠いほど、このずれは小さくなる。逆にこのずれを計測することで、観測対象までの距離を知ることができる。

だがこの方法は、驚異的な観測精度が必要とされる。「我々は必要とされる精度を確保しようと、10年以上も費やしたよ」とレイド氏。

彼らが達成した精度は、例えれば、月面に立つ人が懐中電灯をどちらの手に持っているかを識別できるほど。このような精度は、VLBIでのみ実現できる。

彼らのチームは、ペルセウスアームの中に新たに形成されつつある若い恒星群をVLBIを用いて観測した。この恒星群は「W3OH」と呼ばれている。

(右図が、太陽系(Sun)とW3OHとの位置関係。銀河系の構造は図のようになっていると推測されており、W3OHが存在する「アーム」がペルセウスアームと呼ばれている。)

具体的には、14000光年以上の距離の恒星(バックグラウンド)をまず基準とし、W3OHの中の、約6200光年程度と予め見積もられた恒星の観測が行われた。当然であるが、バックグラウンドの恒星も運動している。研究ではそれらのファクターも考慮に入れてある。【Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics 12.27】

<追加情報 11.30. 2005>

太陽系が属する銀河系の立体的な構造図を、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の中西裕之研究員と祖父江義明・東京大教授が、星間ガスから放射される電波の観測データを用いて世界で初めて作成した。

薄い円盤のように広がる銀河系は、その内部にある地球からは、星が帯状に集まった天の川として見ることができる。

銀河系は、きれいな円盤状というより、むしろ一部が膨らみゆがんだ形をしており、従来は6本とされていた渦巻きの腕も5本とわかった。横から見た断面図にすると、星の分布では中央にレンズ状の膨らみがあるが、星間ガスでは平たく見える。

水素原子と水素分子の分布を、オランダやチリなど5か所の電波望遠鏡のデータをもとに、6年がかりで計算した。27日から和歌山市で始まる日本天文学会で発表される。【読売/共同 03.26】


<追加情報 08.17. 2005>

NASAのスピッツァ赤外線宇宙望遠鏡を用いた最新のデータより、我々の銀河系の大まかな形がほぼ確定したことが発表された。「アストロフィジカル・ジャーナル」紙のレターズに記載される。

それによると、銀河中心にやはり腕構造が明確に存在することが明らかになった。やはり、というのは、約10年前に銀河中心に腕構造の可能性が指摘され、研究者の間で議論になっていたからだ。

スピッツァ赤外線望遠鏡はその名の通り、赤外線で宇宙空間を観測する。赤外線は可視光と異なり、チリやガスなどの障害物を透かして見ることができるため銀河の中心などの観測に最適である。【SpaceRef 08.17】

…アストロフィジカル・ジャーナルは天体物理学に関する月刊論文集で、関連大学・学部などで購読されています。“ApJ”と言ったら、この雑誌のことを指します。購読料は約2200ドル!(汗)

我々の銀河は、ということは、「棒渦巻き銀河」という形に分類されることになりますねぇ。ちなみにアンドロメダ銀河は「渦巻き銀河」です。棒渦巻き銀河はいろいろありますが、上の想像図に近いのはうみへび座のM83でしょう。こちらのサイト(にしわき経緯度地球科学館)に写真と各種銀河分類がまとまっています。


銀河やその進化に関連する追加情報です。下に行くほど過去のものです】


<追加情報 06.05. 2006>

画像は、X線宇宙望遠鏡チャンドラにより観測されたM31・アンドロメダ星雲。X線のエネルギーによって色分けされており、赤・低エネルギー、緑・中間、青・高エネルギーにそれぞれ対応している(左は米キットピーク天文台で撮影された可視光画像で、チャンドラによる観測領域が右に抜き出されている)。

             

特徴的なのは、散りばる点状のX線源。この1つ1つは高密度星と巨星からなる連星系に対応している。高密度星とは、ブラックホールや中性子星のこと。これに対し、相方の巨星よりガスが流れ込み、高温となったそれからX線が放射されている。一方、中心領域に集中しているX線源は、恐らく超新星爆発による衝撃波によって数百万度に熱せられている部分と見られている。超新星爆発による高エネルギーが、中心領域からガスを外へ向かって放出させるとも考えられており、これが銀河の形や恒星の誕生に影響を与えている可能性もある。大きいサイズはこちら。【Chandra 06.05】

<追加情報 06.05. 2006>

NASAのスピッツア赤外線宇宙望遠鏡により得られているM31・アンドロメダ星雲の姿は、新しい世界観をもたらすものとなりそうだ。

アンドロメダ星雲は銀河系に最も近い渦巻き銀河で、これまで最も研究されてきた系外銀河。昨年から続けられているスピッツアによる観測は、進化が進んだ恒星や誕生しつつある恒星の分布、腕の形(渦巻)などに関して新しい知見をもたらすものと期待されている。

昨年10月にリリースされた赤外線画像では、恒星の誕生領域が、中心がずれた環状に分布していることがわかる。また、腕の中に“穴”が存在(右下のほう・腕が分裂して間に空間が生じている)し、全体として非対称な形になっているのは恐らく、M31の傍にある衛星銀河が原因と考えられるという。“穴”は、衛星銀河がM31に一直線に突っ込んだ結果、開いたと考えられるという。

            

スピッツアによって観測されたのは、銀河に含まれるダスト。これは恒星によって熱せられ、固有の赤外線を放射している。波長24ミクロンの画像(画像・上)は、18時間に及ぶ撮影で得られた1万1千枚ものショットを合成して作られたもの。可視光(左下)で見た場合と比べ、腕の様子が極めてよくわかる。また、銀河中心領域は進化が進んだ恒星が、その外側には誕生しつつある恒星が分布しているのがわかるという。

(画像中、波長24ミクロンの赤外線は青、70ミクロンは緑、160ミクロンは赤で色分けされており、この画像より銀河の温度分布がわかる。高温の部分は24ミクロン放射、低温の部分は160ミクロン放射が強い。青と白の領域は最も高温の部分で、中心領域と腕に沿った恒星形成領域に目立つ。 詳細と大きいサイズはこちら。観測を行ったアリゾナ大学チームによるリリースはこちら

一方、下はこのほどリリースされた、別の処理を施した画像。上の画像はダストを赤で、進化が進んだ星を青で識別したもので、左下は古い星だけ、右下はダストだけに分解したものである。渦巻き銀河では恒星誕生がダスト内で起こる傾向があり、中心領域には進化が進んだ恒星が集まっている。また、ダストの分布が、銀河中心領域へ向かってツイストしているのがよくわかる。隣接の小銀河M32も写し込まれている。

            

研究チームはこの画像により、アンドロメダ星雲の赤外線波長における全光度も求めている。赤外線光度は恒星の質量に依存するため、赤外線光度を正確に見積もることで、アンドロメダ星雲に含まれる恒星の量を知ることができる。

これによると、アンドロメダ星雲の質量は太陽の約1100億倍になるといい、この数値はこれまで予測されてきた値とほぼ一致する。これは、同銀河には約1兆個の恒星が含まれていることを意味する(大半の恒星が、太陽よりも質量が小さいため)。ちなみに我々の銀河に含まれる恒星は4000億程度と見積もられており、アンドロメダ星雲の方が遙かに多いことがわかる。

成果は5日、現在カナダ・カルガリーで開催されている第208回米国天文学会で発表された。詳しくはこちらへ。【Spitzer 06.05】

<追加情報 05.08. 2006>

我々の銀河系に新たな仲間が2つ増えた。全天の精密サーベイを続けている組織「スローン・デジタル・スカイ・サーベイ」(SDSS)は8日、これまで確認されていなかった2つの矮小銀河を発見したと発表した。

矮小銀河とは、銀河系と重力的に結びついている恒星の集団で、小規模のガス星雲や球状星団のようなもの(例えばマゼラン星雲も矮小銀河の1つ)。銀河系の潮汐力により綺麗な球状を成さないなどの特徴があり、確認は難しいものではないが、暗く、未発見のもの多数あると見られている。

今回発見されたものは、りょうけん座とおうし座の方角に位置する。SDSSの研究員、ダニエル・ズッカー氏と同僚のワシーリ・ベロクロフ氏。ズッカー氏がまずりょうけん座に(左)、続いて、ベロクロフ氏がおうし座に(右)見出した。

           

「その時、北天の天の川をサーベイしているところでした。りょうけん座に密度が高い領域があるのに気付いたのです。より詳しく調べると、それはこれまで知られていなかった矮小銀河であることが確かめられました。距離は64万光年で、これまで知られていた矮小銀河の中でも最も遠方にあるものです。」と語るのはズッカー氏。同氏は発見をベロクロフ氏にメールしたのだったが、その数時間後に来た返信には、ベロクロフ氏もおうし座に発見したというオマケ付きだったという。

この、ウルトラフェイントな矮小銀河の捜索には、非常に関心が集まっている。というのも、現在提唱されている銀河の形成理論とこれまでの観測とに大きな隔たりがあるからだ。

銀河形成理論によると、“冷たいダークマター”から成る数百の塊が銀河を公転しており、個々は、矮小銀河を伴えるほどに充分な質量を持つということになっている。ところが現段階で、僅か10個の矮小銀河が見つかっているだけなのだ。

(“冷たいダークマター”とは、運動エネルギーが質量エネルギーよりも小さい物質で、存在すると言われているだけでまだ実体は未解明。逆の“熱いダークマター”はニュートリノ。正体不明の冷たいダークマターの塊がヴィジブル(可視)な矮小銀河を伴っているのであれば、そのような銀河はもっと見つかってもいいはずですが、それが少なすぎるため、ダークマターの塊というシナリオ自体に首を傾げざるを得ないということですね@管理人)

1つの可能性として、それらがあまりにも小さく、観測に引っかからなかっただけということが挙げられている。詳しくはこちらへ【SDSS 05.08】

<追加情報 04.07. 2006>

右の画像は、X線宇宙望遠鏡「チャンドラ」により得られた画像(青い部分と輝く2点)と、米国立天文台のVLA電波望遠鏡により得られたデータを視覚化したもの(ひも状に伸びた茶色い部分)とを合成して作成された、電波銀河「3C75」の姿。輝く2点の中には超大質量ブラックホールが存在し、その近傍から吹き出すジェット流(ひも状)より強い電波が放たれている。


また、パッと見、ダンベル型をしたこの2点は、合わせて「NGC1128」という符合が付けられた銀河として扱われている(右下・大きいサイズ)。この天体はくじら座に存在する。

元々別々の2つの銀河が融合を起こしつつあるため、ダンベル型という特異な形を成していると考えられている。各々の銀河中心にブラックホールが腰を据えているのだ。

最近のチャンドラとVLAによる観測によると、2つの超大質量ブラックホールは重力的に引き合っていることが明らかになったという。つまり、両者は一過性のすれ違いというわけではなく、互いに周囲を巡り合うような運動をしている。この運動の解析も行われているところとのこと。

この「連星ブラックホール」は、互いが25000光年の距離を隔てている。コンピュータシミュレーションによると、重力波の放射に伴い距離を近づけあい、最終的にマージ、単体の、より重量級なブラックホールが形成されることが見出されている(CGによるわかりやすい動画はこちら)。詳しくはこちらへ【Chandra 04.07】

<追加情報 04.05. 2006>

銀河が、宇宙の巨視的構造に強く束縛されて分布していることを示す直接証拠が初めて確認された。英で開催されている「ロイヤル・アストロノミカル・ソサイエティー」の総会で発表された。

この発見は、銀河形成理論が示す基本的な側面の1つを立証するものである一方、宇宙のマクロな構造とミクロな個々の銀河の属性とを直接結びつけるものとなることを示唆している。

イングランド・ノッチンガム大学とスペインの「インスチツート・デ・アストロフィシカ・デ・カナリアス」の合同研究チームは、宇宙の巨大構造として既に認知されている“ボイド”(空洞)の分析を行った。巨大構造の基礎情報には、「 Sloan Digital Sky Survey」と「Two Degree Field Survey」により得られたデータが用いられた。両者は、10億光年の範囲の散らばる、50万個を越える銀河の位置を正確に計測している。

「無数の円盤銀河を取り囲む巨大構造によって規定される平面に対し、各銀河は円盤面を大きく傾斜させる格好で配列していることを見出しました。各銀河の回転軸は主に巨大構造の“フィラメント”の伸びる方向に向き、また、分析の結果は潮汐トルクの存在も確かなものとしています。このトルクは銀河回転のメカニズムを説明するものです」と語るのは、ノッチンガム大学のイグナチオ・トルヒーヨ氏。

トルヒーヨ氏は、銀河回転はその形態と関係があると考えている。氏は言う、「今回の研究結果は、銀河がどのようにして現在の形を帯びるようになったのかを理解する一歩となるでしょう。」

(要は、銀河が下図のように分布しているということを意味する。一見無秩序な方向を向いている銀河にも、巨視的スケールで見渡すと図のような秩序が存在するということが明らかとなった。なお、こちらの動画が、言わんとすること一目瞭然です!)
             

宇宙空間を広く見渡すと、物質は均一に分布しているのではなく、込み入った複雑なフィラメントからなる“網”と、巨大なボイド(空洞)を包む“壁”を形成していることが知られている。ボイドには銀河の分布が少ない。

天文学者はこの不均一な物質分布を、宇宙の巨大構造と呼んでいる。

ビッグバンの後、物質は均質に分布した。しかし宇宙が進化・膨張するにつれ、重力による引き合いが物質を局所的に寄せ集め、結果として、現在観測されるような巨大構造を作り上げたと考えられている。最近の進化モデルでは、直線状フィラメントの伸びる向きと垂直に銀河が集合するような予測がなされていた。

なお、実体を解明すべくこれまでも観測がいくつか行われてきたが、フィラメントの検出が困難でうまくいっていなかった。詳しくはこちらへ【SpaceDaily 04.05】

<追加情報 04.03. 2006>

地球から100億光年以上かなたの宇宙の果てで見つかった「太古の天体」が、宇宙に多く見られる楕円(だえん)銀河の祖先であることを、専修大の森正夫・助教授=宇宙物理学=と筑波大の梅村雅之教授が突き止めた。生まれたての宇宙で星が誕生と爆発を繰り返しながら銀河に成長していく様子をスーパーコンピューターで再現し、そこから導いた理論値が実測値と一致した。英科学誌「ネイチャー」にこのほど発表した。

森助教授らは、この天体が楕円銀河の祖先であると推測。複雑な物質の移動を3次元で予測する計算モデルを作り、海洋研究開発機構の「地球シミュレータ」を使って、宇宙誕生から約30億年にわたる初期の銀河進化の様子を再現した。

その結果、ライマンアルファ輝線天体は、天体形成の始まりから3億年程度の間にできたと予測された。その正体は、寿命を迎えた星が次々と超新星爆発を起こし、その衝撃波により出来上がった、長さ30万光年もの巨大なガス雲だった。計算で導かれたその光の量は、すばる望遠鏡による同天体の実測データと一致した。

さらに、ガスが「銀河風」として雲の外に吹き出し、最終的に現在の楕円銀河につながったことも導いた。【毎日 04.03】

「ライマンアルファ輝線天体」
ライマンアルファ輝線とは、水素原子から発せられる光で、形成されつつある恒星から比較的強く放射されることが知られている。この光を通すフィルターを用いて空を観測すると、誕生過程にある銀河(=恒星集団)から放射される光だけを狙って拾い上げることができ、それらを「〜天体」と呼ぶ。

ちなみにライマンアルファ輝線は、静止波長では紫外線域だが、超遠方(いうなら、宇宙論的距離〜百億光年のスケール)からのそれは赤方偏移(ドップラー効果)によって波長が伸び、赤外線として観測される。

こうして得られたライマンアルファ輝線天体から、遠方のものを拾い上げ調査することは、宇宙誕生から数億年頃の様子を探ることを意味する。一見地味なこの調査は、宇宙論を検証する重要な基礎データとなる。【管理人】

<追加情報 03.16. 2006>

画像は、NASAのチャンドラX線宇宙望遠鏡により得られたクウェーサー「4C37.43」の姿と、それから予想される周辺の想像図。2003年10月に観測されたデータの分析より、2つのクウェーサー「4C37.43」と「3C249.1」の周辺に高温のガスの存在と、X線放射が確認されたという。これは銀河から吹き出す「スーパーウィンド」の存在を示す強力な証拠となるもの。スーパーウィンドは銀河中心から吹き出す高速のガス流で、クウェーサー(活動銀河核)が動力源となっていると考えられている。
              

左画像で、a、b、c、dとラベリングされたスポットが、X線の放射点。これらは超巨大ブラックホールが存在するとされる中心から何万光年も離れたところに位置しており、スーパーウィンドが引き起こす衝撃波により放射されているのではないかと考えられるという。

また、右画像(大きいサイズ)は周辺の想像図。淡黄色に描かれているのは楕円銀河で、その中心の活動領域がクウェーサー。上下に広がっているのはスーパーウィンドで、中心に存在すると見られる巨大ブラックホールになだれ込む物質の一部が吹き飛ばされたものと考えられている。

銀河どうしの融合がこのようなクウェーサーの誕生の引き金になっていると考えられている。コンピュータによるシミュレーションでは、銀河の融合が中心部へのガスのなだれ込みを起こし、その結果大量の恒星の誕生と中心ブラックホールの成長を引き起こす姿が可能であることが示されている。(単純にいえば、銀河どうしが融合しそのショックで中心部で大規模な活動が生じる=この状態がいわゆるクウェーサー・フェーズ、となります@管理人)

なお、過去1億年間で殆どのガスが銀河中心から吹き放され、恒星の大量生産と中心ブラックホールの肥大化は終わりを告げようとしている。クウェーサー・フェーズはまもなく終了し、銀河は落ち着きを取り戻すことになる。詳しくはこちらへ【Chandra 03.23】

<追加情報 03.16. 2006>

画像・左は、「葉巻銀河」と呼ばれて有名なM82銀河の可視光画像。これをNASAのスピッツア赤外線宇宙望遠鏡で撮影したのが右で、可視光画像と大きく異なって見えるのがわかる。可視光では非常に形のよい姿をしているのだが、赤外光ではその周辺に“煙”が漂っているのがわかる。正に“葉巻”だ。

             

スピッツアの撮影した画像より、銀河周辺(ハロー)に高温のダストが充満しているのがはっきりと分かる。際だたせるために赤く着色されているのがそのダストで、これは、銀河の星々(青色)によって吹き放たれているものである。

分析の結果、ダストには炭素の化合物である多環芳香族炭化水素(PAH)が含まれていることが判明した。この化合物は、地球では車の排気ガスパイプやバーベキュー用品といった燃焼が関わるところに見出されるもの。

M82はおおぐま座の方向へ約1200万光年離れた所にある。この銀河はスターバースト銀河とも呼ばれ、銀河中心部では大量の恒星が誕生している。同銀河の近くにはM81銀河が存在し、その重力作用がこのような恒星の誕生を促しているものと考えられている。

なお、画像中、青色は波長3.6ミクロン、緑・4.5ミクロン、赤・5.8および8.0ミクロンの波長に対応していることを表す。また、恒星からの寄与(5.8〜ならびに8〜ミクロンの波長域)は処理を施して消し去られている(ダストを際だたせるため)。詳しくはこちらへ【Spitzer 03.16】

<追加情報 03.16. 2006>

「DNA星雲」とでも命名したらどうでしょう…

NASAのスピッツア赤外線宇宙望遠鏡により先頃、銀河系中心から約300光年離れた場所に、「2重らせん構造」をしたガス星雲が存在するのが発見された。長さは差し渡し80光年に達するという。16日発行の「Nature」誌に論文が記載される。

「DNA高分子に見られるような、2本のワイヤーが絡み合っている姿です。未だかつて、宇宙規模でこのようなものは見出されたことはないですね。殆どの星雲は渦巻き銀河か、不定形をしたガスやダストですが、いま我々が見ているのは、高度に秩序立てられているものですね」と語るのは、UCLA・物理天文学教授のマーク・モリス教授。

この2重らせん星雲は、極めて淡い。そのため画像はディテールが際だつように着色されているのだが、この観測を可能にしたのは、未だかつて無い高感度と分解能を備えたスピッツアの威力だ。

(右はその姿。確かに2重らせん構造に見える。なお、丸い粒々は赤色巨星ないし超巨星。通常の恒星(主系列星)もこの空間には多く存在するが、淡すぎて写っていない。大きいサイズ

ところでなぜこのような構造が生じたのか。モリス教授らは、強力な磁場の影響によると考えている。教授は言う、

「銀河中心部には強力な磁場が存在し、それは高度に秩序立てられ、磁力線は銀河面に垂直に走っています。もし磁力線が根元でねじられたら、全体がねじられることになるんです」

わかりやすい例として、教授は厚手の細長いゴムバンドを挙げる。ゴムひもの一端をねじると、バンド全体がねじれる状態だ。

2重らせん星雲は銀河中心から300光年の距離にあるが、これは本当に、“郊外”ともいうべき中心部近郊になる。ちなみに我々の太陽系は、ずっと遠い、約25000光年の位置にある。300光年の距離では、磁場の強さは太陽系周辺よりも1000倍以上も強い。

ただ、太陽面に見られる磁場の強さに比べると、1000分の1程度の強さ。だがその巨大なスケールは、銀河中心部における各種活動に大きな影響を与えていると考えられている。

また、この磁力線のねじれが生じる原因としてモリス教授は、銀河中心に座る巨大ブラックホールは直接的には関係ないと考えており、むしろ、その周辺を取り囲むガス円盤が重要ではないかという。

ガス円盤は約10000年の周期でブラックホールの周囲を回っている。この周期が、2重らせんのねじれを説明するのにちょうどうまい具合にフィットするという。くわしくはこちらへ【UCLA 03.16】

<追加情報 03.06. 2006>

右は、おおぐま座の方向、地球から5000万光年の所に位置する銀河「NGC2841」の可視光画像に、NASAのX線宇宙望遠鏡チャンドラがX線で観測した画像を重ね合わせたもの。銀河(可視光画像)の周囲を囲む青く彩られたシミのような部分(X線画像)は数百万度の高温ガスで、X線が放射されている。

銀河内において巨星や超新星爆発により吹き出された高速のガスが“泡”や“殻”を形成し、それが銀河円盤よりちょうど煙突から出る煙のように、銀河を取り巻くハローへ向かって放出されていると考えられている。チャンドラのこの画像は、それを裏付ける直接証拠となるもの。“銀河煙突”は高温で重元素をタップリ含んだガスを吹き出している。

画像は2004年12月18日に撮影された。【Chandra 03.06】


<追加情報 02.17. 2006>

銀河を包むX線の源は、大量の白色矮星…このほど発表される論文によると、長年謎だった、銀河を包むX線背景放射(銀河X線)は高温ガスが起源ではなく、膨大な量の点源、しかも白色矮星である可能性が高いことが明らかになったという。

この結論を得たのは、研究を主導している独マックスプランク研究所のミハイル・レフニフチェフおよびセルゲイ・サザノフの両氏が率いる研究チーム。関連する2本の論文が「アストロノミー&アストロフィジクス」(A&A)誌の近号に記載される予定。

銀河X線背景放射とは、1970年代に気球観測によって発見されたもので、銀河円盤面になめらかに沿うようにX線源が分布していることで、銀河中心に向かうにつれ強度がピークを迎えることが知られている。「チャンドラ」や「XMM-ニュートン」といったX線宇宙望遠鏡ではその放射源を“点源”に解像することができなかったため、高温ガス雲を起源にするものと考えられてきた。

ところが、NASAのX線観測衛星RXTE(Rossi X-ray Timing Explore)で得られたデータを解析した同チームは、RXTEにより10年間で得られたX線放射分布と、1990年代初めにCOBE(Cosmic Background Explore宇宙背景放射観測衛星)により得られた近赤外線放射分布とが極めてよく一致することを見出した。近赤外線放射は個々の天体が起源であることがわかっているので、両者が一致するという事実は、銀河X線が高温ガスではなく、個々の天体から放射されているものであることを強く示唆している。

             

(上は、RXTEとCOBEで得られたデータを重ね合わせたもの。銀河の輪郭はRXTEで得られ、着色された部分はCOBEで得られたもの。両者が完全に一致しているのは、X線放射が天体の分布に沿っていることを意味する。これはつまり、銀河X線放射は大量の、極めて弱い個々の線源に起因し、これまで考えられてきた高温ガスによるものではないということを示唆している。)

「300光年以内の近傍のX線源は、その殆どがガスを降着させている白色矮星です。」と語るのはレフニフチェフ氏。彼らは銀河X線放射源として、およそ100万個の白色矮星ではないかと提唱している。チャンドラでは感度不足で、個々の線源を分離して捉えることができなかっただけだという。

白色矮星と巨星からなる連星系の多くでは、巨星の外層ガスが白色矮星へと流れ込み(降着)、高温ガス円盤を形成、X線を放射している。【Sky & Telescope 02.17】

<追加情報 02.15. 2006>

例えるとすれば、粉々に砕いたようなガラスの結晶…そのような小さなシリケイト(ケイ素)結晶をザクザク(?)と携えた、衝突銀河が発見された。

このような、我々の銀河の外に、結晶ケイ素(クリスタル・シリケイト)が確認されたのは初めてのこと。スピッツア赤外線宇宙望遠鏡による観測で明らかになった(右・想像図)。

「宇宙の、ある種最もバイオレントな領域に、そのようなデリケートで小さなクリスタルが存在していることに驚いているよ。このような類のクリスタルは簡単に壊されてしまうものだが、この場合むしろ、寿命末期の大質量恒星による攪拌でクリスタルが形成されているのではないだろうか」と語るのは、コーネル大学のヘンリック・スプーン博士。博士は今月20日、「アストロフィジカル・ジャーナル」誌に記載が予定されている論文の主著者。

今回の発見は銀河の進化を理解するにあたり、よりよい情報を提供するものと見られている。例えば我々の銀河についてもしかりで、数十億年後にはアンドロメダ銀河との衝突が起こると考えられている。

「それは言うなら、衝突している銀河の中心に、巨大なダスト嵐が起こっているようなものだ。」と語るのは、NASAのスピッツア・サイエンスセンターのリー・アームス博士。

ガラスのようなシリケイト物質は、クリスタル化するためには熱を必要とする。この宝石のような粒子は、我々の銀河の、ごく限られた領域に見出されている。地球上では砂浜に見出すことができ、また、夜空に流れる流星がばらまくダストの中に見出すことができる。また最近、ディープ・インパクト探査機により、テンペル1彗星にも同様のクリスタルの存在が確認されている。

この衝突銀河は正に、クリスタル粒子を周囲に身にまとっているようなもの。このような、明るく輝く、ダストリッチな銀河は“Ulirgs”(ultraluminous infrared galaxies = 超輝度赤外線銀河)と呼ばれている。

では、このクリスタルはどこからきたのか?研究者達は、銀河中心の大質量星がそれを作り上げているのではないかと考えている。スプーン博士によると、大質量星が超新星爆発を起こす前後で形成しているという。だが、デリケートなクリスタルは長期間留まることはできない。すなわち、(折角できあがったクリスタルも)爆発の爆風で粉々に砕かれてしまうだろうという。

「2台の小麦粉を積んだトラックが激突して、巻き上がった粉塵がしばらくの間現場を覆い尽くしている状況を想像してみてくださいよ。そのような状況です」とスプーン博士。なお、観測された77のUlirgsのうち、21にシリケイト・クリスタルが確認されている。残りの56は、いま正にクリスタルダストがたち始めた直後か、もしくは、既にクリスタルが失われてしまったものかだという。詳細はこちらへ。【Spitzer 02.15】

<追加情報 02.16. 2006>

すばる望遠鏡の活躍です!

ちりに覆われた暗い銀河の中心部に、太陽の100万倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールが潜んでいることを国立天文台などのチームが、ハワイのすばる望遠鏡の観測で突き止め、16日発表した(右・想像図)。

可視光で見える明るい銀河の多くには、中心に超巨大ブラックホールがあることがエックス線観測などで分かっているが、暗い銀河は観測が難しく、内部は不明だった。

研究チームは、すばる望遠鏡を使って2002−05年にかけて、地球から数億−20億光年先に分布する暗い銀河約50個について、銀河を覆うちりが温められて放つ近赤外線の波長を詳しく分析した。

この結果、うち約20個の銀河の波長に、ちりの分子が壊れたことを示す特徴があることが判明。ブラックホールに物質が落ち込む際に出る強いエックス線によって、ちりの分子が壊されたと結論付けた。【共同 02.16】

…国立天文台によるリリース記事はこちらへ。一般向けとはいえ、密度の高い内容で、教科書の1ページとしても価値あると思います。なお、この記事に限らず、すばる望遠鏡サイトの記載記事はとても勉強になります。

<追加情報 02.09. 2006>

星を“剥がされていく”星団が確認されました…

「我々の太陽近傍や殆どの星団を構成する恒星は低質量だが、欧州南天文台(ESO)の望遠鏡を用い観測したメシア12(M12)星団には、その典型は当てはまらないようだ」と語るのは、研究を主導するGuido De Marchi氏。

研究チームはへびつかい座にある球状星団・M12(地球から約23000光年)に含まれる16000以上の恒星の光度と色の観測を行った(右)。観測に用いられた装置は南米・チリのセロ・パラナルにあるESOの望遠鏡が用いられ、裸眼で見ることのできる明るさの4000万分の1の光度(=25等級)の星までサーベイが行われた。

「驚いたことに、M12には低質量恒星は存在しないのだ。太陽のような恒星に関しては、その半分の質量(=低質量)の恒星がざっと4倍ほど存在すると思っていたのだが、しかし、実際は殆ど同じ数だったというわけだ。」とDe Marchi氏は語る。

これはつまり、数が多いはずの低質量星がどこかで失われたことを示唆する。

球状星団は楕円軌道を描いて銀河を周回しており、恒星密度が高い銀河円盤を通過することもあれば、円盤から離れ、ハロー領域を運動することもある。銀河円盤を通過する際、周囲の重力の影響を受けるなど星団が乱され、その際、最も小さな恒星ははぎ取られてしまう可能性がある(右・想像図)。

「M12は現在持つ恒星の、4倍もの数を失ったのではないかと見積もっている。これは、ざっと、100万個の恒星がハロー内にまき散らされてしまったことを意味している。」と同氏は言う。

M12の“余命”としてに残された時間は、約45億年と見積もられている。このタイムスパンは、一般的な球状星団の寿命−約200億年−と比較すると遙かに短い。

研究チームは1999年、やはり同様に、大量の恒星を失った球状星団を見出している。彼らはより多くの球状星団を研究し、銀河ハローの形成プロセスに関わるダイナミクスなどを見出すことを目指している。

ちなみに球状星団を構成する恒星は同時に、同じ場所に誕生し、ただ、質量だけが異なっているのみ。恒星の明るさを精密に測定することで、それらの相対サイズや進化の段階を知ることができる。このため、球状星団は恒星進化の理論検証には最適なテスト環境となっている。【ESO 02.09】

…要は、銀河がまさに“追い剥ぎ”を働いている格好になるというわけで。。

<追加情報 02.04. 2006>

NASAのX線宇宙望遠鏡チャンドラが観測した渦巻き銀河「NGC5746」。観測により、銀河の周囲に高温ガスの巨大なハロー(銀河を取り巻く球状領域のこと)が存在することが明らかになった。ハローは6万光年以上のスパンで広がっている(右・青く輝いている領域)。

この銀河は新しい恒星の形成を示す兆候はなんら示さないし、また、銀河中心部における活動も観測されていない。普通、高温ハローは銀河から吹き出すガスで形成されているため、この銀河はちょっと風変わりである。コンピュータシミュレーションによると、この高温ガスの起源は、銀河外からゆっくりと降着してくる星間ガスであり、このガスは銀河が形成された時に(周辺に)取り残されたものと考えられるという。

渦巻き銀河は、大量の星間ガスが収縮し、円盤を形成と共に恒星を生み出していく結果、できあがると考えられている。今回の観測と分析から示唆されることは、巨大渦巻き銀河は、銀河形成プロセスから取り残された高温ガスの中に“埋もれてしまう”ということである。

銀河の周辺に存在する高温ガスはこれまで、恒星の誕生など活動が活発な銀河で見られていたが、銀河に降着していく形の高温ガスは検出されたことがなかった。実際、NGC5746の周囲のハローは極めて希薄で、チャンドラのような強力なX線望遠鏡でないと検出が困難だった。

この発見はまた、銀河形成理論で既に予言されていた高温ハローの存在を確認したことにもなり、研究者達は喜んでいるという。【Chandra 02.04】

<追加情報 01.13. 2006>

「虚業」という言葉がありますが、ここでご紹介するのは「実態の見えない銀河」です。「虚銀河」?

恒星が1つも存在せず、単なる水素ガスの固まりである電波源「VIRGOHI 21」。昨年2月、地球から5000万光年の距離、おとめ座銀河団に発見されたこの天体(と言っていいのかな?)は、可視、赤外、紫外、いずれの光も発さず、ただ電波のみを放射している極めて奇妙な存在。

以前にも同様の天体が発見されたことがあったが、それはその後のより精密な望遠鏡観測で、恒星の存在が明らかとなっている。しかしこのVIRGOHI 21は、恒星が1つも含まれていない、正真正銘の“ダーク銀河”。

             

(左・楕円内にその虚銀河は存在する。中性水素から発せられる波長21cmラジオ波が英・ジョドレルバンク電波望遠鏡でとらえられ、プエルトリコ・アレシボ電波望遠鏡の追観測により存在が確証された。右は電波の強度分布を示した図。中性水素の分布を示していると考えることができる。)

ところでその後の観測により、このダーク銀河は回転をしており、また、質量が太陽の10億倍程度であることがわかったという。しかも中性水素はそのうちの1%程度で、残りはいわゆる「ダーク・マター」と見られている。ダーク・マターは宇宙論でも大きな問題の1つで、その正体は今だはっきりとしない。

更に、このダーク銀河はNGC4243(M99)銀河の不自然な形に大きく関与していると考えられるという。

M99銀河は渦巻き銀河であるが、渦の形の一部が不自然に広がっているのが明らか(右)。長年、なぜこのような形になったのか謎であったが、実はこのすぐ傍にVIRGOHI 21が存在することが、要因として可能性大というのだ。

銀河の変形は一般に、その近傍に別の銀河などの重力源が存在することで生じる。

M99の場合は、過去、ダーク銀河「VIRGOHI 21」の重力により引き延ばされ、一時的な“アーチ”を形成、渦の腕が変形させられたとする。その後、ダーク銀河が動くにつれ両者は離れ、伸びた腕が再びM99本体に戻ったと考えると、無理がない。

(画像は、波長21cmで観測されたM99近傍。M99本体は左上に存在し、VIRGOH1 21は中央右に存在する。両者を繋ぐように伸びるのが中性水素ガスで、上文の“アーチ”の名残と考えられる。ちなみに、左下のループ状のものは別の銀河(NGC4262)。)

この変形に関し、研究チームは別の可能性も検討してきたものの、ダーク銀河説が最も無理がないという結論に至ったという。研究チームの一人、カーディッフ大学のマイク・ディズニー教授は、「新たな観測により、より一層、VIRGOHI 21がダーク銀河だという結論が固まってしまったよ」と語る。

チームは更なるダーク銀河の発見を目指しているという。【PPARC 01.13】

…詳しくはこちらへ。上の新発見は、先頃開催された米天文学会総会で報告されました。それにしてもこれまた奇妙ですね。この“水素雲”の状態で一体何百、何千万年漂っているのでしょうか・・恒星の誕生条件に大きなヒントを与える予感もします。。それに、ダークマターは結局なんだのだろう。。

<追加情報 01.10. 2006>

NASAのチャンドラX線宇宙望遠鏡による楕円銀河の集中観測で、その見た目からは想像もされなかったような活発な活動が中心で起こっていることが明らかにされた。現在開かれている米天文学会総会で発表された。

楕円銀河はその名の通り、恒星が楕円状に集合してできあがっている銀河。我々の銀河系やアンドロメダ銀河などの渦巻き銀河とは大きく異なり、殆どの恒星が寿命末期にある。ごく一部の例外を除き、これまで、楕円銀河内では大規模な活動はないものと考えられてきた。

ところが、チャンドラによる56個の楕円銀河の観測により、その奥深く、中心部には大規模なエネルギー活動が存在することが明らかになった。

この研究を主導しているオハイオ大学のトーマス・スタットラー助教授は、「殆どの楕円銀河は昔から“さざ波のない湖のような、おとなしい場所”として考えられてきた。だが我々の調査結果は、これらの銀河が想像以上に荒々しいということを示しているよ。」と語る。

かつてのX線観測による研究では、楕円銀河には、温度が数百万℃に達する高温ガスは全体質量の数%程度であろうということを示していた。あわせて、激しい活動も長期に渡って停止しているものとみなされてきた。それ故、そのようなガスは平衡状態に落ち着き、球形をなして分布しているのではないかと予測されてきた。

ところが、高解像度のチャンドラが、その予測を覆したというわけだ。

(下はチャンドラが観測した銀河の中の6個。それぞれ、青い方がX線域で、白黒が可視光で撮影された姿。X線で撮影された姿と、可視光のそれとは、大きく異なっているのがわかる。X線で撮影されている各画像で、白く輝いている部分は周囲よりも高温・高エネルギー状態といえる。こうして得られたX線の波長と強度を調べることで、X線の由来を辿ることができる。)
             

ではこのエネルギーはどこから来るのか?考えられるものとしては、超新星爆発があり得るが、しかし、より確実性の高い候補が登場した。それは、超大質量ブラックホールだという。

詳しい分析によると、高温ガスの形状と、高エネルギー電子に起因するエネルギーに相関関係があるという。この高エネルギーの出所を辿ると銀河中心部に行き着き、そこには超大質量ブラックホールが座っているのだという。

これまで、銀河団に属する巨大楕円銀河(通常の楕円銀河の10倍以上)の中心にはブラックホールが存在することは知られていたが、彼らの研究により、通常の楕円銀河にもブラックホールが存在することが明らかになったのである。【NASA 01.10】

…より詳しくはこちらへ。それにしても、興味深い事実ですね。おとなしそうに見えるヤツほど、何を考えているかわからないってやつかな(笑)なんて^^;

<追加情報 12.22. 2005>

生まれたばかりの銀河が、宇宙の2割を占める謎の「暗黒物質」とみられる塊の中に存在する様子を、2つの研究チームが国立天文台のすばる望遠鏡(米ハワイ島)を使って観測した。星が1000億個程度集まった銀河の誕生や成長に暗黒物質が深く関与しているとの理論が、初めて明確に裏付けられた。同天文台が22日発表した。

米航空宇宙局(NASA)が2003年2月に発表した天文衛星「WMAP」の観測成果によると、宇宙は約137億年前に誕生。宇宙の質量のうち、星やガスなど人類が知っている物質は4%しかなく、謎の暗黒物質が23%、アインシュタインが予言した暗黒エネルギーが73%を占める。

米宇宙望遠鏡科学研究所の大内正己研究員らはすばる望遠鏡を使い、地球からくじら座の方向に約120億光年も離れた若い銀河を約1万7000個観測。また、国立天文台の柏川伸成主任研究員らは、かみのけ座の方向に約120億光年離れた銀河を約5000個、約125億光年離れた銀河を約800個観測した。【時事 12.22】詳細はこちらです。

…ということは、星がまずできて、それが集積して銀河ができたのではなく、一気に恒星の集団が誕生→銀河というプロセスということになるのかな。銀河形成プロセスは単純ではないのでしょうけど、恒星集団のイッキ生成ということであれば、渦巻き銀河にどう進化していくのか、そこら辺が今度は議論になりますね。面白い!

<追加情報 10.06. 2005>

銀河の中心で渦を巻きながら巨大ブラックホールに飲み込まれるガスとみられる物質の動きを、国立天文台と筑波大、千葉大の研究グループが確認した。札幌市で6日から開催の日本天文学会で報告する。

同グループは、長野県にある野辺山宇宙電波観測所の電波望遠鏡で、地球から約2億5000万光年のかなたで衝突した2つの銀河が合体しつつある銀河「アープ220」から放出される電波を観測。分析の結果、銀河中心でアンモニア分子が最大秒速約900キロの猛スピードで動いていることが分かった。【共同 10.06】

<追加情報 09.21. 2005>

ハッブル宇宙望遠鏡を用いて撮影されたアンドロメダ銀河M31の中心部に、これまで考えられたことのなかった構造が発見された。

これは、M31銀河の中心部に存在するブラックホールの周囲の狭い範囲に、青く輝く領域が存在するというもの。この青く輝く領域は、若く、高温の恒星が密集して円盤のようになっていると考えられるという(画像)。

                  

なぜブラックホールの近傍にこのような恒星集団が形成されるのか、研究者達は混乱を隠せないという。そのような領域ではブラックホールによる潮汐力が巨大で、安定して恒星が形成されるとは考えにくいからだ。

この青い領域は400個以上の恒星からなると見られており、約2億年前に形成されたと考えられるという。この領域は1光年の範囲で、これは宇宙のスケールから言えばかなりの極小領域。ちなみに画像で赤い領域は、これまでも観測されてきた比較的古く、低温の恒星で形成されている部分。

一方、この“恒星円盤”の存在は巨大ブラックホールの存在の証拠の1つともなりうるといい、1988年に出された、M31の中心部にはブラックホールが存在するという仮説を支持するともいう。ただ、これは決定的な証拠というわけでもないとのこと。【Spaceflight Now 09.21】